第11話 主従とは何か
最近、ミラちゃんの様子がおかしい。
どうも、みなさん。サラ・マリー・グリーンです。
ミラちゃんの様子がおかしい。最近、そう思うようになった。
彼女は最初、私に対しても心を開いてくれなかった。というのも、彼女は人間自体が嫌いなようだった。
けれども、ニック伯爵の件以来私に対してだけは心開いてくれるようになった。
正直に言うと、ミラちゃんとは仲良くなりたかったし、とても嬉しかった。
あれだけ私に対して懐いてくれずに露骨な態度で避けていた子が、あの一件以来従順になってくれるのは興奮するわ。
…ってそうじゃない…本音が漏れてしまったわ。
従順なのは確かだ。確かなのだが、その他に問題があると言ってもいい。
彼女の人間嫌いは彼女の過去が原因なのは間違いないとして、私に心を開いてくれたのは良い事なのだが、私以外の人間に対しても心を開いてくれたわけではなかった。
この前もこんなことがあった。
私たちが生活必需品を買いに行くために商店街に行った時のことだ。
私の前に一人の男が蹲っていた。その男は、家が貧乏で親の病気を治すためのお金がなくて困っているそうだった。
その男が私たちにお金を恵んでくれと懇願してきた。
私は迷わず自分の財布から所持金を取り出そうと懐に手を伸ばした。
私には一切の迷いがなかった。
目の前に困っている人がいて、自分でも力になれるからだ。だって、困っている人を助けるのは当然でしょう?
そんなことを考えながら懐に手を入れると、私の隣で浮遊していたミラちゃんがその男の頬を右腕で殴ったのだ。
私は困惑した。何故、ミラちゃんがこんなことをしたのか理解できなかったからだ。
「主、この男半殺しにしましょう。二度と虚言が吐けないように。」
過激すぎない?ちょっと怖い。
ミラちゃんはたまにこういった過激なことを言うのだ。
「うん、絶対駄目。というか、どうして罪のない人を殴ったの?」
「!?どうしてですか!?この男は主を騙そうとしたのですよ!?」
「騙す?どういうこと?」
私は思わず首を傾げる。
「……!」
その様子を見てからミラちゃんが、私のことを捨てられた子犬を哀れな目で見るかのような視線を送った後、手のひらを額に当てて溜息を零す。
その態度で私はますます状況が理解できなくなった。そして、殴られた男が起き上がる。
「ひ、ひぃ…!お前が悪魔の人形か!」
「悪魔はあなたたちでしょう。」
「くっ…!やってられるか!」
そう言い、殴られた男はそのまま慌てて逃げだす。
私は男の言葉に憤怒する。ミラちゃんのことを、悪魔呼ばわりしたからだ。
いくら困っている人でもその言葉は聞き捨てならなかった。
悪魔?とんでもない!
こんなに愛くるしい人形が悪魔なわけがない。
ミラちゃんは悪い子じゃないわ、むしろ天使よ!!
…それにしても、ミラちゃんはもう少し人を信じるべきよね。
私はこの出来事に対してそう思ったのだった。
主従とは何か?
ふとそんなことを考えてみる。
主従とは、主人と従者がいて初めて成り立つ関係だ。
私が従者でサラが主。最初はそこに不満を抱いていたが、今はない。
私は自分の実力を確かめるためにサラと真剣勝負をして、勝利することができた。しかし、その勝負では傀儡魔術は使わなかった。
傀儡魔術を使わなかった理由は、自分の力が傀儡魔術なしでどれだけ通用するかを測るためだ。
魔術師は近接戦に弱い。しかし、私の場合は体が特殊なため多少の無茶もできる。
傀儡魔術も万能ではない。
多少の統率は可能だが、統率の取れた軍隊に比べると質は劣る。そのため、私が使ったとしても連携不足でかえって邪魔になる。
下手をすれば悪化していただろう。傀儡魔術を使い、サラと戦ったとしても決着はつかなかった。
そう断言できるくらい彼女は強かった。というよりも、私が使うよりも彼女が傀儡魔術を使用する方が一日の長がある。
相手の方が経験で勝っているのにわざわざ同じ土俵で戦っていては勝機が薄い。だから、私は接近戦で彼女に勝負することを選んだ。
その結果、勝利することができた。作戦勝ちというのはこういうことね。
サラは本当に危なっかしい人だと、最近特に思う。この前も、彼女は道で蹲っていた男に騙されそうになっていた。
彼が詐欺師であることを伝えてみたが、彼女は理解できていなかった。
恐らく頭の知能指数が足りていないのだろうと私は思った。その出来事に私は思わず溜息を零した。
私の主、サラはアホなのだ。
魔術を扱える知能はあるのにそれをどうして他に活かせないのか?
理解に苦しむ。それと、詐欺師の男が私を悪魔呼ばわりしていた。
失礼な奴よね。人を悪魔呼ばわりするのよ?というか、私詐欺師界隈では悪魔の人形と呼ばれているのか。
今考えるとそれもそうかと思う。事あるごとに、サラを騙そうとする輩は全員ぶん殴ってきたもの。
そう呼ばれても不思議じゃない。天使というより悪魔よね、あいつらからしたら。
…それにしても、サラはもう少し人を疑うべきよね。
私はこの出来事に対してそう考えていると―――。
「すーはー、すーはー…。」
私の頭上から荒い息遣いが聞こえてくる。
私たちは今彼女の部屋にいる。
私はサラの膝に乗り、彼女に抱きしめられながら、彼女は恍惚とした表情で私の髪を嗅いでいた。
「…。」
何が楽しいのだろう。私の髪の匂いを嗅いで良い事でもあるのだろうか。
サラがたまにやる変態的な行為は、私には理解ができなかった。
「あー、たまんないわぁー。」
変態だなこいつ。
…まぁでも、彼女には感謝しているし、このぐらいなら…。
「ひっ…!」
私は自分の胸がまさぐられる感触を覚える。この体、痛覚はないが肌に触れられた感覚はあるのだ。
私の胸を触れる人物なんて、一人しかいない。サラだ。
人の許可なく胸をまさぐるなど、現代であれば強制わいせつ罪で捕まっていただろう。
ちょ、くすぐったい!
「あ、主…。」
「むふふ…。」
あ、駄目だ。人の話が聞こえてないパターンだこれ。
…仕方ない。
私はサラのあごにアッパーを一発お見舞いする。
「んぶっ…!?」
サラの拘束が解けた私は膝を降りる。
「まったく…。」
「あいたた…えへへ。ごめん、つい興奮しちゃって…」
サラが頭の後ろに手を回し、顎をさすりながら謝罪する。
ついうっかりして~みたいに言ってんじゃないわよ。でも、何故か許せてしまう自分もいる。
「…それより、いいのですか?今日は主の友人の魔術師と一緒に買い物に行く約束だったのではないですか?」
「あ、そうだった!忘れてた!ミラちゃんありがとう!」
忘れてんじゃねーよ。遅刻を気にする子だっているんだぞ。
「…ミラちゃんも一緒に来てくれる?」
「…いいですよ。」
…まぁ、彼女がそう言うのなら一緒についていこう。
またサラが騙されるかもしれないし…。従者である私が彼女を支えなければ。
こうして私たちは友人の魔術師に会うために出掛けたのだった。
約束の場所へと到着したサラは友人の魔術師を見かけると慌てて駆け寄る。
「ごめ~ん。ちょっと遅れちゃった…。」
「ちょっと遅かったわね…まぁいつものことだしいいけど。」
「えへへ…。」
いつもなのかよ。遅刻常習犯だったのか…。
「確か名前はミラと言ったわよね?…また会ったわね。」
「…どうも。」
私が今話している人はサラの友人の魔術師で名前はロサ・カセロというらしい。
髪色は茶色のロングヘアーで、目は黒色、サラと同じような服装をしている。
サラ曰く彼女は凄腕の魔術師らしい。といっても、サラに比べれば劣りはするだろう。
「あら、サラにはべったりなのに私には冷たいのねぇ~。」
「主は主ですので…。」
正直言うと私は基本的に人間が嫌いだ。サラのおかげで、多少は緩和されてはいるがそれでも嫌いだ。
人は嘘をついて騙したり、裏切ったりする。サラが人を疑わないので、私が警戒しておく必要がある。
彼女を守るために。信用できる人間以外は信用していない。
「まぁいいわ。それじゃあ行きましょうか。」
「そうだね!」
「はい。」
私たちがそう言い、歩き出そうとした瞬間、背後から声をかけられる。
「あの、少しいいですか?」
その声につられて私たちは後ろを振り返るとそこには男と少女がいた。
「何でしょうか?」
サラが受け答えをする。
「突然すみません。あなたの隣に浮いている人形はひょっとして
「そうでs…んぶ。」
私はすかさずサラの口を押える。
たまにいるのだ。
サラが困惑した顔で私に視線を送ってくるが、気にしない。
面倒事は極力避けるべきなのだ。
「違います。」
「え?でも…。」
「違います。」
「ち、違うみたいだし、もう行こうよ…。」
男の傍にいた少女が男のズボンの裾を引っ張り、発言する。
「……すみません、人違いでした。」
「いえ、お気になさらず。」
男と少女は私たちに背を向けて去っていった。
「…何だったの?あの子たち。」
「さぁ。」
私はロサとそんな会話をする。
私たちは買い物を続行するために歩を進めるのだった。
王の玉座がある大部屋、謁見の間だ。
俺は今そこにいる。先日、
俺の名前は田中明人。この世界では勇者という名前で呼ばれている。
俺の恋人、林叶と共に車で運転していたら、事故に遭い死亡してしまった。
気が付くと、真っ白な空間にいて目の前に金髪の女性が俺に向かって何か話しかけていた。
俺は状況が理解できずにいると、また意識を失い、目が覚めたら祭壇のような場所に裸体で寝そべっていた。
最初はユソリアル国という国にいた。その国の人間は俺を祭壇で発見すると、勇者呼ばわりした。
俺の体は成人男性の肉体と同じで、顔立ちは白人のように整っていた。生前とは別人だった。
俺は自分の状況を知るために、この世界や勇者のことを文献で調べまわった。そして、ある真実が判明する。
俺はその真実を打破するためにある種族たちを探す旅へと出た。
最初はライゼフ魔導国という国に向かった。俺はそこである1人の少女と出会った。
俺はその少女と話し、彼女も俺と同じような境遇だった。というよりも、その少女の名が俺の恋人だった林叶だった。
俺は彼女に真実を話して、一刻も早くこの世界にたった一人しかいない種族たちを集めなければならなかった。
正直言って俺は気が乗らなかった。だが、生き残るためにはそうするしかない。
そもそも俺はただ単に巻き込まれただけだ。仙石佳織、全部あの女のせいだ。
あいつが自殺なんてしなきゃ、俺はあいつの両親に咎められることなんてなかった。
顔が良いから次の彼女にしようと優しく接してやったら付き合えたが、しばらくしたら飽きた。だから、あの女に隠れて次は叶という女と付き合った。
嘘をついて、裏切ったくらいで死にやがって…心の弱い女だ。
おかげでこっちはいい迷惑だ。そのせいで、ストレスが溜まりすぎて、運転ミスなんていうくだらないミスをしてしまった。
あの女さえいなければ、俺の人生は…。
「お前が勇者か。」
「はい、国王陛下。」
俺はそう言い、この国の国王に首を垂れる。
「勇者の話はユソリアル国から聞いておる。いずれこの国に勇者が訪れる、とな。して、その勇者がこの国に何用だ?」
「はい、その件についてなのですが、実は―――。」
俺は俺の知り得る情報を国王に全て話した。
「…なるほどな。それが真ならば、放置しておけぬな。それで、お前は何を望む?」
「はい、この国にいる
「ミラのことか…なるほどな。」
あの人形、ミラと呼ばれているのか。
国王は目を閉じ、腕を組み、考え込む。少しして、再び開眼する。
「…ミラと話し合い、本人が同行することを了承するのであればいいだろう。ミラは今ここにはいない。私がミラに宮廷へと向かうように手配しておこう。」
「…ご厚意に感謝します。」
本音を言うと国王が命令して、同行してほしかった。だが、まだチャンスはある。
真実を話せば、ついて来てくれるはずだ。
せいぜい役に立ってくれ。俺の安全のために。
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