第10話 王国最強の魔術師との対決
「本気…なんだね?」
「はい、本気でお願いします。」
「わかったわ。でも、お互いが殺し合いにならない程度の本気でね?」
「それは当たり前です。」
私がサラに勝負を申し込んだのは先日のことだ。
勝負を提案したのは、自分の実力でどの程度戦うことができるのかを確かめるためだ。
サラと共に魔物討伐や模擬戦をしたりなど、この1年で魔術を使うことは慣れてきた。だが、どの戦闘も本気では戦っていない。
魔物討伐は彼女の人助けの一環でやっており、魔物自体は大して強くなかった。けれど、これは強い魔物に遭遇していないだけかもしれないが。
模擬戦は魔術の使い方や魔術の効果範囲の確認が主で、本格的には戦っていない。
私はサラと共に生きると決めた。
私は彼女の足を引っ張りたくないと考えている。もし、彼女に危機が迫った時に彼女を守り切れないという事態を避けるためだ。
サラは根っからの善人で、悪人の噓に騙されやすく、人の為にどこまでも自分の命を懸けられる人間なのだ。
そんな危なっかしい彼女を私は心配している。彼女が私を守ってくれるように、私も彼女を守れるぐらい強くなりたい。
サラに勝負を提案した時、彼女は最初は危ないからという理由で断った。しかし、自分の考えを彼女に聞かせたおかげか、その後は真剣勝負に首を縦に振ってくれた。
アリアゴール王国最強の魔術師にして人形術師のサラに勝てるぐらいの実力があれば安心できる。
そんなこんなで私たちは今、ある森の開けた地形にいる。ここでなら、周りの人間はいないため、気を遣うことなく戦うことができるからだ。
「勝負の勝敗条件を決めておきましょう。勝負はどちらかが降参と言うまでです。」
「降参と言うまでね。わかったわ。でも、勝負をするからには手を抜かないわよ?」
「望む所です。では、始めましょう。」
そう言い、お互いに距離を取る。
「「勝負!」」
その掛け声とともにサラも私も魔力障壁を展開する。魔術師戦において、魔力障壁を張るのは定石だ。
この障壁があるかないかで勝敗が分かれる。
魔力障壁を展開したと同時に私はサラに魔術を使用する。
「火炎魔術≪
私の目の前から火の玉がサラに向かって発射される。
「…!」
サラは≪
「傀儡魔術≪
サラの周囲の地面から10個の術式が浮かび上がり、マネキン騎士が10体出現する。
私と最初に戦った時は3体だったのに、今度は10体!?
私は内心で驚愕する。これが彼女の本気か。しかし、そんなことを考えている場合ではない。
私はすかさず全身に魔力を送り、人形である体の基本性能を強化させる。
「支援魔術≪
人形体を強化した後、支援魔術を使用する。
支援魔術≪
これでマネキン騎士の攻撃を回避し、透明化しながら動き続けて、サラに透明化した私に注意を向けさせる。
私の狙いはそこにあった。というのも、≪
支援魔術を使用している時は支援魔術以外の魔術を使用できない。そこに出来る隙を突く。
魔術師は近接戦では不利だからだ。距離を詰めれば勝機がある。
「≪
サラは私の狙い通りに支援魔術を使用する。
私はマネキン騎士の攻撃を搔い潜り、サラとの距離を詰めようとする。しかし―――。
「雷電魔術≪
私の目の前から術式が浮かび上がり、雷が落ちる。
私は状況を理解しきれず回避がわずかに遅れてしまう。
直撃は避けたが、魔術の電撃が私の体を駆け巡る。その電撃で私の体が痺れて、動きが鈍る。
魔力障壁を張っていなければ今頃は動けなくなっていただろう。
そんな馬鹿な!?支援魔術を使っていたはずじゃ…!
私は内心で動揺する。さっきまで支援魔術を使っていたのに、支援魔術以外の魔術を使用したからだ。
そんなことはありえない。しかし、今こうして支援魔術以外の魔術を使った。
これはどういうことなのだろうか。私は考えを巡らせる。
……まさか、≪
そう考えれば辻褄は合う。けれど、見えない相手に対して使ったところで当たる試しがない。
つまり、≪
何て無茶な!だが、彼女の狙い通り、命中とまではいかなかったが、当たりはしたのだ。
私はサラに感嘆の念を覚える。
これが王国最強の魔術師か。やはり彼女は強い。だけど、彼女との距離は近い。
電撃のせいで動きが鈍いが、このまま距離を詰める!
「≪
彼女がそう唱えると、彼女の真下から術式が浮かび上がり、術式の光が円柱となって彼女を覆う。
やられた!
距離を詰められる前に≪
雷電魔術さえ当たっていなければ今頃距離を詰められたのに…!
ここまで計算していたのか!
そんなことを考えていると彼女が目の前から消える。
私は瞬時に周りを見渡す。そして、彼女は私とは反対側に出現する。
「傀儡魔術≪
彼女がそう唱えると彼女の後ろから5つの術式が浮かび上がり、弓矢を所持した兵士のマネキンが5体現れる。マネキン弓兵が矢を弓に通し、射る体勢になる。
10体のマネキン騎士が私に向かってやって来る。
このままだと彼女に近づけない。ならば…。
「氷結魔術≪
私の真下から氷の吹雪が舞い、10体のマネキン騎士の全身を鎧ごと瞬時に凍り付かせる。
サラがニック伯爵の城で使った時は、兵士の下半身までしか凍らなかったが、それは彼女が加減していただけだ。これが≪
使う相手は人間ではなく、マネキンのため加減する必要がないからだ。
氷結魔術の効果を受けたマネキン騎士は動くことはなかった。しかし、マネキン弓兵5体が私に向かって矢を射る。
私はサラと違って術式の出現を必要としない。そのおかげで、サラよりも魔術の発動時間が早い。
サラであれば間に合わなかっただろう。しかし、私にはこのアドバンテージがある。
私はすかさず次の魔術を唱える。
「光聖魔術≪
私の目の前に光の壁が出現し、矢を弾く。
この魔術は攻撃ができない代わりに空間の断絶、攻撃を防御することができる。
この魔術の主な用途は逃避防止だ。
相手を≪
「闇蝕魔術≪
サラがそう唱えると、彼女の目の前から術式が出現し、影が這い出てくる。
出現した影は高速で私の元に向かってやって来る。
影は途中で2つに分裂し、≪
「くっ…!」
私は影の手を振りほどこうとするが、上手くいかなかった。というのも、影の手の握力が強いせいか、動くことができなかった。
このままではまずい!
サラに魔術を使う時間を与えてしまうとこちらが不利になる。
どうする!?
私は必死に考えを巡らせる。そこで、私はとある人物のある言葉を思い出す。
「これも儂の仮説じゃが、体が魔力で形成されておるなら、体の構成自体も変えることができるかもしれん。例えば、腕を剣に変えたり、盾に変えたりすることができるかもしれん。」
モリスが言っていた言葉だった。
…もしそれが可能だとしたら…試す価値はある。
私は頭の中で自分の腕が剣に変わるイメージをする。すると、イメージした直後私の腕が剣に変わる。
上手くいった。これならいける!
私は剣になった腕を使い、自分の両足を切り落とす。私は足を失ったことで体勢が崩れる。
私の体が魔力で形成されているならば、自分の体の形をある程度変えられる。そうであるならば、欠損した足を元に戻せるかもしれない。
私にはその考えがあった。現にサラとの初遭遇時に斬られた腕が次の日には元に戻っていた。
あの時は意識していなかったが、これを意図的に起こせるようにできるとしたら?
私は自分の足をイメージして、失った足の部分に魔力を集中させる。そうすると、失った部分から足が生えてきた。
私はその直後に≪
「驚いたわ。ミラちゃんも無茶をするのね!」
サラが驚愕した顔でこちらを見てくる。しかし、今はそんなことを気にしている余裕はない。
私はサラとの距離を縮めるために駆け出す。
マネキン弓兵が弓を射るが、当たりはしなかった。
それもそうだ。弓矢や銃の類は動き回る相手に当てることは非常に難しい。個々の技量が高ければ当てることはできるが、マネキン弓兵にはそこまでの技量はないようだ。
このまま押し切る!
「傀儡魔術≪
彼女が傀儡魔術を唱える。すると、彼女の目の前から3つの術式が浮かび上がり、3体の拳を構えた兵士が出現する。
まだ傀儡を召喚できる魔力を持っているの!?
私ほどではないだろうが、彼女の魔力総量も多いのだろう。
≪
≪
私はそれを回避しようとするが、完全には回避しきれずに私の片目に命中する。その拳の威力で、私の片眼は砕けて視力が消失する。
私は片目を瞬時に元に戻す。しかし、その隙に残りの≪
脇目で≪
このままでは負けてしまう…。けれど、普通に回避していてはマネキン弓兵か≪
…ならば、この魔術を使う!
私は≪
「地動魔術≪
私がその魔術を唱えた直後、サラとマネキン弓兵、私と≪
ボコォ!
激しい轟音を立てて地面が崩れる。その直後、全員が体勢を崩す。
≪
サラも私も体勢が崩れて、足がもつれる。
私はその隙を見逃さなかった。
私はすかさず自身の体勢を立て直して、サラとの距離を詰めようと試みる。しかし、サラは体勢が崩れながらも魔術を唱える。
「風嵐魔術≪
サラは私に向かって風の塊を放出する。
私はそれをあえて回避せずに防御の姿勢に入って、魔力障壁で
回避しなかったのはサラに体勢を整える時間を与えないためだ。
私の両腕に風の塊が命中する。
ビュン!
けたたましい風切り音が聞こえたと同時に、私の両腕は彼女の魔術によってボロボロになる。
魔力障壁を使っていてもこれか。
私は自分の片腕を剣へと変形させる。そして、≪
「私の…勝ちですね…。」
「え、えぇ、降参するわ。驚いたわ。ミラちゃんも強くなったのね。」
私はその言葉を聞き、全身から力が抜け、安堵する。そして、同時に歓喜を覚える。
私はその日、王国最強の魔術師に真剣勝負で勝ったのだった。
とある日の正午。
男と少女はある王国の門をくぐり、街へと入った。
男と少女は長旅の疲労を癒すために宿屋を探し、街を歩き回る。
「…ここがアリアゴール王国かぁ…。ここまで来るのに長かったなぁ…。」
「う、うん、そうだね…。」
「それにしても、本当にこの国にいるんだろうか?」
「じょ、情報通りだとそうだと思うよ。」
「だといいんだがなぁ…。
「た、多分ね…。」
男と少女はそんな会話をする。
その男と少女には前世の記憶が存在していた。
その男の前世の名は、
少女の前世の名は、
前世、
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