第04話 変態と出会ってしまった…
「ヒャッハー!汚物は消毒だ~!!」
「ひぃ!またお前かよ!勘弁してくれ!」
「アハハハハハハハハ!」
最高に気分がいいわね。
悪党を懲らしめるのは。
とにかくムカつくのだ。こういう嘘をついて相手を騙す輩は。
だから懲らしめている。善意のためでもなく、誰かのためでなく。
一種のストレス発散だ。今までのストレスをこの詐欺師にぶつけている。
その男が逃げようとする先の場所に氷の魔法をぶつけたり、風の魔法で周囲にある物を動かして足にぶつけたりなどなど…。
色々とやってみた。こいつをモルモット代わりにして自分がどれだけできるかを試している。
非常に順調だ。
今私は最高に気分がいい。
裏切りや騙すやつを見ると前世での記憶がよみがえる。
私にとっては嫌な記憶だ。忘れてしまいたい。
けれど、人間というのは嫌な記憶ほど鮮明に覚えているものなのだ。幸せな記憶は忘れがちなのに。
ストレスが溜まる。だから、今こうして発散しているのだ。
何か特別な考えがあって、行動しているわけでない。
それがいけなかったのかもしれない。
日本のことわざには、好く道より破るといった言葉が存在する。
意味は、得意なことほど、油断しがちで、かえって失敗するということ。
そう得意気になっていたのだ。
調子に乗っていた。
そして、出会ってしまった。
あの変態に…。
私が城を脱出して数日が経ち、あの変態と出会う数日前のこと。
私は今繫華街のような場所にいる。
というよりも歩いている。人が通る道を。
人通りのある道なのにどうして人形である私が歩いていて誰も気にも留めないのか?
答えは簡単よ。透明になる魔法を使って歩いているのだもの。つまり、誰にも私のことは見えていない。
これ結構便利なのよね。
これは城を脱出する時にも利用させてもらったわ。
おかげで城の警備の兵士たちに見つからずに済んだ。
扉を開けたりする時は、浮遊する魔法を使ったり、門から出る時は兵士に見つからずに通るのは無理だからお世話になったわ。
どうやら私は頭の中で魔法をイメージすると使えるようになるみたい。なんでそれで使えるようになるのかは分からない。
この世界ではこれが普通なことなのだろうか?それとも、この体だから使えるのだろうか?
前者かもしれないし、後者かもしれないし、あるいは両方なのかもしれない。
考えても答えは出てこない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
かもしれない、かもしれない。さっきからそんなことばかり考えているわね。
…やっぱり、人間と接触する必要があるわね。
嫌だけど、嫌だけど。
しかし、情報を得るためにはそうしなければならない。
情報というのは貴重だ。あるかないかで行動に変化が起きて、ないことで大損することだってある。現代でも情報はお金になったりする。
情報は質が高ければ高いほど価値が高い。価値が高ければその分その情報は有益なものになる。それを利用してお金稼ぎする人もいる。
それほど情報というのは大事なのだ。
あ、金金言ってるけど、別にお金が稼ぎたくて情報を探すわけでないわ。生き残るために必要だから集めるのだ。知っていれば危機を事前に回避することだって可能だ。
自分の強化にもつながる情報も出てくるはずだ。
けれど、誰と接触するか?問題はそこだ。
下手に人に接触しすぎて、変な噂を立てられたら私に被害が及ぶかもしれない。
変な噂を立てられなくても騙そうとするやつだっているから人は選ばなければならない。だから、人と接触するのは必要最小限で済ませたい。
私は浮遊の魔法を使って、人間よりも少し高い位置まで飛び、ふと周りを見渡す。
私が最初に繫華街と言ったのには、人通りの量と歩いている人の特徴からそう感じたからだ。
冒険者っぽい装備を身に付けている集団や男女2人で一緒に歩いているやつら、子供連れて歩いている家族、店の客引きをしている人などなど。
ハハハ!見ろ、人がアリのようだ!
っといけない。ふざけている場合じゃないわね。
そう思い、移動をしようとするとある会話が耳に入る。
「おや?あなたたち冒険者の方々ですか?この国は初めてですか?」
「あぁ、そうなんだ。来たばかりでな。この国のことはまだよく知らない。」
「おぉ、なるほど!そうでしたか。なら俺が案内しましょうか?なに、俺はこの国では観光案内や情報を教えたりしているんですよ。」
「そうなのか。なら案内してほしいのだが…。」
「いいですよ。その代わりと言っては何ですが、案内料の方を頂けると嬉しいですね。」
「構わない。」
またある方向でこんな会話も耳に入る。
「おい、あいつまた人を騙して金巻き上げてるじゃねぇか。」
「本当に金に汚いやつだよな。適当なことを教えて、本来の案内料の2倍の金を取るんだからな。」
「まったくだ。」
どうやらあの男、この街では詐欺師として有名らしい。
さしずめ、この街に来たばかりの人間を騙して儲けているのだろう。
情報というのはこういった悪用の仕方もある。だから、人は信用できないのよね。
ちょっと後を追ってみよう。
別に騙されているやつを助けようと考えているわけではない。ただ、騙されている側を見ると前世での自分が重なって見えた。
社会というのは、騙すやつは当然悪いのだが、騙される方は間抜けだ。そして、哀れだ。
過去の記憶が脳裏をよぎり、不快感が頭の中を支配する。
イライラしてきた。顔を歪め、詐欺師の男を睨みつける。
そして、ある決意をする。
よし、こいつボコろう、と。
そんな回想を経て、今に至る。
あれから何度もからかってやった。殺しはしていない。
殺すのはまずいからだ。人を殺すと必ず現場が検証される。魔法で殺したのならばなおさらだ。
試してみて分かったのだが、どうやら攻撃的な魔法と支援的な魔法は同時には使えない。つまり、透明化しながら相手を襲うことができない。
下手に殺して私の存在がばれて、討伐対象みたいなことになったら大変だ。
私はこの世界ではどうだけ強いか分かっていない。そして、この世界の魔法を使える連中がどれだけ強いのか分かっていない。
魔法以外の方法で戦えるやつだっているはずだ。それでもし、私との相性が良ければ追い詰められることだってあり得る。
だから、この世界では殺しは極力しない。
殺しすぎて、関係者から恨まれて返り討ちに合う、そんな間抜けなことにならないために。
人を殺すことに躊躇いはない。
何故かこの体になってからそういった殺しを躊躇する感覚が湧いてこない。
生前の私なら駄目だったでしょうね。いくら嫌いな相手でも殺そうとまでは思わなかった。
倫理観が働いていた。けれど、今はそれがなくなっている。
どうしても必要であれば殺すが、必要がないのであれば極力殺さない。
自分の中でそういったルールを作った。面倒事は減らしたいもの。
というわけで、詐欺師の男に対して嫌がらせ程度で済ましている。
あいつが詐欺をした後に、人気のない場所に行った時に目の前で姿を現して嫌がらせをしている。
あいつは夕方ぐらいになると人気のないところに行く。
そりゃそうよね。詐欺やってるやつがいつまでも人気のある場所にいるわけがない。
自分の姿をさらし続ける間抜けはいないのだ。騙されたやつがあいつを探しているかもしれないのだから。
そうして人気のないところにいた詐欺師を見つけていつも通りのことをする。
「アハハハハハハハ!」
笑いがこみ上げてくる。
私は人が嫌いだが、その中でも一番嫌いなのが悪人だ。
善人は大分ましだが、悪人はかなり嫌いだ。何故なら、悪人は善人を騙して自分の利益を最大限に得るからだ。
え?お前が言うな、ですって?
正論すぎて何も言い返せないわね。でも、嫌いなものは嫌いなのだ。
善人が頑張って報われるのは大変喜ばしいことだ。だが、悪人が頑張って報われるのは度し難いことだ。
悪人の頑張りが報われた後に残るものは犠牲になった善人たちだからだ。極一部の悪人が得をして、善人は損をする。なんとも救いがない。
そんなこんなで特に悪人は嫌いだ。だからこそ、その悪人を懲らしめていると気分がいい。
「な、何なんだよ!お前誰だよ!お前には何にもしてないだろ!?」
「そうね、何もしていないわね。ただの八つ当たりよ。でも、あなたみたいな人間が一番許せないのよね。」
「く、くそ!こんなの理不尽だ!あの女は何をやってるんだ!?こういう時のために頼んだのに!」
女?こいつ仲間がいたのか。まあいいや。
詐欺師の男が全力疾走で逃げていく。
人形である私が人間であるあの男と速力を競っていても勝てない。私のサイズでは普通はどれだけ頑張っても追いつけない。
そう普通ならね。だが、私にはまだ手が残っている。
私は魔力を全身に送る。すると、全身から力が漲る。
これはこの男をモルモットにして分かったのだが、どうやら私の体は魔力を全身に送ると基本性能が向上するみたいだ。
端的に言うと、肉体が強化されている。まぁ、肉ではなく人形体なんだけど。
速力が上がり、詐欺師の男に追いつきそうになる。しかし…。
詐欺師の男は突然左折していく。
路地裏を使って逃げる気だ。そうはさせない。
私も左折して路地裏に入る。
「おぉ、あんたか!助かったぜ!あいつをどうにかしてくれ!」
「後は私が1人で解決するので、あなたは逃げてください。」
「頼んだ!」
詐欺師の男はそう言って、路地裏の奥へと走り去っていった。
くっ、逃がしたか。目の前にいる女のせいで逃げられてしまった。
それにしても何だろうこの女。口ぶりからしてあの男の仲間だろうか?
見た目は少女のようだった。
髪色は銀色で髪を後ろで結ばれているポニーテール、耳は長く、左右の瞳は両方とも違う色をしていた。右目は紫色で、左目は緑色のタレ目のオッドアイだった。
服装はローブに身を包んでおり、へその辺りから開けて、膝まで届くスカートを覗かせている。靴は上の端がたれたシューズだった。
手に持っているのは魔法使いが良く持っている杖で先端が丸み帯びた形をしており、その中心にはクリスタルがあった。
顔はムカつくくらい可愛かった。というか、この女胸デカくない?
Gカップくらいありそう。クソッ、なんか負けた気分になるわね。
そんなことを考えながら、彼女を見ていると彼女の様子がおかしいことに気づいた。
「ほ、本当にいた…。ふふふ…
そんなことを口走っていた。
「な、何なのあなた…?」
「!?喋った!あなた喋れるのね!ふふふ…。ね、ねぇあなた良かったら私のところに来ない?悪い思いはさせないわよ?」
その女は目を血走らせながら、頬を赤く染め、ハァハァと息が乱れながら言った。
ヒェッ…この女やばい…。
こういうのは漫画やアニメ、ゲームで見たことがある。
この女はそう…
へ、変態だ――!!
私は自分の軽率な行動を後悔することになる。
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