お代替わりに人の腸
店内に入った途端、カガはカシラから受け取った封筒からひょいと数枚の紙きれを抜き出してから口の開いた封筒をエンに押し付けたかと思うと、そのままふらふらと商品のひしめく棚の奥に消えていった。エンは当然のように受け取ってから店内のあらゆる喧しさ――視覚聴覚触覚すべてに訴えかけてくる類のやつだ――に呆然としている工藤の肩を叩いて、
「じゃあ服選ぼうぜクドー。着替えあるとさ、やっぱ思い切りが違えからさ」
人の金でする買い物は楽しいよなとどうしようもないことを言って、エンはいやに白い歯を剥き出して笑った。
※ ※ ※
「何か……普通のスーパーなんですね」
「あ?」
「いやほら、カガさんとかの話をちょっと聞いたりとか、昨日見ただけですけど、それだとどうも治安が、あの」
騒音のような音楽にも刺すような冷房にも慣れてきて、商品を眺めながら工藤は口を開く。目に染みるような蛍光色のTシャツを手にしてから、周囲の品と見比べてため息をつく。その様子を不思議そうに見て、エンは首元のガムテープを引っ掻いてじりりと妙な音を立てる。
「この辺はそんなに危なくねえけどなあ。独り歩きもまあ気合と覚悟があれば夜でもいけなくはないし」
「気合と覚悟がいるんですね」
「そりゃどこだってそうだろう。オトの兄貴が『男は敷居を跨いだらみんな敵だ』って言ってたしよ」
ここらだと男女問わずにそんなんだけどなと、目にも鮮やかな蛍光ピンクのシャツを手にしてエンが言う。工藤は服と顔を交互に見やってから、明確な拒絶も肯定もしまいという意思を固めて高所の棚に吊り下がった品を懸命に見定めるようなふりをした。この店は確かに品数は膨大なのだけども、色合いが落ち着いているかと広げればけったいな柄が堂々と印刷されていたり、無地かと思えば珍妙な色で前衛的に仕上がっていたり、柄も色も錯乱していたりという代物ばかりなのだ。
エンは真っ黒な柄シャツ――地の色が落ち着いているかと思えば大輪の赤い花が盛大に咲き誇っている――をしげしげと工藤に掲げ合わせてから、無造作に足元のカゴに放り込んだ。工藤はカゴとエンを交互に見比べてから、反論も抗議もする気力が見つけられなかったのか、黙って棚に向き直る。
「まあ店だって馬鹿じゃねえし。
「そうなんですか」
「店員も気合入った連中ばっかだし、そーいうの以外の技術もありったけってハナシだけどな。小物万引きしたガキが店出た途端に右腕飛んだとかの噂はガキん頃聞いたよ」
「それはあの――刃物ですか。それともあの、呪術とか魔術とかそういうやつですか」
「どっちもじゃねえの? ま、歳食ったら噂も嘘だって分かったけどな」
「そうなんですか」
「鞄に突っ込んでたから胴体ざっくりだったってよ。小物盗んで死にかけるなんて割に合わねえじゃん」
煙草くすねて腹割られたんじゃ意味がねえよなと向けられた笑顔に、工藤は泣き笑いのような顔で曖昧に頷くような仕草をしてみせた。
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