職質された時は薬莢を拾うお仕事ですと答えることにしている。
@ponzu50
1 通常業務
「早く帰りたい」
最近頭に浮かぶのは大体こんな感想ばかりである。
いや、感想と判断して良いかすら怪しいところだ。
少なくとも近頃の私は、何かある度に帰りたいという感情らしきモノが湧いてくる。
ついこの前、帰路についたついでに立ち寄ったコンビニでもそうだ。
さっさと帰って寝れば良いものを、何を思ったのか私は5.7×28mmの拳銃弾1箱のためだけに立ち寄った。
自分で寄ったくせに会計時に「早く帰りたい」と声が漏れるのだから、もはやこの感情らしきものは一種の生理反応のようなやつなんだろう。
会計をした店員がロストだったのも幸いだった。
人間だったらきっと「馬鹿らしい」とでも言いたげな顔で箱に会計済みテープを貼っていただろう。
まぁどっちみちあの時の私は疲れで俯いていて、店員の顔なんてろくに見ていなかったが。
そんなくだらない回想に耽っているうちに、業務はいよいよ終盤に差し掛かったていた。
先ほどまでちまちま響いていた銃声がついに消えたのだ。
「どうやら俺は今日も定時に帰れるらしい…」
誰に話しかける訳でもないのに私はそう呟くと、腰のポーチから自分のスマートフォンを取り出し、スリープを解除する。
回収作業員は雇用時の規約として現地に個人所有の高額機器の持ち込みは禁止されているが、私含め周りの会社の連中ですら規約を守っている奴はいない。会社のお偉いさん方は万が一破損した際の補償金を渋ってでもいるのだろうか…?
スマホが立ち上がり、最近ハマったバンドグループのボーカル君が私を出迎えてくれた。
淡く暗闇に浮かび上がった時刻は午前1時50分ほど。
定時まであと25分ほどだが、残っているタスクと言ったら目と鼻の先にある、さっきまでディフェンダー達が交戦してたであろう横幅10mの遊歩道一面に散らばる空薬莢を片付けることだけだ。
クルマは路肩に停めておいた。
私は団地に付いてくるオマケのような公園にポツンと置いてあるベンチから腰を上げ、今日も歩き出す…
今の時間帯、私以外に人がいる筈もなく、もはや傀儡のように蒼と赤の光を発するだけの信号機を横目に遊歩道に入る。
左肩と股間、頭を撃ち抜かれている身体が一つ、歩道のど真ん中に落ちているが、気にすることはない。
正直邪魔なので片付けたいところだが、ソレの回収は私の仕事ではない。
無視して空薬莢をチリトリとホウキで集める。
「今時チリトリなんぞ古き良き時代の遺物なのに…」
少なくとも私が最後にこれらを目撃したのは15年ほど前…小学校くらいの時だっただろうか。
いっこうにチリトリホウキによる回収方法を改めないウチの社長にはうんざりする…
またしても降って湧いてきた雑念を頭の中で一蹴し、作業に戻る。
薬莢を集める。
袋に移し替える。
クルマの後部座席に詰める。
たったこれだけ。
この調子なら10分もせずに終わるだろう。
しかしながら、どっかの新人が混乱して撃ちまくったのだろうか、7.62mmのものと思わしき空薬莢が今日はやけに多く見受けられた。
疑問はすぐに解決した。
すぐに原因と思わしき支援火器が組み立て式のシールドの側に放置されているのを見つけたのだ。
銃には所有者の名前の刻印…そしてその持ち主様というのは、銃の隣で急所を撃ち抜かれて転がっているコレのことなのだろう。
「…………」
リゲイナーの射撃は必中そのものと言っても過言ではない。
残酷だがこの銃の射手の技量がどうであれ、現実に起きてしまったことはもう覆ることはない。
「…………」
今日も業務をこなす。
いつからだろうか、遺体を見ても特に感情が湧かなくなったのは。
もしもこの場所に私以外の誰かがいたのなら、哀愁を顔に出さず淡々と作業をこなす私を見てこう言うだろう。
「ロストのようだ」
と。
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