第2話 竹内秀一

「バカってのはな、だ」

 Mはそれだけ言うとその日の授業を終えた。


 竹内秀一たけうちしゅういちは授業が終わった休み時間、Mに話しかけた。


「先生、あの、アメリカを意識してないってどういう事ですか?」

 Mは笑みを秀一に向けて一度頷いた。

「そのまんまの意味だよ」

 秀一が黙っているとMは言葉を続けた。

「アメリカの作曲家って誰がいる? モーツアルトは?」

「ええと、ザルツブルク? ザルツブルクはドイツ?」

「今はあそこはオーストリアだな。バッハは?」

「多分、ドイツ」

「正解。ベートーヴェンは?」

「ベートーヴェンも多分ドイツですよね」

「正解。で、アメリカの作曲家って誰がいる?」

「ええと……ビートルズ?」

「ビートルズはイギリス人だよ。ジョンレノンもジョージ・ハリスンもアメリカで死んだけど」

「ポール・マッカートニーは?」

「あいつはまだ生きてる」

「リンゴスターは?」

「うーん。わかんない。多分生きてる」

 そう言ってMは少し笑った。


「ジャズやロックはアメリカで産まれましたよね? ならアメリカの作曲家なんてそれ合わせたら滅茶苦茶いるんじゃないですか?」

 秀一がそう言うと、Mはちょっとだけ声色を変えて、

「そう。お前はバカじゃない」と言った。


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