Extra Chart:赤煉瓦の余剰品〜世界情勢1941〜
八月某日 海軍軍令部第一部 戦争指導室
霞ヶ関に居を構える海軍省は赤レンガ造りの建物を本庁舎としており、海軍の軍令を司る軍令部はこの建物の三階に陣取っていた。
この巨大組織は、大元帥たる天皇に直属し、その統帥を輔翼する立場から海軍全体の指揮・作戦の統括を担っている。
戦時となれば、軍令部が立案する作戦目標に対し実戦部隊の頭脳である連合艦隊司令部や海上護衛総隊司令部が具体的な作戦案を練り、麾下部隊を率いて実行に移すのが一連の流れだった。
現状、大日本帝国はどこの国とも開戦しておらず市井は平穏そのものではある。
しかしその平穏さを守っているのは、前線で奮闘する海上護衛総隊と、不夜城さながらに日夜人が出入りする後方の努力の賜物であることを知る者は、残念ながらあまり多くない。
とはいえ、深夜になっても慌ただしさがそこかしこに屯する軍令部において、何処か長閑な雰囲気を残す部署が有るのも事実だった。
場所は軍令部の窓の無い一室。もともとはちょっとした物置に使われていた部屋の戸に【戦争指導室】と記された真新しいプレートが掛けられている。実に仰々しい名前ではあるが、その実態はあまり褒められたものではなかった。
昨年に内閣直属の研究機関である総力戦研究所が設立された際、軍令部もさらに広い視野を以て目標の立案にあたるべきとの声が一部から上がった。
その声に対して軍令部の各部署からも一定の賛同は得られたものの、新たな部署の設立とは、言ってしまえば予算を獲得する上での競争相手が増えることを意味する。
それを望まない各部署の多数派と、部内の軋轢は可能な限り避けたいが、賛同の声も無視するわけにはいかないという軍令部上層の意見が混ざり合った結果。軍令部次長直属の、長期的な観点から国策や戦略等の企画、立案を補助する部署と言う何とも煮え切らない組織が誕生してしまったのだった。
予算はまさしく雀の涙。『仏どころか案山子作ってほったらかし。帝国官僚組織の駄目な部分の吹き溜まり』と4人しかいない班員の一人が自虐する有様だった。
そんな文字通りの「案山子」部署の前に、両手に紙袋を抱えた冴えない風貌の海軍将校が現れると、半ば体で押し開ける様に部屋の中に消えていった。
「夜食もってきたぞー」
「ご苦労さん。ってかまた随分と持ってきたな」
「実家から色々届いていたからな、ついでに持ってきたんだ、崇めろ」
「どうせボンタン飴だろうが」
「失礼なサクマドロップもあるぞ」
どうやら駄菓子屋の息子らしい将校は、二人の同僚のねぎらいとツッコミを跳ね返しながら、部屋の中央に4つ突き合わされたデスクに紙袋の中身をぶちまける。途端に駄菓子屋で並んでいるような菓子や軽食がゴロゴロと転がり出てきた。
「それで、八課の連中はなんて言ってた?」
紙袋の中から出てきた三角シベリアを目敏く見つけ、包みを開いて一口齧り付いた一人がまず問いかけた。
夜食を持ってくるついでに英欧情報を担当する軍令部第三部第八課に寄り、必要な情報を紙袋の一つと交換してきた将校は、ボンタン飴の箱を開けながら「大当たりだったよ」と口角を歪める。
「どうやら、噂は本当らしい。アムステルダム港に停泊したネルソン級1隻にベネルクス海軍旗が掲げられていたのは事実だそうだ。艦名は『ホーンブロワー』と聞いている」
「16インチ搭載のネルソン級がまさかベネルクスへ身売りか、欧州情勢は複雑怪奇だね全く」
三角シベリアを取りそこなった一人は、代わりにアタリメを齧りながら立ち上がると背後の黒板に向き直る。黒板の上に白いクレヨンで描かれている欧州地図には、各国の領土内にそれぞれが保有する主力艦の名前が記されていた。
男はブリテン島から引き出し線で太平洋上にずらりと並んだ艦名から目当ての文字列を消し、新たにベネルクス海軍の主力艦――ホラント級巡洋戦艦『ホラント』『ブラバント』――の近くに『名称未定:ホーンブロワー』と書き足された。
「『ホーンブロワー』がベネルクスへ移籍、と。これでベネルクス海軍は戦艦1に巡戦2か、これは遂に蘭印反攻作戦でもやるかな?」
「デカい寝言だな」
「漁礁ならもっと適任があるだろ」
同僚二人の容赦ない感想に「だよなぁ」と半ば放り投げる様にチョークを戻す。何と無しに視線を横に向ければ、黒板の隣に貼り付けられた世界地図が目に入った。
https://26172.mitemin.net/i573525/
北緯25度付近を境に、赤と黄色で塗りつぶされた陸地が毒々しいほど妙に目立つ。日本近海で言えば宮古島と沖縄本島の間に広がる宮古海峡付近で南北に区切られている形だ。
1941年現在、人類の生存可能な沿岸域はこのラインよりも北――緑で塗りつぶされた支配地域と、黄色に塗りつぶされた一部支配地域にしか存在しない。
1914年、主に欧州と南半球全域で発生したフラグレスの大規模侵攻――通称、世界大戦。
ヨーロッパの沿岸部に位置する遺産工廠を焼き尽くさんと迫るフラグレスの大艦隊を相手に、イギリスをはじめとする欧州連合軍は辛くも勝利をおさめたが、その代償として人類は南半球からの完全撤退を余儀なくされた。
否、それはもはや敗走に等しい。
極東随一の海軍力を持っていたはずの日本でさえ、戦力を集中させて台湾の脱出作戦を何とか実行するので精いっぱいの有様だったのだ。欧米の本国から遠く離れた東南アジアの住人たちに、宗主国が手を差し伸べる余裕などなく、配置していた艦隊は脱出もままならぬまま海底へと沈んでいった。
フラグレスが制海権を握った沿岸部では、座礁したフラグレス輸送船の船腹を食い破って上陸した巨大なヒヨケムシの様な生命体――レヴィオンが人を駆逐、否、駆除していった。
現地に防衛線を敷いた陸上部隊は型落ちの装備を手に撃退を図るが、最悪なことにレヴィオンは拳銃弾程度はたやすく跳ね返し、.30-40クラグ弾等のライフル弾でさえ、角度によっては弾く甲殻で鎧われており効果的な反撃は至難の業だった。
満足な重火器を持たない植民地軍の抵抗は3日と持たず、防戦能力の消滅と同時に老若男女の区別なく文字通り殲滅されたのだった。
唯一、フィリピンの在比米軍はコレヒドール島司令部が陥落した後も相当の時間持ちこたえたようだが、フラグレス艦隊によって大打撃を受けた米太平洋艦隊は救援の手を差し伸べることが出来ず、アラモ砦の再演を果たすかのように、全滅の憂き目を見ることになった。
北半球の先進国が何とかフラグレスの艦隊を押しとどめる一方、南方の植民地との連絡は次々と途絶え、アフリカ、インド大陸は住民が逃げる暇すら与えられる事もなく失陥した。
1918年に入り、どうやらレヴィオンの最大進出範囲が確定したこと。さらにユトランド沖海戦以降、フラグレスの主力の活動が急速に鈍化し収束に向かっていった事で、人類はようやく絶望的な生存戦争の出口を目にすることができた。
そうして1919年初頭の対フラグレス戦争の終結宣言――ある退役軍人は「せいぜい停戦だ」と零したそうだが――の後、20年と少しの歳月をかけて列強各国は驚異的な速度で力を取り戻しつつある。
その最たる要因の一つにワシントン工廠条約が上げられた。
華府条約とも呼ばれるこの条約は、之まで海軍艦艇や船舶の建造に注力していた遺産工廠を、民需へと全面的に充てて急速な復興を行い、残された資源を有効活用する事を目的としている。
しかし、特に軍需中心に使われていた工廠機能を民需へ全面的に振り向けることは、軍需物資の生産が覚束なくなることを意味する。一応、老朽化した艦船の代艦の建造や戦没した艦の補充に関する例外事項や、緊急時における条約の破棄に関する条項など抜け道も多数存在したが、事実上の軍縮条約と言えた。
フラグレスの恐怖を骨の髄まで刻み込まれた各国の国民にとって、生存すらも危ぶまれる大戦直後の軍縮条約批准は大きな博打であり、反対意見は当然の様に多数に上った。
とはいえ、たとえ遺産工廠をフル稼働させても、現状の技術と基礎工業力では次の大侵攻に耐えられないという絶望がその恐怖を上回り、一縷の希望をこの条約に託したのだった。
結果として人類全体を巻き込んだ大博打は、ある誤算を除いて大成功を収めつつある。
日本においては各国から持ち寄られた高性能工作機械が遺産工廠によって複製され、急速な重工業化が進められて各地に造船所や工場が立ち並んだ。また農耕機械の大量導入や、新品種の発見により食料自給率は何とか自国民を賄える程度にまで成長し、栄養事情の好転は人口の回復傾向となって反映され始めている。
世界有数の遺産工廠を4か所保有し、なおかつ前大戦において辛くも本土への攻撃を受けなかった日本は、復興を急ぐ欧州各国に製品を輸出することで、背伸びに背伸びを重ねた貧乏国から非常に不安定な工業国へと脱皮しつつあった。
「で、紅茶紳士がネルソン級を売ったってことは、KGVの他に当てが有るってことだな」
「ご名答。そこを突っ込んでみたら、キング・ジョージV世級は5番艦の『ハウ』で打ち止め。既にベルファストとデヴァンポート、ポーツマスが全力稼働中らしい。早ければ一月で新鋭艦が拝めるぞ」
「最後まで律儀に守っていたイギリスも遂に脱退か。ワシントン条約の形骸化は決定的になったな」
「もとより、戦災復興のための条約だ。そっちがひと段落した分、ため込んだ技術と資源と金で大軍拡に移るのは目に見えているよ」
「毎度思うが、数万トンの主力艦を一月程度で作るとか、工廠の中身どうなってんだろうな」
「それが解れば苦労はしないし、ハリファックスも無事だったさ」
シベリアを食べ終え、ぬるくなり始めたラムネに手を伸ばした将校が肩を竦めた。
都合の良すぎる機械仕掛けの神の構造に、人類社会が興味を持たぬはずはなかった。しかし、万物の霊長らしい傲慢な知的探求心は「好奇心は猫を殺す」という諺を最悪の形で実践する結果となった。
産業革命の中で遺産工廠の有用性が示され始めた直後、カナダ自治政府はハリファックス遺産工廠の分解調査を試みたことが有る。之まで人が立ち入ることができなかった区域に調査班を送り、謎に包まれた神の遺産を継承しようと目論んだのだった。
結果は人類史に類を見ない大失敗。
12月6日の朝、遺産工廠の中で分解調査が始まった直後、ノバスコシア州の州都であったハリファックスは州人口の約半数と共に巨大な閃光の中に消えた。詳しい原因は不明だが、爆発が起こった時間帯と本国に送られたタイムスケジュールを照らし合わせると、立ち入り禁止領域への強行突入を仕掛けるタイミングであった。非破壊方式での侵入模索の時間帯はとうに過ぎており、現地部隊がタイムスケジュール通りの判断を行い、立ち入り不可能区域への侵入を試みたのだと結論付けられた。
地球を2周するほどの衝撃波が観測された大爆発以降、遺産工廠の分解、攻撃は、明確なタブーとしてあらゆる国家の憲法に記載されることとなる。
「フランスもダンケルクに続く新造艦を計画中で、ドイツもビスマルクの拡大発展型を設計中。イタリアも軍拡に転じている……と。なんだかきな臭くなってきたな」
ふやけたアタリメを食いちぎり、麦茶で喉を潤しながら椅子に座りこんだ。4つの机が繋げられた台上には、駄菓子やその包み紙に覆われつつある世界地図が広げられていた。一つ眉を顰め、これからの議論に必要な個所に被った邪魔者を脇へと追いやる。
「一度整理してみよう。まず、大戦後に対フラグレス欧州連合からファシズム化したフランスとイタリアが抜け形骸化。その後、独、英、西が三国協商を旗揚げ。対抗する形で仏、伊、がソビエトと手を組んで三国条約を発足。大戦中に低地諸国が融合したベネルクスとスイス、ついでに北欧諸国は中立だ」
「三国協商はイギリスを窓口にアメリカから石油やら資源やらを輸入。条約にはソ連がある。民主主義陣営と、なぜか手を結んだ枢軸、共産主義陣営の睨み合いだな」
「あれ?これ実質米ソの代理戦争で欧州燃えない?特に独仏国境」
「だが、あの蟲共との戦訓から、十分な火力を持つ強固な防御陣地への正面突撃が自殺行為ってことは、独仏陸軍も理解している。公共事業のノリで作ったジークフリート線とマジノ線に突っ込むバカは居ないと思うがね」
「となると、ベネルクスへの戦艦売却はイギリスの引き込み工作か?」
「独仏の裏道になるベネルクスに楔を打つつもりなのかもしれん。イタリア北部蹂躙しても、仏伊国境にはアルパイン線が有るしな。当然、独仏もヤルならベネルクスの一つや二つ踏みつぶす気でいるだろう」
「さて一方我らが大日本帝国だが、資源の主な輸入元はソ連、しかしイデオロギー的には協商側だ。欧州各国からは、潜在敵って認識でいいだろう」
地理的条件と政治的条件によって微妙な立ち位置に存在する自国に、他の二人から「知ってた」とため息が漏れ出た。利点も多い国ではあるが、欠点も多い。一言で言ってしまえば色々とピーキーな国だった。
「それもこれもアメリカが資源売らないのが悪い。最近数が揃ってきた海軍標準船なら、波の高いアリューシャン航路でも十分採算取れるってのに」
「あのインチキ国家でも資源の採掘量には限りがある。アメリカの投資家が何処の株持ってるか考えれば、自ずと配分量もわかるだろ」
「東南アジアの植民地が存在しない今じゃ、欧州は極東と組んでも旨味ないしな。逆にソ連は極東の防衛を丸投げできるから気前よく油を売ってくれるが……」
「ズブズブになって国号が民主主義人民共和国になるのはゴメンだぞ」
「カミソリ東条が警保局長やってる限り、赤い輩は特高の餌だろうさ」
「けど、ソ連だってケツに火が付けば欧州を重視する。最悪の場合も考えなきゃならん」
ワシントン工廠条約による民需と市場の拡大、それに伴う工業力の増大は、ここにきて資源問題と言う最大のボトルネックにぶち当たっている。
もともと南方の植民地は列強において資源の産出地だった。それらが大戦によって失われた今、列強の資源は米ソの二国に支えられていると言ってよい。
しかし、この二国がどれほど強大だとは言え、算出できる資源の総量は当然上限がある。急速な工業力の増大を受けて、資源採掘、輸送が間に合っていないのが現実だった。そして、元から無資源国であり、列強にとって切り捨てても一番痛くはない国が、極東に存在する帝国だった。
「工廠を民需に回せるからってドカスカ作り過ぎなんだよ。使える油田が激減したのに工場やら車やら飛行機やら作ってりゃ、そら油不足にもなる」
「だが当時は仕方なかっただろう、戦災復興で何もかもが足りなかったんだ。とにかく雇用して作って消費して経済回さなきゃ、衰退一直線だったんだぞ」
「その結果、どこもかしこも止まれなくなって資源危機に片脚つっこんでるんだろうが。俺たちだって紡いだ綿で首絞めてるようなもんなんだからな。バクーの油も不足気味で、工廠の運転だって最小限だ」
飲み切ったラムネの瓶が苛立たし気に叩き付けられ、中のガラス玉がカラカラと空しい悲鳴を上げた。
かつてはあれほどの隆盛を誇っていた遺産工廠も、年間稼働率は20%を切りつつある。これだけの稼働率であるにも関わらず、現用艦の保守整備と老朽化が目立ち始めた金剛型の代艦2隻と新型護衛艦の建造はなんとか進められていた。
「いっそのこと、連合艦隊の言うように東南アジアに反攻かけてみるか?フラグレスが航空機を持たない今なら、機動部隊で蹂躙できそうなもんだが……」
「金剛型代艦の超大型空母の建造も開始したしな。基準排水量6万トンオーバー、常用100機越えのバケモンだ」
「そういえば、次から空母の命名規則が変わるんだったか」
「ああ、常用100機以上の艦は旧国名だとさ。いよいよ艦政本部も戦艦に見切りをつける気らしい。これは未だ極秘だが、1番艦は『大和』、2番艦は『武蔵』になるそうだ。世界最大最強の大和型航空母艦が来年には戦列に加わるだろう」
「『大和』に『武蔵』、ねぇ……戦艦に付けたい名前だな」
実に勇ましい名前だが、どうにも違和感が拭えなそうな顔をする。新型艦談議に花を咲かせようとしている二人だったが、話を本筋に戻すための横やりが入った。
「待て待て待て、確かに新型艦は強力だろうが。仮に占領したら占領したで、欧州の元宗主国が鼻息荒く宣戦布告してくるぞ。特に英仏
「ハワイはともかく、戦後からモンロー主義に先祖返りしたアメリカが、今更フィリピン欲しがるかね?ドイツも、太平洋の島をそこまで重要視はしないだろう。それに、英仏は戦艦主体だろ?機動部隊の敵じゃないよ」
「バカ言え、あっちにも空母と艦上機はあるだろうが。ウチの航空機も捨てたもんじゃないが、流石に欧州には劣るぞ」
「日本近海の防衛線なら、いい勝負はするだろう。インド洋周りの航路が使えない今、欧州と極東の連絡路はシルク洋だけだ。
「それに、欧州機は足が短いから、空母に積んだとしても空母自体が前進してこにゃならん。真面な空母を持ってるイギリスはそのあたりを考えて、甲板に装甲を張ったイラストリアス級を作ったが、その分トップヘビーで常用機も少ない。制空隊で掃除をした後、攻撃機を突っ込ませて魚雷を2,3発も当ててやればひっくり返るさ」
「戦闘機の傘の無い艦隊がどうなるかは、航空主兵派の諸君が良く言ってるよ」
「ま、どのみち。他所様の持ち物に手を出さない事に越したことは――」
反論した一人に対し他の二人が畳みかける様に言った時、部屋の扉が乱暴に開けられた。
ぎょっとした顔で振り向く3人の視線に飛び込んできたのは、タールでも飲んでしまったかのように苦り切った顔を浮かべる4人目の同僚の姿。夜食を取りに行く前に、戦争指導室の名目上の室長として軍令部次長室に呼び出されていた男だった。
「諸君、面倒なニュースと死にたくなるニュースが有る。何から聞きたい?」
「いいニュースないんすか、じゃあお好きなヤツから」
「大和型の建造は中止、否、白紙撤回だ。回す予定だった油を他に流すらしい」
「おっと、そいつぁ……それで、面倒なニュースと言うのは?」
「何を言っている」と吐き捨てつつ、少佐の階級章をぶら下げた男は大股で自分の席に向かって歩きながら半目を向ける。その瞬間に、厄介ごとの大きさを直感した3人の顔が思いきり引きつった。
自分と同じような顔を浮かべる部下3人に、ため息を吐きつつ。椅子に腰を下ろした男は、テーブルに転がっていたボンタンアメを一つ放り込んで言葉を続ける。
「今のが、面倒なニュースだ」
「帰っていいすか?」
「右に同じく」
「以下同文」
「ハッ倒すぞ貴様ら」
危機察知能力はやけに高い3バカに覚えた頭痛を必死に無視しながら、懐から取り出した煙草を口に咥える。引き出しからマッチを取り出した将校は、口に咥えた煙草を揺らしながら、一字一句自らに言い聞かせるように口を開いた。
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