後編:イルミネーションの記憶


「おーい、由里っちー。そろそろ打ち上げだよー?」


 急に脱衣所のドアが開けられて、そこからひょいっと顔を出したメンバーの催促が聞こえる。


「えっ、あ、ちょっと待ってて」


 私は急いで自分の髪を乾かし、ドライヤーを仕舞うと、彼女にふり返る。


「あの、彩羽ちゃん」


「……いいわ、さっきの話は忘れてちょうだい」


「えっ、でも」


「このまま話し続けると、なんだか自分がみじめに思えてきちゃう」


「彩羽、ちゃん……」


 その時の私は、彼女が見せた寂しさとやるせなさの混じった顔が忘れられなくて、その場から動くことができなかった。



 後で彼女に直接話を聞いてみると、どうやら神無月プロダクションは彩羽ちゃんのような逸材の価値を、恋愛スキャンダルで下げたくなかったらしい。


 かと言ってこのまま黙認しているとメディアにバレた時のリスクが高まるため、彼をあらゆる手段で追い詰めた……ということなのだそう。


 一瞬、私は『そこまでして彼を追い詰める必要はなかったんじゃないか』という思考がよぎったが、それと同時にお偉方の考えも嫌というほど分かってしまった。


 事実、彩羽ちゃんの成長と発展は目覚ましく、半年も経たないうちに彼女はトップアイドルもかくやという位置にまで上り詰めた。


 もうそこまで行くとライブ公演や握手会はともかく、映画やドラマに引っ張りだこだった彼女の場合、入ってくるお金はかなりの額だったはず。


 彼を追い詰めるために使った金額と、のちのち手に入る予定の金額を天秤にかけた場合、きっと後者の方が下がるに違いない。


 利益がなければ会社は動かない。そんなことは私でも分かってる。


 ……でも、そんなの許せるはずがない。


 自身の利益のために他者を蹴落とすなんて、ダメに決まってる。


「……でも、それが業界の裏側。真由里だってここで働く以上、少しは知っておきなさい」


「なんでそんなこと……。彩羽ちゃんは悔しくないの?」


「悔しいに決まってるでしょ……。もともとは彼との交際を続けてしまったあたしが悪いんだし」


「じゃあ、どうして――」


「あたしが抗えるわけないでしょ! アイドルっていうのは“商品”なの! 口のない“商品”が“メーカー”に反論できると思う……っ?」



 ふと空を見上げれば、まんまるなお月様が浮かんでいた。


 少し寂しげな明かりを放ちながら、そっと下界を見守っている。


「ねーねープロデューサー。打ち上げってどこでやるの?」


 と、メンバーの一人である倉科くらしな 瑠香るかが、その元気そうな八重歯を見せて手をぴんと挙げた。


 プロデューサーさんは、何やらしかめっ面で財布を覗いている。


「うーん……今月はちょっと金欠気味だしなぁ……あんまり高い店には行けないかも」


「じゃあ銀座の回らないお寿司がいい!」


「俺の話聞いてた?」


 私は、そんなワイワイ盛り上がる彼女たちを後ろから眺めている。

 

 いつもだったら自分もあの輪に加わっていたんだけど、今日だけはそんな気にもなれない。


「……真由里」


「ん? なに、彩羽ちゃん」


 なんとなく涼しい夜風を浴びながら河川敷でのんびりしている私を、彩羽ちゃんが呼び止めた。


 そして、さっきのシャワー室での雰囲気とは一変して、逆に申し訳なさそうな態度で恭しく頭を下げた。


「その、さっきは感情的になってしまってごめんなさい。ただ彼のことを思い出すと今でも後悔が尾を引いてて」


「大丈夫だよ、誰だっていつも後ろ髪は引かれっぱなしだもん」


「……本当に、良い意味で呑気ね、真由里は」


「え、それって本当に良い意味なの?」


 不安。彩羽ちゃんってたまにこういうこと言うから私いますっごく不安。

 ……でも、顔、笑ってる。


 私は自分の胸に手を当てると、深呼吸をする。夜の風が気道を通って、たしかな涼しさと温かさを含んだまま肺を満たしていく。


「……ね、彩羽ちゃん」


「どうしたの?」


 彼女がいつもの優しい顔で聞いてくる。


 私は、胸にあてた手をきゅっと結ぶ。

 

「やっぱり、彩羽ちゃんは強いよ」


 この動作は、もしかしたら自分を勇気づけようとしていたのかもしれない。


「え……?」


 ちっぽけな私が、全然ちっぽけなんかじゃない覚悟を決めるための。


「だって彩羽ちゃんは、いまこうやってカンナプロとは違うプロダクションに居るわけでしょ?」


「うん、そうだけれど……」


「やっぱり、すごいよ」


 彩羽ちゃんをひたすら褒めちぎる。

 照れて赤くなった彼女の顔はひたすらに可愛い。


「だって彩羽ちゃん、逃げなかった」


「…………」


「彼に、『ごめんなさい』って言おうとしてる」


「…………っ」


「社会から、アイドルから、過去から……逃げなかった」


 もし彩羽ちゃんがわたしだったら……そう考えると、とても想像がついたもんじゃない。


 きっと臆病な私は、そのままアイドルを辞めて、ずっと過去を引きずりながらメソメソ暮らしていたに違いない。


「だから、すごいんだよ」


 そんな、私には到底できないことをやってのけるから。


 そんな彼女に感化されたから。


 ここで一歩を踏み出さなければ、あとで絶対後悔するって分かってるから。


「……真由里」


「ん?」


「……ありがと」


 小さくほほ笑む。


「そっ、そんな感謝されるようなことは言ってないよっ。ただ自分の胸の内をすべてさらけ出しただけで」


「あたしは、真由里の判断を尊重するから」


「……っ」


「だから、後悔するよりも前に一歩を踏み出しなさい」


 ……やっぱり、私の心の内も彩羽ちゃんに掌握されちゃってた。



 結局、打ち上げは事務所近くの喫茶店でおこなわれた。


 せっかく大規模なライブを成功に持っていったのに、こんな金のかからない打ち上げでいいのか、と俺にも多少の申し訳なさはある。


 だけど、財布に残っているすずめの涙ほどのお金たちと相談した挙句の結果なんだからしょうがない。


 いちおう昔からひいきにしてる店だし、ウチのアイドルたちが新人だった頃からお世話になってる所だから、まあ恩返し的な意味合いも含んでる。


 マスターが張り切って超特大ナポリタンを担いできたときは流石に動揺を隠せなかったけど。


「おいしかったー!」


「ちょっと瑠香ちゃん、口にソースがついてるよ?」


「えっ? ああごめんごめん」


 ……まあ、みんな楽しんでくれたみたいだし、よかった。


「えーっと、皆このまま帰りだよな。よければ俺が送ってやっても――」


「プロデューサーの運転荒いから食後はちょっとキツイ」


「おい瑠香。免許取りたての人間になんてことを言う」


 ウチのアイドルの心ない言葉にへこんでいると、彩羽が瑠香の首根っこをつかみながら言った。


「まだ終電があるので、あたしたちは電車で帰ります」


「お、そうか? 夜道は危険だからちゃんと集団で帰るんだぞ」


「はーい」


 と、小学生みたいなやり取りをして、メンバーを見送る。


 ライブをやって、喫茶店で散々はしゃいだというのに、こちらから姿が見えなくなるまで手を振り続ける彼女たちの体力に若干気圧された。


「さてと、一旦事務所に戻るか」


 俺は踵を返すと、これから待っている事務作業に苦悩の表情を浮かべ……。


「……って、真由里?」


 ……俺の服の裾をつかんで離さない真由里と目が合った。


「プロデューサーさん……お話があります」


 いつもだったら『なんだ、勉強で分からないところでもあるのか?』などと軽く応対するところだが、今回はそうもいかないようだ。


「…………っ」


「……ま、真由里?」


 口は真一文字にきゅっと結ばれ、目はしっかりとこちらを捉えて離さない。だけど、そんな表情とは裏腹に、さっきから彼女の手は恐ろしく震えている。


 普段の元気いっぱいな彼女からは想像もつかないような狼狽えっぷりを見ると、こちらも妙に勘繰ってしまう。


(な、なんか俺、真由里を不機嫌にさせるようなこと言ったっけ……?)


 まあ、強いて挙げるのならば、ライブ終わりに接近してきた真由里を拒絶してしまったことだろうか。


 もし怒りの原因がそれだった場合はきちんと謝って、それと同時に事務所の基本的なルールについてそれとなく教えてやればいい。 


 それ以外だったら……とりあえず土下座を決行して、そこから考えよう。


「とりあえず、事務所で話さないか? すぐそこだし」


「はい……わかりました」


 そう言うと、今度は急にうつむいてしまう。


 やばい、真由里の考えていることがまるで分からない。いや、そもそも女の子の繊細な心情を鈍感の塊である俺に推し量れといってもそれこそ無理な話だろう。


 ただでさえ女子に慣れていない&LINEの友達が仕事仲間を除いてだいたい身内しかいない人間なんだから。



「それで、話ってなんだ?」


 手先の震えが止まらない真由里を事務所のソファに座らせ、ついでに身体があったまるようにお茶を淹れる。


 真由里はその小さな手でカップを持つと、猫舌なのか「あちっ」とつぶやきながらおそるおそる飲む。


「その……俺個人としては、真由里の願いはできるだけ叶えてやりたい」


 無言が続くと非常に居たたまれなくなってくるので、とりあえず会話を途切れさせないように尽力する。


「ただ、もしその話が事務所のポリシーに抵触するようだったら……ちょっと考える時間をくれないか」


「…………っ」


 俺の言葉を聞いた彼女が、カップを持ったままあからさまに動揺する。


 こちらとしては、真由里が話し始めるまでの時間潰しをするつもりだったのだが、いつの間にか話の本筋を突いてしまっていたらしい。


「…………プロデューサーさん」


「あっ、はい」


 カタン、と音を鳴らしてカップを皿に戻す。


 そして、窓から入りこんでくるほのかな月明かりに照らされて、真由里は言葉を紡ぎ始めた。


「私、プロデューサーさんと出会ってから、今年で二年目になります」


「ああ、そうだな。初期の真由里は初々しかったなぁ」


「あの日から今日までの間、本当に色々なことがありましたよね」


「まぁ、な……」


 たしかに、『塞翁が馬』という言葉をそっくりそのまま体現したような二年間だった。


 真由里たちがここの弱小プロダクションにやってきて、売れない頃はひたすら営業とライブを繰り返して、俺といえば否が応でも仕事をいっぱい持ってきた。


 そして『塵も積もれば山となる』、『雨だれ石を穿つ』という言葉のごとく、結果は目に見えるようになってきた。


 そこからは波乱の毎日が続いて寝る間もなかったから、そこまで鮮明に思い出すことが出来ないというのが正直なところ。


「それで、同じユニットの仲間やプロダクションの事務員さんたちと触れ合っていく途中で、気が付いたんです」


 いつの間にか彼女の手先の震えはなくなっていた。それはまるで、彼女自身のひとつの決意を表しているようにも見える。


「私たちのこの日常は、プロデューサーさんが作り上げてくれたものなんだって」


「お、俺が……?」


「はい、プロデューサーさんが汗水流して働いてくれたから、いまの私たちがあるんだと思います」


「それはちょっと言いすぎじゃないか? 真由里やその他みんなの頑張りがなければこんなに有名にはならなかったぞ」


 そう、俺はあくまで仕事を融通しているだけであって、彼女たちが意欲を見せなければ俺の努力も骨折り損のくたびれ儲けだった。


「でも、プロデューサーさんは私たちを支えてくれました。時には……ひとりのファンとして」


 彼女は再度カップを持って、口を湿らせる。


「『プロデューサーだから』、じゃなくて『ファンだから』私たちを応援してくれているように見えました」


 違っていたらすいません、と小さく頭を下げる。


「……いや、真由里の推測は正しいよ。今となっては俺も『エンジェル*ワークス』の大ファンだ」


 知名度を獲得するために奔走していた彼女たちは、ボイストレーニングにダンスレッスンに学業に……とにかく多忙を極めていた。


 一方で俺はといえば、彼女たちの仕事を肩代わりするわけにもいかないので、応援に徹するしかなかった。


 それぞれの夢や目標に向かってひたむきに努力し続ける『エンジェル*ワークス』のメンバーを見ていたら、自然とファンになるのも無理はないだろう。


「いつでもプロデューサーさんは笑いかけてくれた。励ましてくれた。心の底から応援してくれた……」


 真由里は、いつの間にか前のめりになって、俺の方に倒れ込んでくるんじゃないかと心配になるくらいに体を傾けていた。


「私、私は……そんな、プロデューサーさんのことが……」


 もう自分では歯止めをかけられないのだろう。真っ赤になったり涙目になったり、真由里の感情が決壊している。


 そして、刹那。


 ほのかな明かりを散らしていた月が、ついに雲から顔を出した。


「プロデューサーさんが、大好きですっ!!」


「…………っ」

 

 直前の真由里の挙動でほとんど察しはついていたが、こうも直接言われると頭がぼんやりしてくる。


 一方、真由里はソファから立ち上がると俺のとなりに座り込み、まるで小さい子供のように抱きついてきた。


「好き、好き、大好きなんですっ……!」


 一方、どうしていいのか皆目見当もつかない俺は、ひとまず彼女の頭を撫でてみる。とてもサラサラで普段から髪を大事にしているのがうかがえる。


「プロデューサーさんの優しいところも、かっこいいところも、おっちょこちょいなところも、全部ひっくるめて愛してますっ……!」


 真由里は、これまで言いたくても言えなかったことを、ここぞとばかりに全部ぶちまける。


「真由里……」


「プロデューサーさんは愛してくれますか、私のことを」


 さっきから感情がぐちゃぐちゃで、思うように真由里の顔を見ることができない。ここは大人として何とか余裕を見せたいところなのだが。


「俺も、真由里のことは大好きだ」


「……っ、なら、その、私と……付き合ってくれますか――」


 ……すまない、真由里。


「ごめん」


 彼女の瞳が揺れる。


「えっ……」


「本当に、ほんっとうにごめん」


「…………」


 真由里がうつむく。その表情を読み取ることはできないが、今さら勘繰ったところで仕様がない。


「俺も、真由里のことは大好きだ。でも……俺はあくまで『エンジェル*ワークス』のプロデューサーなんだ」


 女子高生の純粋な恋を踏みにじる、最低な人間。


「真由里と同じくらい、みんなのことが大好きなんだよ」


 そう思われても、無理はない。


「お前だけを特別扱いすることは……できないんだ」


「…………」


「俺のことは嫌いになってもらって構わない」


「…………そんなこと、できないよ」


「えっ……?」


「プロデューサーさんを嫌いになるなんて、できるわけない……」


 いつの間にか、真由里は涙声になっていて。

 気づけば、カーペットには涙がこぼれていた。


「私も、『エンジェル*ワークス』のみんなが大好き……でも、それ以上に好きなんだもん」


「真由里……」


「うっ……ぁ……ひぐっ」


 嗚咽を漏らしながら、涙を流し続ける。

 俯いたり隠したりなんかせずに、ありのままを、見せる。


「私が、アイドルだから、いけないんですか……?」


「…………」



「どうして、わたしは恋しちゃダメなんですか……?」



 彼女の気持ちは痛いほどよくわかる。

 ユニットのメンバーも好きだし、それ以上に俺のことが好き。


 でも、それは言い換えてみれば、友情よりも愛情を優先したことになる。

 

 誰にでも優しくて健気な真由里が、片方を得るために片方を捨てるなんてことをするはずがない。


 だから、その葛藤で悩んで悩み抜いた結果、何かがトリガーとなって彼女に一歩踏み出させたのだろう。


「……五分」


「……え?」


「五分、抱きしめてもいいか」


 だから、そんな彼女の第一歩を無下にはしたくない。これは『プロデューサー』としてではなく、『ひとりのファン』として。


「その、真由里が嫌だって言うなら、引き下がるけど」


「……ううん。全然嫌じゃない」


「そ、そっか。なら……」


 そっと、自分が持てる最大級の繊細さで、彼女の腰に手を回す。

 ふにっとした、やわらかい感触が手のひらを撫でる。


「真由里の身体って、こんなにも温かいんだな」


 一方でこちらの肩にも手がまわされ、温かい身体がそっと寄りかかってくる。


「プロデューサーさん……」


 それは、あまりにもありきたりで、突拍子もなくて、情けなかったけど。

 でもそんな不器用な感じが、いまの俺たちにはぴったりだった。


「……ぅ」


「よく、頑張った」


 真由里の小さな肩が震える。

 もう、表情を探るなんてことはしない。

 ただ、この後は彼女を自由にしてあげればそれでいい。


「ぅ、あ……うっ、うあぁあぁぁ……」


「俺は、いつまでも真由里のことが大好きだから」


「う、うっ、わぁあぁあぁあぁぁぁ……」


 これが、せめてもの罪滅ぼしだから。



 そして五分後、俺たちの世界は終わった。

 あの甘くて苦くて少ししょっぱい世界は、もう二度と戻ってこない。


 でも、それくらいが丁度よかったりする。

 だって、俺だけじゃなく、彼女もそれを望んでいたから。 


「プロデューサー、さん」


「ん……? なんだ、寝言か」


 ソファで毛布にくるまり、すぅすぅと規則正しい寝息をたてる彼女を横目に、俺は本来やるはずだった事務作業を徹夜でこなしている。


「はぁ……こりゃ明日の朝まで終わんないな」


 まあでも、ここで夜が明けるまで待って、プロダクションの仲間たちを朝一番に出迎えるっていうのも悪くはない。


 だがしかし、毛布にくるまって寝ているJKと一夜をともにする……というのはなかなか危険な香りもするが。


「でも……あんな一面見ちゃったらなぁ」


 思い出されるのは、ついさっきの一幕。

 俺は……自身の選択を、その時の彼女の表情を、今後一生忘れないだろう。


 だから、せめて今夜くらいは一緒に居てやりたいという父性が働くのも無理はなくて。


「ぷろでゅーさー……さん……」


 また後ろの方で真由里の寝言が聞こえる。

 どうやら夢の中でも俺のことを想ってくれているようだ。


「だいすき……です」


 まあ、今までとの違いは、その言葉に含まれる“想い”が少し変わったということくらいだろうか。


 俺は終わりそうにない仕事に無理やりピリオド……というよりコンマを打つと、長らく座っていた椅子を立ち、真由里のもとへ歩み寄る。


 そして、もう一回毛布を掛けなおしてやると、眼下にある穏やかな寝顔を見つめた。


 歌っている時の彼女が天使なのはさることながら、寝ている時まで天使の様相を維持をするのはさぞかし大変だろう。


 しかし、真由里はそれを平気でこなしているから末恐ろしい。自分で振っておきながら節操ナシだと思われるかもしれないが、寝ている彼女はとびきり可愛かった。


「これからも、一緒に頑張っていこうな」


 自然とそんな言葉が口から漏れたことに、自分でも少し驚く。

 そして、いつかのように彼女のサラサラした茶髪を撫でると、軽く目を閉じた。




――俺たちの物語は、本当にありきたりで、どこにでもあるような、言わば模造品のようであったのかもしれない。


 けれど、今はそれでいい。


 俺たちの物語が、ここで終わったわけじゃない。


 模造品を、これから自分たちでオリジナルに作り変えていけばいい。




 人工的に作った光で、今までの、これからの記憶を彩っていけばいいのだ。

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