5話 それが運命の出会いだった
太陽の光が照らされる。
最近雨が続いていたのが嘘かのように、今日は晴れていて、とても暑い。
そんな中、僕は1人歩いている。
早崎と別れた後、バスでそのまま帰るつもりだったが、久しぶり晴れていたこともあって、今日は歩いて帰ることにした。
家まで約4キロ程の道のり。1時間もあれば着く距離だか、途中には二本の坂もあり、ある程度の体力はいる道のりだ。
今は文化部に入っているため、昔に比べて運動の機会が減ってしまっていたので、たまにはこういうのもいいだろう。
暑さもあってかなり汗だくにはなるものの、もともと体力はある方だから、そこまでの苦ではなかった。
約1キロ弱歩いた時だった。
あと少しで坂道に入るため、少し気合を入れてながら信号を待っていると、反対側の歩道に同じ学校の女子生徒がいるのが見えた。
僕の通う学校では男はネクタイ、女はリボンの色で学年が分かるようになってる。
彼女が付けていたのは、僕と同じ黄色のリボンだったので、同じ1年生だと分かった。
僕が言うのもあれだが、よくこんな日に歩きながら帰れるなと、少し感心した。
彼女はゆっくりと足を進めながらも、何やら下を向いている。よく見ると、彼女の手には一冊の本が開かれていた。
どうやら、こんな暑い中本を読みながら帰っているようだ。家で読もうとは思わなかったのだろうか?
しばらく見ていて思ったのだが、彼女は全く顔を上げず、ずっと目を本から離していない。
歩き方もまっすぐというより、フラフラしながらあるていた。
この辺は人も車通りも少ないからいいものの、人がいるとぶつかったりしそうで少し心配になるレベルだ。
信号が変わり、彼女と同じ側の歩道に移る。
彼女は前の方を歩いていたため、僕は少し離れた位置で彼女の後ろをついて行ってるような状況になっている。
本を読んでいたのでゆっくり歩いているものと思っていたが、思ってたよりも歩くのが早い。
その速さで、しかもこんなにも暑いのに本を読みながら歩いているのはシンプルにすごいと思った。
しばらくそのまま歩いていると目の前に横断歩道が見えた。
信号は青が点滅している状況だったため、僕は止まろうとする。しかし彼女は足を止めなかった。
信号は完全に赤に切り替わった。
止めるべきか?と悩んだが、僕は彼女より数メートル離れて歩いてたため、止めるには走る必要があった。
幸い、この辺は車が少ないし、歩道自体も長い場所ではないため、止めなくてもいいかとも思った。
しかしその時、不運なことにまさかの大型トラックが向かってきているのが見えた。
しかも、人が来ないと油断しているのか、かなり早いスピードできている。
やばい、このままでは彼女は轢かれる!
僕は荷物を置いて急いで彼女の元へ走った。
なんとか間に合い、僕は彼女の肩を掴む。
すると彼女は、少し小刻みに震えて止まる。
そして、トラックは何事もなく通過していった。
ホッとしたが、慌てていたこともあって、ほんの数メートル走っただけなのにかなり息があがった。
僕は切らした息を整えながら彼女に話しかける。
「前、見ないと危ないよ」
僕がそう言うと、彼女は周りをキョロキョロしだした。それで、ようやく自分の状況に気づいたようだった。
すると、彼女は夢中に読んでいた本を閉じ、こっちを振り向く。
さっきまでは分からなかった彼女の容姿がはっきり見える。
黒のショーヘアにはっきりした瞳、その不健康なまでに白い肌には、たくさんの汗が滴っていた。
体は華奢で小さく、すぐにでも倒れてしまいそうに見えた。
彼女は僕を見て微笑みながら言う。
「ありがとう。助かったよ」
優しい声だなとか可愛い顔つきだなとか、色々思うことはあった。
しかし、感謝を告げる彼女を見て、僕はつい思ったことを口に出してしまった。
「笑うの、下手くそだな」
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