1話 それが学校生活と言うもの

 僕、君波幸人きみなみゆきひとはいつも通りの朝を迎える。

 アラーム通りに起き、軽く朝食を食べて、身支度を整え、時間に余裕をもって学校へ向かう。


 高校生になって、2ヶ月ほど経った。

 これだけ時間が経てば、ある程度のクラスでの立ち位置は決まってくるもので、それぞれが自分の立場に合わせて行動していくことで、クラスは上手くまわっていく。

 それが例え、自分が理想としていたかたちと違っていても、一度できてしまったクラスでの状況からは簡単に変わることはできない。

 それが学校生活というものだ。


 家を出て1時間ほどで学校に着いた。

 校門前に立ってる教師に挨拶し、朝練に取り組む運動部の人達とすれ違い、校舎に入り、自身のクラスである1年3組の教室に入った。

 すると、入ってすぐ、1人の男が僕のもとへ駆け寄ってきた。


 「お、きみっちオッハー!」

 男のうるさい声が教室に響く。

「おはよう。今日も一段とうるさいな」

「うわー!いきなりひどくね!相変わらず厳しいね、きみっちは!」

「ははは……」

 朝からそのテンションは勘弁してくれ。そう思いながらも、僕は愛想笑いを浮かべた。

 ちなみにだが、僕をきみっちと呼ぶのは彼ぐらいで、正直やめてほしいと思ってる。


 彼はクラス1のチャラ男だ。

 髪は金髪に染めていて、乱れた制服に首にはネックレスと、見た目は完全に不良。

 だが、見た目の割には社交性も高く、クラスでも特に怖がられたりはしていない。いわゆる陽キャと呼ばれるやつだ。

 正直僕は苦手にしている。


「でさー、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 チャラ男が目をキラキラさせながらこっちを見てくる。

「はいはい。で、なんのよう?」

 僕が聞くと、チャラ男は周りに人がいないのを確認して、僕にこそっと話し出した。

「実は気になってる子がいてさ、その子好きな漫画があるらしくて、きみっち持ってないかなって思って」

「ああ、そういうことか」

 つまり、仲良くなる口実に相手の好きなものを知ろうということなのだろう。

 いかにもチャラ男が考えそうな安直な策だ。

 しかし、別に断る理由はなかった。というか、早く用事を済ませたいので貸すことにした。

「貸すのはいいけど、絶対に汚すなよ」

「分かってるって。約束するからー」

 なんだか信用できないような言い方だが、今はとりあえず早く席に座りたかったので、適当に済ませようと思った。

「はいはい。で、貸してほしい漫画って何?」

「えーと、あれだよあれ、なんか主人公がヒーローを目指すってやつ。ほら最近流行ってるやつ」

「せめてタイトルくらい覚えとけよ」

 どんだけ適当なんだと、正直呆れた。しかしなんとなく言いたい漫画はわかったので、タイトルを言ってみると、多分合ってると曖昧な返事が返ってきた。どんだけ適当なんだ。

 でもまぁ、本人が合っていると言ってることだし、それでいいということにした。

「じゃあ明日持ってくるから」

「よろしくねー♪」

 チャラ男は適当な返事をすると、自分の仲のいいメンバーの所に戻っていった。


 朝から必要以上に疲れた。

 ようやく自分の席に座ることができた。

 ほっと一息ついて、カバンから一冊の本を取り出した。

 昔から本を読むことが好きで、よく空いてる時間には学校では小説、家では漫画やラノベなど、様々な本をよく読んでいる。

 一度背伸びをして、さあ読み始めるぞと本を開こうとすると、誰かが僕に近づいてきた。


「幸人くんおはよう」

 僕は基本、名前の方で呼ばれることの方が多い。

 理由としては、ただ君波きみなみと言う名字が少し言いにくいからということらしい。

 そのため、チャラ男のような変な人を除くと、基本はみんな僕を名前で呼ぶ。

「おはよう、どうしたの?」

 顔を上げると、そこにはクラスで大人しい部類の女子2人がいた。

 理由はよく分からないが、なんだか不安そうな表情をしているようにも見えた。

 だから、なるべく柔らかい表情を意識して、彼女達に目を合わせるようにした。

 すると、少しは不安は安心したのか、さっきよりも緊張がなくなっているように見えた。


「あの、もし良かったらこのプリントを前橋まえはしくんに渡してくれませんか?」

 そう言うと、彼女達の1人がクラスメイトの前橋宛のプリントを僕に渡してきた。

 おそらく、先生から預かってプリントだろう。

「前橋ならそこにいるから渡せばいいのに」

 僕の言うように前橋は今、後ろの方で友達だちと思われる人達と談笑していた。

「そうなんだけど……」

 彼女達はまた不安そうな表情に戻っていた。

「あの……前橋くん、いつもよくわからない話してるから少し怖くて……」

「ああ、そう言うことか」


 なんとなく、2人が思っていることはわかる気がする。

 僕自身、前橋とはたまに話すことがあったから、彼のことはなんとなく知っているけど、知らない人からすれば、確かに変なやつに見えてもおかしくないやつだ。

「分かった。渡すだけでいいんだよね?」

 僕が引き受けると、彼女達はほっと胸を撫で下ろした。

「ありがとう。特に伝言とかはなかったよ」

「了解」

 僕が笑って承諾すると、2人はペコっとお辞儀して、自分達の席へ戻って行った。

 さてと、渡しに行くか。

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