第183話 暴力姫の再始動

「……ということがあって、ラナンさんが弟子になりました」


「そうですか。ついにルーミアさんもそういう立場になりましたか……」


 帰宅して二人きりになり、ルーミアはリリスに甘えながら今日の出来事を楽しそうに話していく。

 ルーミアに負け、ルーミアの強さを見込んで教えを受けに来た少女ラナン。

 その弟子入りに、これまでルーミアの冒険者活動を支えてきたリリスは感慨深いものを覚えていた。


「パーティの斡旋を拒み続けていたルーミアさんが弟子を取るとは……何が起こるか分かりませんね」


「まあ、パーティ斡旋なら今でも拒みますが」


「相変わらず一人の方が楽なんですか?」


「うーん、どうなんでしょうね? あ、でも……リリスさんとなら組んでもいいですよ?」


「嫌ですよ。ルーミアさん効果でただでさえ忙しいんですから、そんなことしている暇はありません。それに――」


「それに?」


「いえ、なんでもありません」


(もう、あなたの足手まといになるのはこりごりです)


 ルーミアの性能は基本的に一人で完結している。

 一人でいる時が一番強い。味方がいると弱くなる。


 ルーミアがそんなことを気にしないのはリリスも承知している。だが、ルーミアに守られ、ルーミアが傷付く姿を間近で見てしまったリリスだからこそ、ルーミアの傍に守るべきものはない方がいいと知っている。


「私を冒険者活動に引き摺り出そうとしなくていいので、お弟子さんをどう強くするか考えたらどうですか?」


「といってもラナンさん別に弱くないと思うんですよね。冒険者活動は控えめだったみたいなのでランクは低いですが、あの感じなら実力的にソロBランクは固いと思ってます」


「仮にも決勝戦まで駒を進めた強者ですからね。ルーミアさんがズルするせいであまり目立たなかっただけで」


「ズルはしてません」


 ルーミアは近距離タイプのアタッカー白魔導師だ。オーソドックスな中・遠距離対応の魔導師に対してはめっぽう強い。

 そのこともあり、血の汗握る戦いはアンジェリカとの激戦以外では見られなかったし、強すぎるあまり出禁にもなった。


 リリスの言い分もあながち間違いではないのだが、ズルと言われるのは不満があるのか、ルーミアは食料を口いっぱいに頬張ったリスのように頬を膨らましている。

 そんなほっぺたにリリスの指が押し当てられ、ぷすぅと空気が抜ける。


「ラナンさんは私が依頼を受けてるところに同行して、私が戦ってるところを見たいらしいですが……そんな暇ありますかね?」


「別にギルドに完全拘束されるわけではないので依頼を受ける分にはいいと思いますが……私はあまりおススメしませんね」


「どうしてですか?」


「どうせルーミアさんの高速戦闘に置いてきぼりにされるのがオチです」


「あ……」


 観察も強くなるためには必要なことだろう。

 強い者や自分とは異なるスタイルで戦う者を見て学ぶことも多くある。


 しかし、ルーミアにそれが当てはまるかと考えたら、リリスは首を縦には振れなかった。

 基本的にルーミアの動きは早い。それに着いていける身体能力と動体視力。

 それらがなければ見稽古は成り立たない。


 ラナンがルーミアにまったく反応できないわけではないのは分かってはいるが、大会決勝でのルーミアはそれなりに手を抜いている状態だった。

 全力で依頼を遂行しようとするルーミアが果たしてラナンに合わせられるか。そういう問題もあり、リリスはその案に否定的だった。


「そうなったら私がやれることは一つしかないですね」


「なんですか?」


「とりあえず暴力で適当にしばきます。アンジェリカさんのスタイルで戦うのなら、まずは相手を寄せ付けないところから完璧にしていきたいですからね」


「……ラナンさんがかわいそうです。戦いの中で得られることもあるとは思いますが……あんまりいじめちゃダメですよ?」


「……善処はします」


 拳で身体に叩き込む。

 脳筋的な修行ではあるが、理にはかなっているだろう。


 アンジェリカのように相手を寄せずに魔法でコントロールし続ける戦法を取るラナンが、ルーミアを退けられるようになれば成果としては上々。

 問題があるとすれば、ルーミアがどれだけ手加減できるかだろう。


「じゃあ、これをお返ししないといけませんね」


 ルーミアが弟子を取ったを聞いた時は、ろくに考えもせずに決めたことだと思っていたリリスだったが、話を聞いていくうちにちゃんとラナンのことを考えていることが分かった。

 やはりルーミアも冒険者。戦場に身を置くことを望んでいるのか、暴力について語り出すと生き生きしていた。


 ルーミアの死を遠ざけたい。危険なことはもうしてほしくない。白魔導師としての確かな腕があるのだから、回復支援で活躍して安全に過ごしていてほしい。

 そう思っていたリリスだが、やはりルーミアに暴力は必要なのだと再認識させられた。


「ルーミアさんの装備です」


「わっ、回収しててくれたんですね。ありがとうございます!」


(純粋な笑顔が痛い……)


 リリスはルーミアの装備品を返した。

 ただの白魔導師としてではなく、物理型白魔導師として再起するのには必要不可欠な彼女の象徴。


 それを受け取ったルーミアは愛用の装備と再会して嬉しそうにリリスにお礼を言う。

 完全なる私情でわざとそれを隠していたリリスは、ほんの少し心が痛むのを感じるのだった。


 ◇


【偶然助けた美少女がなぜか俺に懐いてしまった件について】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330664927884559

 一年半くらい前に投稿していた作品のリメイク版となります

 ボーイミーツガールのラブコメ恋愛系です~

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