第184話 能力の確認

 ラナンを弟子に取った翌日。

 ルーミア達はギルドの訓練室を借りて、最初の特訓を行おうとしていた。


「てっきりいきなり依頼に駆り出されるもんかと思ってたわ」


「別にそれでもいいのですが、あまり長くギルド離れるのは心配なので……ここならラナンさんを安心して見られます」


 ルーミアは指名依頼の関係上長々とギルドを外せない。極論、大した負傷ではない冒険者の治療は後回しにしてもいいのだが、ギルド職員を含めてもルーミアの回復魔法が一番効果が高い。


 万が一ルーミアがギルドを外している時に、ルーミアしか対応できないような負傷者が運び込まれるようなことがあっては目も当てられない。


 もちろん、そこまでする義務はないのだが、ルーミアも依頼として受けているからには最善を尽くすつもりだ。


「なんかあったらリリスさんが呼びに来てくれるので……まずはラナンさんのできることを見せてください」


「できること?」


「扱える魔法の種類、威力、射程、速度、制御の質などを知りたいですね。私、ラナンさんのことあんまり知らないので」


「仮にも大会の決勝で戦った相手よ? 事前リサーチとかしてないわけ?」


「……さっ、テキパキやりましょー」


「おい! 目を逸らすなっ」


 ラナンからのご尤もな言い分にルーミアは目線を逸らした。


 ルーミアはラナンの言ったような対戦相手の調査、観察などは一切しなかった。その時間をリリスに構ってもらうために費やしていたルーミアは、当然ラナンの戦いぶりも見ていない。


「ま、まぁ……いいじゃないですか。どうせラナンさんも全試合で全力を出していたわけでもないと思いますし、決勝やその先のことも考えて余力を残すことも考えてましたよね?」


「……それもそうね」


「そういうのナシの全力を見たいので……とりあえずラナンさんのスペックを測らせてください」


「そういうことなら……分かったわ」


 ルーミアの眼中にもなかったと言わんばかりの発言に一瞬頭に血が上りかけたラナンだったが、その言い分にある程度の納得があったためか大人しく引き下がる。


 そして、思ったよりしっかりと指導をしてくれそうなルーミアの面倒見が良さそうな様子に少しばかり感心したラナンは、ひとまず彼女の言うとおりにしてみることにした。


 目線の先には、ルーミアが並び立てた魔法用の的がある。

 半身になり、指を向ける。

 その動作はかの魔弾のアンジェリカを彷彿とさせる。


 魔力の起こり。流れ。魔法の構築。展開。射出。

 アンジェリカに憧れを持って、彼女のスタイルを模倣するラナンは、その姿は確かにアンジェリカを幻視させる。


 それでも劣る。

 もし仮にラナンがアンジェリカと全く同じように振る舞えるのなら、とっくに第二の魔弾として名を挙げているだろう。


 形だけ真似ても、中身が伴っていなければ意味はない。

 だが――。


(超劣化版と言ったのは謝らないといけないかもしれないですね)


 改めてきちんと能力を測ってみると、思いのほかやれる。

 目の前の対戦相手としてではなく、横から客観視して、ルーミアはラナンの評価を改めた。


(この完成度なら……戦闘慣れさせれば私に攻撃を通せるようになるかもしれません。そうなれば……実質アンジェさんみたいなものです)


 言われた通りに魔法を放ち続けるラナンの必死な様子に、ルーミアは心躍るのを感じた。

 磨けば光る才能の原石。光らせることができるかは、自分の腕にかかっていると思うと、無性に楽しくなってくる。


「ちょっと! さっきから黙ってるけどなんかアドバイスとかないわけ?」


「アドバイスはまた後でします。それより……次の段階に進みましょうか」


「次? もう的当ては終わり?」


「私自身アンジェさんについてはよく知ってるので、ラナンさんとアンジェさんの差はよく分かりました」


 今はまだルーミアには届かない刃。

 その刃をルーミア自らで研いで、磨き上げる。


 そのための第二ステップ。

 指を二本立てて、にっこりと微笑むルーミアはラナンに地獄の宣告をした。


「次は私と鬼ごっこをしましょう」


「鬼ごっこ?」


「はい。私はラナンさんを追いかける。ラナンさんは私に捕まらないように逃げる。要は魔法を使って相手を寄せ付けずに自分の思うにようコントロールするアンジェさんのスタイルを磨く訓練ですね」


「それは分かったけど……あんたと鬼ごっこ? 成り立ってないじゃない」


「もちろん色々制限はつけますよ」


 ルーミアの次のプラン。

 実戦形式を想定した、アンジェリカの魔法スタイルの強化。


 魔法を駆使して、ルーミアを寄せ付けないようにして逃げる。

 ラナンに課せられた課題は、簡単なようで難しい。


 ルーミアの機動力を際限なく発揮してしまえば勝負が成り立たないため、いくつかの縛りは設けることになる。


「その代わり……捕まえて何もなしだと緊張感がないので……捕まえる度にしばいてあげます」


「ひっ」


「頑張って逃げてくださいね?」


 ニタリと悪魔の笑みを浮かべる。

 その不気味な笑みにとてつもない威圧感と悪寒を感じ、ラナンは背筋を震わせて小さく悲鳴を漏らした。



〖偶然助けた美少女がなぜか俺に懐いてしまった件について〗

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