第181話 悪魔を探して
沈黙がしばし続く。
感動の再会。あるいはライバルとの邂逅。
そんな劇的な雰囲気を醸し出して現れた少女は、ルーミアの記憶にはない。
だが、この少女とルーミアは初対面ではない。
それを知っている――否、覚えているリリスは、口を開けて固まっている少女が不憫でならないと思い横から口を出した。
「ルーミアさん、この人アレです。決勝で戦った人ですよ」
「……決勝? そんなのありましたっけ?」
「あんたが出禁になった大会があったでしょうが」
「あ、あぁ〜、それですか。そんな大会もありましたね」
リリスが耳元で助け舟を出してくれた。
だが、それでもピンとこないのかルーミアはリリスとその少女を交互に見やる。
「えっと……どちら様ですか?」
「ぐふぉっ……」
ついには思い出すことを諦める始末。二度目の首傾げに少女はダメージを受けたのか、あんぐりと口を開け、わなわなと震えている。
「なるほど〜。私なんか覚える価値もないと……そういうことか白い悪魔。へぇ、なるほど〜」
「別にそうは言ってませんが……あっ」
「思い出しましたか!?」
「アレですよね。超劣化版アンジェさんみたいな人!」
「ぐはっ」
ポンと手を打ったルーミアが記憶の奥底から引きずり出した情報。ルーミア視点での率直な感想と評価。
思い出してもらったものの、あまりにも辛辣な評価に少女は膝を着いてガックリと肩を落としている。
「ルーミアさん、そうな風に言うのはよくないですよ」
「あ、すみません」
「ふ、ふふ……超劣化版……。ちょっとは近付けてると思ったのに……」
ルーミアの率直な評価に傷付いた彼女はしばらくの間落ち込んだ。
◆
「ふぅ、ごめんごめん。取り乱したよ」
「いえ、それはこちらも悪かったのでいいですが……結局あなたは?」
「私はラナン。そっちの受付嬢さんの言った通りあなたと大会の決勝で戦って、あなたの記憶に残らないくらいに瞬殺された超劣化版よ」
「……めっちゃ根に持ってる……」
少女が落ち着いたことで、治療スペースに腰掛けて自己紹介を始めた。少女はラナンと名乗り、ルーミアにガンを飛ばしながら自虐する。
ルーミアに覚えていてもらえずに、さらには超劣化版アンジェリカと称されたことをかなり根に持っているようで、桃色の髪の下から覗く橙色の目は鋭く細められている。
「えー……ご存知かもしれませんがルーミアです」
「ルーミア、ね。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。ところで……私を探してたと言ってましたが……何か用ですか?」
ラナンはルーミアを探していたと口にしていた。そのことから何かしらルーミアに用があることが窺える。
こうして互いの名前を知ったところで本題に入ろうとしたルーミアだったが、ラナンは言いづらそうに口ごもらせている。
「その……私ってルーミアに負けたでしょ? つまり私に勝ったあなたは私より強いってことで……えっと」
「そんな慌てなくても大丈夫ですよ」
「……単刀直入に言うわ。あなたの強さの秘訣を知りたいの」
ラナンは余計な言葉で塗り固めるのをやめて、ルーミアに会いに来た目的を単刀直入に伝えた。
真剣な眼差し。わざわざこのユーティリスまでルーミアを探しに来る熱意。そして――ルーミアの持ち強さの秘訣を暴き、自らの糧にしようとする強かさ。
そんな短い言葉に込められたたくさんの想いにルーミアは驚き、呆気に取られていた。
「そのためにわざわざこちらに?」
「そうよ。大会の後に配られた号外で白い悪魔のことがでかでかと書かれてたわ。それでユーティリスで活動している冒険者だって知って、いてもたってもいられずに来ちゃったのよ」
「……ふふ、思い立ったが……というやつですか」
「笑うな! 強くなるためになりふり構ってられないのよ!」
「ですがあなたの魔法戦闘スタイルは既に確立されているのでは? アンジェさんのスタイルじゃダメなんですか?」
ラナンはアンジェリカに憧れ、アンジェリカの魔法戦闘スタイルを真似して、形にしていた。ルーミアはアンジェリカという最高峰を既にその身で味わっていたため、ラナンに苦戦することもなかったが、並の相手ならば手も足も出ないだろう。
事実、ラナンも大会の決勝まで駒を進め、アンジェリカへの挑戦権まであと少しというところまで来ていた。
ルーミアは色々と濃い出来事があって大会のことなどすっかり忘れてしまっているが、別にラナンが弱かったとは思っていない。
そんな彼女がなぜルーミアを選んだのか。
アンジェリカの中・遠距離対応の戦闘スタイルを既に形にしているラナンが、まったく戦闘スタイルの違うルーミアに白羽の矢を立てたのか。
「アンジェリカさんの本気をルーミアは超えた。後ろを追っている私は同じことをしているだけじゃ追い付けないし、その先をいくあんたにも届かない。だから、アンジェリカさんに勝ったあんたからも強さを学ぶのよ」
「……そういうことなら光栄ですね。でも、しばらく何かを教える時間は取れないと思いますよ?」
「それはいいわ。勝手に来て、勝手に頼んでるのは私だし、とりあえずは近くで見て学ばせてもらうわ」
「はぁ……それでいいのなら構いませんが」
そう言ってルーミアはラナンに手で持って掲げる看板を手渡した。
訳も分からずそれを受け取ったラナンは、不思議そうにしている。
そして――数時間後。
「はぁ!? ルーミアって白魔導師なの!?」
そんな叫びがギルド内に響いた。
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