第180話 実は回復魔法も得意
その後、ルーミアにはギルドからの指名依頼がきた。事前にリリスが予想していたということもあり、それ自体に驚きはなく、ルーミアはすんなりと受け入れて承諾した。
ギルド常駐の回復魔法要員は、ルーミアにとっては楽な部類の仕事だ。
日によって忙しさは変わるものの、やることは単純。ルーミアほど洗練された回復魔法の使い手であれば一人あたりの治療にそれほど時間を割くこともなく、よっぽど大人数の負傷者が押し寄せてこない限り魔力切れの心配もない。
討伐依頼と違って、ルーミアからアクションを取る必要もない。
高い戦闘力を有するルーミアだが、その支援能力も一級品。回復支援に特化すれば、たちまち白魔導師としての威厳を取り戻すことができ、ルーミアが暴力しか取り柄のない女ではないと瞬く間に証明することができる。
「ルーミアさんがちゃんと白魔導師しているなんて珍しいですね」
「そのくだり……もう何回目か覚えていませんが、私、回復魔法も得意なんですよ」
「よく知ってますよ。しかし、こうして専用のスペースまで用意されちゃって……いよいよギルドの職員よりギルドの仕事していませんか?」
今まではギルド内であればどこにいてもいいということで、リリスの近くで待機していたルーミアだったが、負傷者の増加が予想されるということでギルドの一角に専用のスペースを設けられることになった。
そこでせっせと看板などを用意しているルーミアに様子を見に来たリリスは懐かしむように微笑んだ。
ルーミアの白魔導師としての腕は理解しているはずなのに、白魔導師としての振る舞いにどうにも違和感を覚えてしまうのは、リリスがこれまで何度もルーミアに討伐依頼を用意してきたからだろう。
「しかし……本当に出張治癒院みたいな感じですね。依頼の概要はどんなだったんですか?」
「人の流れが落ち着くまで継続の依頼ですね。なるべくギルドにいる時間を長くしますが、別にずっといる必要はないみたいです。落ち着いた時間に討伐依頼を受けにいくのもアリみたいですよ」
「……ルーミアさんならちょっとの時間を利用して討伐依頼もこなしてきそうですね」
今までは臨時の回復魔法要員として、ルーミアの気まぐれで依頼を受けた時のみの仕事だったが、ギルドからの指名は単発ではなく長期期間の依頼だ。
とはいえ、ルーミアをずっと冒険者ギルドに縛り付けておくものではない。
ルーミアが不在の時にはちゃんと本職のギルドの職員が治療の対応をするだろうし、ルーミアにも自由な時間が確保されている。
「今はまだないですが、ハンスさんが私を呼びだすための魔道具を用意してくれるらしいですよ。私がいないときに私の回復魔法が必要になった時に、呼び出しできるようにしたいらしいです」
「へー、確かにそれは便利ですね。ルーミアさん足早いので」
「それが用意できるまではこっちにいますよ。せっかく場所も用意してもらっちゃったので……頑張って冒険者さんの治療をして、徐々にスペースを拡大して、ギルドの半分を乗っ取るのがとりあえずの目標です」
「……ルーミアさん、なんだかんだマスコットみたいで冒険者人気ありますからね。不可能ではなさそうですが……事業拡大はよそでやってください」
今はまだギルドの一角ではあるが、ルーミアが本気で活動すればスペース拡大も狙えるだろう。いずれはギルドとしてのスペースを侵略するのが目標だと宣う彼女にリリスは困惑したように薄く笑う。
「分かってますよ。冗談です。私は今日はこっちなので少し離れちゃいますが……リリスさんもお仕事頑張ってくださいね」
「今日の私はいっぱいけがをする予定なので、治されに来ますね」
「どんな予定ですか、それ?」
専用スペースを得たことで、ルーミアとリリスは離れて仕事をすることになる。
にっこりと笑顔でリリスに激励の言葉を贈るルーミアだったが、返事に謎宣言を受けて固まった。
事務作業の一環で怪我をするということは無きにしも非ずだが、ここまで自信満々に怪我をする予定だと宣言されるのも中々ないだろう。
それが会いに来てくれる口実だというのは分かるが、ルーミアとしてもリリスが怪我をするのは心が痛む。
「けがはしなくていいので普通に来てください。私はそれだけで嬉しいです」
「……! そういうことなら仕方ありませんね。寂しんぼのルーミアさんに顔を出してあげます」
「……別に寂しんぼじゃないですが……待ってます」
何か特別な理由など必要ない。ただ来てくれるだけでいい。
そう告げるルーミアにリリスは驚いたように目を丸め、嬉しそうに笑った。
そんな二人の元に一人の少女がやってきた。
どうやらルーミアに用があるようで、リリスには目もくれずに近付いてくる。
「やっと見つけた。白い悪魔……っ! 探したよ……!」
「……えっと、どちら様ですか?」
因縁をつけるかのように指をさす少女にルーミアは呆気に取られている。
少し考えて……心当たりがないルーミアは、困ったように笑い首を傾げた。
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