第177話 いただきます

 その後、おんぶや抱っこ、肩車を繰り返しながら二人は家に帰ってきた。

 帰路であるにもかかわらずすでに散々焦らされたルーミアは、おぼつかない足取りで玄関で膝をつき、息を荒げさせていた。


「どうしたんですか? 顔が赤いですよ?」


「誰のせいだと……。白々しいんですよ……」


「そんな反抗的なことを言っても身体は正直ですね」


「あっ、んんっ……待って」


 首、ふともも、尻などを重点的にイジメられたルーミアの身体は火照りきって震えている。そんなルーミアの赤らんだ頬にリリスの手が吸い付き、下を向いていた顔が引き上げられる。


 ルーミアは自然とリリスと見つめ合う形になる。帰宅までの短い時間でルーミアの心と身体をここまで育て上げた張本人の意地悪で扇情的な瞳。そんな瞳から目が離せないルーミアは、僅かばかり残されていた反抗心で抵抗の声を上げるが、それすらも一手で咎められる。


 頬からするりと首筋に移るしなやかな指先。それだけで身体に燃え上がるような熱が走り、ルーミアの鼓動が高まり、強制的に甘い声を吐かされる。弱点などはもうお見通しと言わんばかりに目を細めて舌なめずりをするリリスは、この二人の愛の巣では完全に捕食者として君臨していた。


「本当にかわいいですね。首輪を着けちゃいたいです」


「あっ……」


「どんな首輪でも似合いそうですね」


「ダメ……っ。なんかきちゃいます……っ」


「それはよくないですね。まだ我慢してください」


 リリスが両手で輪を作ってルーミアの首にぴったりと添わせる。

 ルーミアの潤んだ瞳が揺れ、震える身体、震える声が制止を訴える。

 さすがに玄関で限界を迎えるのはいただけない。楽しみはまだまだこれからだとリリスは目を細めて、ルーミアの首から手を離し、頭を優しく撫でた。


「お風呂……は後でいいですか。どうせべたべたになります」


「あの……明日も、仕事……」


「……そんな状態で放置していいんですか? 気持ちよく……なりたいでしょう?」


「あぅ……」


 捕食寸前。なんとか逃れる術はないかと呂律の回らない舌を動かしてみるも、焦らされて火照ってしまう身体は、リリスの囁く甘言に正直な反応を示してしまう。

 無意識の内に求めているのはルーミアの方だった。それを心身で理解させられたルーミアは、もうリリスに逆らえなかった。


「早く……」


「はい?」


「好きにしてください」


「……それで?」


「うぅ……いじわるぅ。お願いです。早く……めちゃくちゃにしてください……っ」


「よくできました」


 リリスの腕に縋りついて、ルーミアは懇願する。

 満足のいく回答を得たリリスは、妖艶な笑みを浮かべていた。





 半ば引き摺られる形で寝室に連行されたルーミアは、ベッドの上に放り出され、リリスに組み敷かれる。

 一枚、また一枚と衣服をゆっくりと剥ぎ取られていき、最終的には生まれたばかりの姿となり、ルーミアは恥ずかしそうにリリスから目を逸らした。


「やっぱり期待してたんですね」


「……言わないでください」


「これ、見えますか? こんなに濡れそぼって……下着、ものすごく湿ってますよ?」


「それはっ……リリスさんが焦らすから……っ」


「はいはい。焦らしたぶん……いっぱい気持ちよくなりましょうね」


「……はい」


 これから与えられるだろう快楽を、ルーミアはもう知っている。

 どれだけ鳴いて喚いても、リリスが決して手を緩めることがないのだと、ルーミアはもう知っている。


 だが、散々に焦らされて、これからされる行いにどうしようもなく心が期待してしまっている。抗えずにこくんと頷いたルーミアは、目を瞑り、唇を尖らせて差し出した。


「いい子ですね。正解です」


 すでにとろけきっているが、リリスはゆっくりキスでほぐしていく。初めは触れるだけの優しく長い口付け。そして、だんだんと激しく貪るような情欲的なキスへと移行していく。


 そんな中、一度呼吸を挟んでルーミアのだらしなく蕩けきった顔を拝もうとしたリリスだったが、頭を押さえる手が伸びた。


 まだ。もっと。

 そう訴えるかのようにルーミアの唇はいやらしく水音を鳴らしていた。


 その要望に応じて、リリスはルーミアの閉じた唇を啄み、こじ開けて舌先を滑り込ませる。


「んっ、ぅ……っ!」


(生意気にも挑発したんです。そう簡単には解放してあげませんよ……!)


 息を奪う。そして……苦しくなったルーミアが解放を求めてリリスの身体を弱々しく叩く。


 まだ。もっと。

 今度は立場が逆転して、リリスが離れることを許さない。


 限界まで蹂躙し、貪り尽くして、ようやく息を求めて唇が離れる。ぬらりと引いた糸を舐め取りながら、リリスは小ぶりな胸を上下させて必死に呼吸をするルーミアを見つめた。


「かわいいですね」


「んあっ……」


 胸の先にある桜色の突起を指で軽く弾くと、上擦った声が跳ねた。

 もう、全身が準備万端で、リリスに触れられるのを待ち望んでいる状態だった。


「もうすっかりとろとろですね。顔も……こちらも」


「は……やく、っ」


「ふふ、では要望にお応えして……いただきます」


「あっ」


 いただきますという捕食の合図。

 その言葉がルーミアの耳を通り抜けた時、もう彼女は正気ではいられない。


 くちゅり、といやらしい水音が鳴り響く。

 それが、弾ける快感の始まり。瞬く間に彼女の頭の中を真っ白に染め上げる。


 リリスの気の済むまで、ルーミアは身も心も食べ尽くされる。悦びに震え、支配される。

 響く嬌声は――留まることを知らず、時間も忘れ、止めどなく流れ続けることになるのだった。

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