第176話 できない相談
その後もルーミアの出番は続き、久しぶりの依頼を忙しくこなすことになった。
魔力が尽きるという心配はなかったが、意図せずたくさんの冒険者と交流を図ることになったルーミアはくたくたになり、リリスにもたれかかりながら帰り道を歩いている。
「あの……重いのでちゃんと歩いてくれませんか?」
「そういう失礼なこと言うの、よくないと思います」
「じゃあ……もっといい感じにくっついてくれませんか?」
ルーミアの温もりを感じられることは喜ばしいことだが、それはそれとして非常に歩きにくい。
ルーミアは小柄な体型ではあるが、鍛えている成果もあり筋肉などの重みはある。そんなルーミアが脱力しながら横からもたれかかってくるのだ。リリスの不満ももっともだろう。
しかし、離れてほしいわけではない。もう少し歩行を阻害しないような密着の仕方はできないかとルーミアに問うと、ルーミアは少し考えて選択肢を提示した。
「前と後ろと上と下……どれがいいですか?」
「なんですか、その四択……? よく分かりませんが、じゃあ……前で」
「分かりました。では、失礼します」
どういう意図の選択肢が理解しないままリリスが答えると、ルーミアはリリスにもたれかかるのをやめて、リリスの前に回り込んだ。
そして、リリスの正面から腕を回して抱きつき、ぴょんと軽く跳ねて、足もリリスの身体に絡めて、抱っこされる形となった。
「前って……そういうことですか」
「えへー、そういうことです」
「わざわざ軽くなる魔法まで使って……仕方のない人ですね。ちなみに他の選択肢だとどうなっていたんですか?」
背中や腰に回された柔らかな手やふとももを堪能しながら、リリスは呆れたようにルーミアの頭を撫でた。
耳に伝わる嬉しそうな声色と吐息にくすぐったくなる。全身を使ってリリスを包み込むルーミアだが、軽くなる魔法をわざわざ使用しており、歩行の阻害はない。
しかし、ルーミアのこの状態も四つ提示された選択肢の一つ。仮に他のを選んでいたらどうなっていたのかとリリスが尋ねると、ルーミアは抱きつくために回していた腕や足の力を緩めても綿のように舞った。
そのままリリスの頭上を一回転してぺたりと背中に張り付き、肩から腕を回す。リリスも察したのか、後ろに手を回してルーミアのふとももを支えるように持った。
「まず後ろはこうですね」
「おんぶですか。最初からそちらを選んでおけばよかったですね」
「なんでですか……ひゃっ、ちょ、揉まないでください」
「かわいいおしりが手元にあるのが悪いです」
ふとももから手の位置をスライドさせてると、柔らかい臀部にたどり着いた。しっとりと指を這わせて、肉に沈める。その感触を遠慮なく味わうリリスにルーミアは小さく喘ぎ声を上げ、逃げるように飛び上がり、リリスの肩に座り込んだ。
「……えっち」
「なるほど。上は肩車ですか。ふとももを撫でてあげればいいんですか?」
「違いますけど……それなら、まぁ……」
「じゃあ遠慮なく」
「ひゃんっ。あの……触り方がいちいちいやらしいのなんとかなりません?」
「それはできない相談です」
与えられる刺激に思わず逃げ出したくなるルーミアだが、おんぶの際に学習したのか、リリスはがっちりとルーミアのふとももを押さえ込んでいる。
肩車から逃がさないという強い意志を感じてルーミアはされるがままに撫で回されるのみ。いやらしい手つきにむぅと頬を膨らませてリリスの頭をぺちぺちとはたくも彼女は意に介さない。
諦めたルーミアはリリスの綺麗な金髪を触って気を紛らわせることにした。
「そういえば下はなんだったんですか?」
「やります?」
「逃がしませんよ」
「……そうですか。下は単純に私がリリスさんの足にしがみついて地面に転がるので、そのまま引きずってもらうプランです」
「私がそれを選んだらどうするつもりだったんですか?」
「選ばれたのなら仕方ありません。引きずられてあげましょう」
「みっともないのでやめてください」
下を選ばなくてよかったと心底思うリリスは大きめのため息を吐いた。
「しかし……見ない顔の冒険者さんもちらほら見かけたので、もしかしたらしばらくは忙しくなりそうですね」
「号外の宣伝効果はやはりあるのでしょうか?」
「あると思いますよ。私の読みが正しければ、明日以降ルーミアさんにはギルドからの指名依頼が入るはずです」
「指名依頼? 何かあるんですか?」
「今日あったじゃないですか。ルーミアさんがいてくれたのでなんとかなってましたが、そうじゃなかったらパンクしてましたよ。なので、回復魔法を使える白魔導師のルーミアさんには、回復魔法要員としてギルド常駐する依頼が出るはずです」
本日の負傷者は普段に比べると多かった。それもルーミアがもたらした良い影響によるものだろう。
だが、その急増した負傷者を捌くことができたのは、ルーミアの魔力が底をつかなかったからだ。
そういった意味では、リリスのわがままやルーミアの気まぐれのおかげでなんとかなったと言えなくもない。
しかし、ルーミアが「今日は暴力の気分ですっ」といつもの様子で出かけ行ったら目も当てられないことになる。
そうならないために、ギルドの方からルーミアに依頼が舞い込む。リリスはそう予想している。
「へー、ってことはまたリリスさんと一緒にいられるってことですか?」
「どうでしょうね? あんまり忙しいとルーミアさんもあちこち引っ張りだこで、私も受付を開かなければいけないので……」
「そうですか……」
「なので、帰ったらいっぱい補給させてください。今日の分も、明日の分も」
「……お手柔らかにお願いします」
「ふふ、それもできない相談です」
肩車されていてルーミアからリリスの顔は見えない。
だが、声から意地悪する気満々であるというのが伝わり、ルーミアは顔を紅潮させる。
期待に胸が高鳴る。そんな行き場のない羞恥心を抱えて、ルーミアはリリスの耳を引っ張りながら悶えていた。
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