109話  勝負

<杠 叶愛>



「ちょっ…!叶愛!」

「キス……早くぅ……」

「………もう」



仕方ないと言わんばかりの顔で、連は上から優しいキスを送ってきた。私も目をつぶって、その優しい感触を堪能し始める。

いや、堪能するという表現は違うかもしれない。ほぼ襲い掛かるように下から唇を被せて、吸って、甘噛みして。

ねっとりと舌を絡ませて、誰のものかもよく分からない唾液を飲み込んで……もう火照り切っている体に、またもや火を灯して。

そうやって自分も知らないうちに、連の腰に足を回していく。



「あの、叶愛……動きづらいんだけど」

「………やだ」

「え?」

「離れたくない………」

「……………」



…………なんで、セックスをする時はいつもこんな風になってしまうのだろう。

幼稚園児みたいに連に縋りついて、全身を密着させないともどかしさを感じてしまって。どうしてこうなるのか自分もよく分からない。

でも連の体が暑すぎるから。その熱が心地よすぎるから……



「……分かった」

「………うん」



再び唇を重ねながら目を閉じる。触れ合っているところ全部が気持ち良すぎて飛んで行ってしまいそうだった。

最初からそうだった。連と触れ合うのはちっとも嫌な気持ちにならなくて、いつも思考がぼんやりして………私を内側からむしばんでいく。

この人じゃないと生きられないってことを、この肌が教え込んでくる。








「………あの、連」

「うん?」



セックスが終わった後、二人とも裸の状態でままったりベッドで話をしているところで。

とうとう私は溢れ出る好奇心に耐え切れずに、その質問を口にした。



「………どうだった?」

「なにが?」

「その………さっきの」

「うん……?気持ちよかったけど」

「…………本当に?」

「……いや、どうしたの?」



仰向けになっていた連は、体勢を変えて私に目を向けてきた。枕を両手で抱え込んでいた私は肩をビクッとしながらも、連の懐に潜り込むようにして体を動かす。

そのまま連の腕を枕にして、私は言い続けた。



「連は私としている間に……ちゃんと気持ちいい?」

「そりゃ気持ちいいけど……えっ、なんで?どうしたの?」

「………だって、エッチしている時っていつも私が先に達してしまうんでしょ?その時、連はいつも私に合わせてペースを落としたりするから……私としてはありがたいけど、連はどうかなって」

「………ああ、そんなことか」

「そんなことじゃないよ!それに私よりずっと声もあげないし、いつも余裕あるように見えるから……なんというか、彼女からすると複雑って言うか。悔しいの」

「ふむ………」



連は何も答えず、ただほほ笑みながら私の髪を撫で付けるだけだった。だけどそれと同時に、目を転ばせながらなにかを夢中に考えている。

数秒経ってから、連は何かを察したのかついに目を細めて言ってきた。



「………朝日向か」

「うぐっ……」

「当たりか……何を吹き込まれたんだよ。そもそも今までこんな質問したことなかったじゃん」

「それは……だって」



私は少しだけもじもじしながらも、連を見上げてから言う。



「不安だもん……わたし」

「………………」

「連が私とのエッチで満足していなかったら、その………いや、もちろん連を信じているけど。でも」

「気持ちいいよ」



私の言葉を遮って、連は大きく見開いていた目を徐々に戻しながら断言してくる。

ドクン、と心臓が落ちる感じがして、私は少し体を震わせてしまった。それを察したのか、連は苦笑を浮かべながら再び私を抱きしめてくる。

……不思議だ。さっきはあんなにムラムラしていた心臓が、今はこんなにほっこりしているなんて。



「先に言っておくけど、俺には叶愛しかいないし、叶愛としかやりたくない。これだけはこの先ずっと変わらないからな」

「………うん」

「それに、気持ちいいって言ったのも全部本当だから。まぁ、叶愛は昔から敏感だから、確かにペース落とすとか、動きに気をつけるとか無意識に色々やってるけどさ」

「……私、そこまでじゃないもん」

「いや、絶対に感じやすい体質だからな?さっきも派手に……」

「そ、それは…連が上手すぎるから!」

「……最初にした時からずっとそうだったぞ」

「違う!!」



………なんてことを言うの?!感じやすい体質って……私。

………まあ、そこそこ自覚はあるけど、でも彼氏に面と向かって言われると恥ずかしいというか、なんというか……

でも連は何がそんなに可笑しいのか、赤面している私を見てぷふっと噴き出してから言った。



「うん、こういうとこかな。俺が気持ちいいって感じるとこ」

「え?」

「ほら、今すっごく甘えてるじゃん?昔もそうだったけど、叶愛はエッチする時にいつも甘えてくるんだよ。なんか、上手に説明できないけど……叶愛が俺でよがっているところを見たら、俺も興奮するというか…………そんな感じ」

「…………本当に?」

「これを疑われるとは思わなかった……でも本当だから。叶愛としてて気持ちよくなかったことは一度もないよ。反応も可愛いし、基本的に叶愛は綺麗だし、後なんとなく……叶愛も上達してきたから」

「え?」

「………気付いていないのか?明らかに前よりテクニック上手くなってるけど」

「……………えっ、ウソ」

「ウソじゃないぞ」



連はなんだか複雑そうな顔で私の頬を指でツンツンと突いてくる。私はぼうっとして、さっきの言葉を頭の中で反芻していた。

えっ……そうなの?自分じゃ分からないけど……そうなんだ。

そういえば当たり前だよね……もう私たち、数えきれないほどエッチしてきたから。



「ぷふふふっ」

「………なんで笑うんだよ」

「ふと思っちゃって。連の体を一番よく知ってるのは私なんだって」

「……まぁ、違うとも言えないな」

「その内、私より先にイってしまうかもよ?」

「へぇ、それは何十年経ってもムリだな」

「言ったな~この彼氏」



……別に、勝負をしたいわけじゃないけど。でも連が気持ちよくなってくれるのあら、なんだってしてあげたいし。

だから私は連の体の上に乗っかって、彼を見下ろしながら微笑んだ。



「勝負しよ。今度は負けないもん」

「へぇ……やってみろよ」

「ふん」



お互い挑発的な笑みを浮かべながら、私たちはまたお互いを求め始めた。

ちなみに言うと、今回も私の大負けだった。

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