107話  彼女たちの悩み

ゆずりは 叶愛かな



れんとさんざんイチャイチャした来日、私は珍しく外出をしていた。向かう先はゆいの家だった。

本音を言えば毎日連に会いたいところだけど、彼の厳しい家庭事情を考えると、わがままばかり言うのも出来なくなる。

だから連と会えない日は、よく結の家に遊びに行ったりしていた。



「おはよう、叶愛ちゃん!上がって上がって!」

「うん、ありがとう」



いつも満面の笑みを浮かべて私を向かい入れてくれる結。本当に、結にはありがたい限りだ。

私と同じく、一人で暮らすにはちょっと広々とした家の中に入ると、結はさっそくジュースを注いだカップを持ってくる。

そのまま結はテレビの前にあるデスクに両腕を乗せてから、ソファーに座っている私を見上げてきた。



「そういえば結、昨日悩みがあるって言ってたよね?もしかして五十嵐いがらし君絡み?」

「あ、うん。そうだけど………えっと、叶愛ちゃんは最近、灰塚はいづか君とちゃんと会ってるよね?」

「うん、そうだけど……」

「そっか……羨ましいな」



他愛のない話をしながらオレンジジュースを飲んでみる。気のせいかとても甘くて、美味しく感じられた。

でもそれとは裏腹に、結は少し渋い顔をしながらため息を吐いていた。私は目を丸くしてから訊ねる。



「えっ、まさか五十嵐君となにかあったの?」

「ううん、そうじゃないけど……ただ響也きょうや君、最近妙に忙しそうなんだよね。週末にはいつもバイトのシフト入ってるし、それに最近用事があると言って平日にもまともに顔合わせてくれないから」

「……でも、毎日連絡はちゃんと取ってるんじゃない?」

「そうだけど物足りないんだもん~~春休み前は毎日会ってたのに」

「これは重症だな……」

「どの口が言うか。叶愛ちゃんも想像してみてよ。灰塚君と3日も会えなかったらどうなるのか!」



え、3日も会ってないの……?確かにそれはちょっと長すぎるけど。3日も連に会ってなかったら私、乾涸ひからびてひょろひょろになるかも……

でもありのままを話すのもなんかしゃくだったので、私はちょっとした咳ばらいをしてがら答えた。



「……コホン。じゃ一層、明日五十嵐君の家に押しかけてみたら?」

「あ、それは大丈夫だよ。明日は響也君がこっちにくるって言ってたし」

「……………思ってた以上にしょうもない悩みだった」

「ちょっと!!酷い!こっちは真面目に悩んでるのに!!」



いや、明日に会えるならなんでそんな深刻そうなメッセージ送ってたの?最近悩みすぎて夜もまともに寝れないとか……そんなこと言ってた気がするけど。

……私も他人のことは言えないけど、結も少し五十嵐君のこと好きすぎるんじゃ?



「まぁ……とにかく、それとね。叶愛ちゃんにもう一つ聞きたいことがあるの」

「うん、なに?」

「えっとね………」

「…………うん?」

「えっ、と………」



何故だか結は恥ずかしそうに目をあちこちに転がし始めていた。私は、わけのわからないまま小首を傾げる。

珍しいな。いつもさらさらと物事を言ってくる結がこんなに前置きが長いなんて。

不思議に思いながらも、私はもう一度ジュースを口に含む。

でも質問の内容を知った途端、私はそのままジュースを噴き出してしまった。



「…………その、エッチのことだけどね」

「ぷうううっ!!」

「ちょっ……?!叶愛ちゃん!?!」

「けほっ、けほっ………けほっ。え………え?」

「大丈夫?いや、それより早くティッシュ!」

「あっ、ごめん!ごめんなさい……」



ソファーに零した分とつい手についたジュースを全部拭い取ってから、私たちはデスクを囲んで向かい合う。いきなりエッチって言われてものすごくびっくりしたんだけど……

いや、なんで……?え?なんかあるのかな?



「本当にごめんね。でもその、エッチなことって……何が知りたいわけ?」

「えっとね………ちょっと生々しい話になるんだけど」

「うん、言ってみて」

「正直に言って私、ちゃんと響也君を満足させているのか気になって」



ふむふむ………え?



「えっ?どういうこと?」

「………だ、だから!ほらその……する時にさ。私ばっかり気持ちよくなってしまうんだよ。すごく体が敏感になったり、子供みたいに五十嵐君にすがりついたりして………ものすごく、する度に気持ちよくなるんだけどね?でも五十嵐君は私に比べたら、ちょっと反応が薄いというか……」



…………うわぁ、想像した以上に生々しい話。



「いつもは私が先にイってしまうから、五十嵐君がその…………は、果てるまで時間がかかるんだよね。それに声だって私はいつも大声であえいでるのに、五十嵐君は特にそんな声全然出さなくて。だから毎回ちゃんと気持ちよかったのか聞くんだけど、五十嵐君はいつも気持ちよかったとしか言わなくて……それで、本当にエッチで五十嵐君を満足させてるのか、それが分からないの」

「へ、へぇ………そうなんだ」

「……叶愛ちゃんから見たらどうなの?ていうか……叶愛ちゃんの方はどう?」

「わ……わたし?そうだね。私たちの場合は……」



応えながら、私は昨日連とした時のことを思い出した。

少し思い返しただけでも顔が熱くなるけど、それをどうにか表に出さずにずっと考えを巡らせる。昨日は私が先にキスして、連がベッドまで持ち上げてくれて、そのまま連に覆いかぶせられて……何度も………えっ。

……えっ、ちょっと待って。

そういえば昨日も私はさんざんイったのに、連は一回や二回しかイってなかったよね?

いや、そもそも最後には意識がぼんやりして上手く思い出せないけど……単に好き好きって繰り返すだけの人形みたいになってて………

えっ、待って。これって、もしかして私も…………?!



「……………えっ、と」

「うん。どうなの?」

「わ、私は………えっと………」

「……………叶愛ちゃん?」

「……………………」



ど、ど、どうしよう?!どうしよう?!どう応えたらいい??えええ………!

そういえば、今まで連にエッチで勝ったことは一度もなかった気がする……!いつも私ばっか先にイかされて、連はいつも私にペースを合わせてくれたり、私が収まるまで待ってくれたり……えっ、そんなことしか浮かばないんだけど?!

もしかして、連も……?連も私とのセックスで満足できていないの?え、そうなの?!



「ううっ………っ」

「……叶愛ちゃん」

「ど、ど、どうしよう………結」

「えっと、一旦落ち着こう?なんとなく分かったから、落ち着こう?」

「どうしよう……!私、もしかしたら連が私に飽きたら……」

「いや、普段の灰塚君の様子を見る限りそれは絶対にないよ」

「で………でも……!」

「………やっぱり叶愛ちゃんの方が重症じゃん。もう………はいはい。分かったから落ち着いて?」



まるで妹をなぐさめる姉のような口調で、結はそう言いながら私の隣に寄りかかってくる。

結局、その後一緒にネットで検索してみたり結の友達に聞いてみたりして色々調査をしたけど、これといった解決策は全く出なかった。

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