5章

85話  友達

朝日向あさひな ゆい



「本当?!おめでとう!!」

「ちょっ、結…!声が大きいってば」



週末、珍しく叶愛かなちゃんに誘われてカフェで一緒にくつろいでいた時、叶愛ちゃんは突然そのことを言ってくれた。

そう、ついに灰塚はいづか君と正式に付き合い始めたということだった。



「よかったぁ………はぁぁ。本当によかった。いつまで経ってもくっつかないから内心そわそわしたんだよ?」

「そんな大げさな……私たち、別に……」

「いや、どう見ても相思相愛だったからね?灰塚君もなんだかんだ言って叶愛ちゃんにだけすごく優しいし」



顔をほころばせると、叶愛ちゃんは少し照れくさそうに肯いてから口元を緩める。

もう、可愛いんだから。昔のクールな叶愛ちゃんも好きだけど、やっぱり今の乙女チックな叶愛ちゃんの方がいいかも……本当に、見ているだけでも微笑ましくなるし。



「……そんなにその、表に出てたの?」

「うん、それはもうバッチリ。目から灰塚大好き~ぴょんぴょぴょ~んてビーム打ってた」

「そ、そこまではしてない!!」

「ふふふっ、可愛い~あ、そうだ!どっちが先に告白したの?灰塚君?それとも叶愛ちゃんから?」

「……はいづ……れ、連の方から」

「……え?」



……え?今わたし何を聞かされたの?れん?

れんって、確か……は、灰塚君の名前…………



「れ、れん?」

「……うん。連」

「………………」

「ちょ、ちょっとそんな顔やめて!!恥ずかしいってば!」

「叶愛ちゃん~~!」



ええええ~~うそ!!

こんなのウソ。あの叶愛ちゃんが男の子を名前呼びするなんて!もう、もう、もう!!



「ああ~~お腹いっぱい。満足満足」

「………名前で呼ばなきゃよかった」

「ふふふっ、いいじゃん~別に。付き合っている仲なんだし、灰塚君も喜んでたんでしょ?」

「…それは確かに」

「へぇ、じゃ灰塚君も下の名前で呼んでるんだよね?」

「…………うん。叶愛って、すごく自然に呼んでくる」

「もう~バカップルですな~」



でも本当によかった………最初に嫌な噂をされた時にはどうなるかと心配してたのに、最高の形で結ばれて、本当によかった……



「そういえば、灰塚君はどんな風に告白してきたの?やっぱり夏祭り?」

「それは……その、い、言えない」

「えええ~」

「言えないのは言えないの。だって……二人だけの秘密にしておきたいし」

「ふうん~~」



叶愛ちゃんの口から二人だけの秘密か………すごいな、灰塚君。あんなに高嶺たかねの花だった叶愛ちゃんをこんな風に堕とすなんて。

まぁ、二人だけの秘密なら仕方ないかな。

私だって……人には言えない秘密の一つや二つくらいはあるし。



「それよりその、今日誘った理由なんだけど」

「え?これ以外にも何かあるの?」

「うん。来週の週末に時間空いてる?」

「まあ……普通に空いてるけど。どうして?」

「よかった。じゃ、私たちと一緒にプールに行かない?五十嵐いがらし君も含めて、4人で」

「………プール?」



プールか……まぁ、先週に友達と一緒に海に行ってきたから、また水に浸るのはちょっと避けたいけど。

でもこの4人とならまた別の形で楽しく遊べそうだし、いいっか。

それに、五十嵐君にも会えるし……ひひっ。



「うん、私は全然いいよ。五十嵐君にはまだ何も言ってないんだよね?」

「連が今日連絡するんだって。たぶんバイトのシフトと重なっていない以上は、来るんじゃないかな」

「私もそう思うけどね……夏祭りの日もバイト入ってたし、今のところは分からないな~」



あの時のことを思い出して、私は小さくため息をこぼす。

夏祭りは、結局五十嵐君とは一緒に行けなかった。よりにもよってその日に五十嵐君のシフトが入っていたのだ。

夏休みが始まってから、私はほぼ毎日のように五十嵐君の家に通っている。いつものように歩夢ちゃんと3人で遊んだり、時々香澄かすみさんに料理を教わったりもしていた。

その日常も決して悪くはないけど、私はもっと……五十嵐君との特別なイベントを欲しがっていたのだ。

五十嵐君ともっと一緒に、色んな事を見て色んな所を回りたいから。

彼女ですらないのに、こんなことを言うのはどうかと思うけど。



「ふふっ」

「うん?どうしたの?」

「ううん、こんな気持ちかなって。結が私を見る時の気持ち」

「………え?」

「今五十嵐君のこと考えたんでしょ?それを見たら、なんだか急に微笑ましくなってきて」

「ちっ、違うよ………」



少し唇を尖らせてから反論する。何故かすごく気恥ずかしかった。

……まあ確かに、3人で行くのもそれなりに楽しそうだけど。

でも隣にカップルがいるのに何をすればいいのか分からないし、二人の時間を邪魔させたくもないから、私にもパートナーが必要というか……



「一緒に遊びたいんでしょ?」

「それはそうだよ……友達だし」

「ふうん、友達か」



友達、という二文字が頭の中で引っかかる。

そう、私たちは友達だった。

五十嵐君に告白はされてたけど、私は未だに返事を保留している。あれから五十嵐君は特に返事を迫ることもなく普通に私に接してくれていた。

その日常はすごく楽で暖かいけど、でも今のままでもいいのか、という不安も共にくすぶっている。



「プール、4人で一緒に行けたらいいね」

「…うん、そうだね」



……本当、一緒に行けたらいいな。

そう思いながら、私は注文したキャラメルラテを一口すするのだった。

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