58話 お化け屋敷
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「お……お兄ちゃん」
「だ……大丈夫だよ、
お化け屋敷の中には当たり前というか、冷え冷えとした空気が
とりあえずこのまま立ち
そうやって歩いてから間もなく、目の前で赤い照明と共に髪の長い幽霊女が現れた。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
「…………あ」
歩夢があまりにも大きな声で叫ぶので、思わず僕まで驚いて叫んでしまった。背筋がゾッとしてしまう。
歩夢はもう何も見たくないのか、体をぶるぶるさせながら僕の胸元に顔をうずめていた。
「ううっ……怖い、怖いよ、お兄ちゃん…」
「…わかった。えっと、じゃこのまま進もうか。ほら、歩夢は顔うずめてて?」
「うん……」
「朝日向さんはどう?大丈夫?」
「………あっ……あ、うん!全然、ぜん~ぜん、平気だよ?ほ、ほら!」
……その割には、顔がけっこう固まってるけど。
とにかくこれ以上追及する余裕もなかったので、僕は歩夢を抱き留めたまま前へ進んで行った。
そして次々と現れる見苦しい死体と血痕。口を大きく開けたままうめいている化け物まで、屋敷の中の装置はその種類も様々だった。
僕はもちろんびっくりはしたけど、さすがに子供の頃よりは成長したのか膝の力が抜けたり、逃げ出したりすることはなかった。
その代わりに血が出るほど唇をぐっと嚙みしめながら、隣に朝日向さんがいることを意識して前へと踏み出そうとした。
そこで、突然にして朝日向さんに声をかけられる。
「……あの、五十嵐君」
「うん?」
「ちょっと……その」
しぶしぶ言いながら、彼女は半袖である僕のシャツの袖をぎゅっと掴んできた。
「…えっと、もしかして朝日向さんも」
「全然!怖くないから!でも、ほら……さ、寒いから!ここは結構冷えてるし……!」
「あ……うん。分かった……じゃ、行こう」
……寒くなったのと袖を掴むのに、どんな関係があるのかは分からないけど。
でも頼られているってことだよね……よし、この調子で行こう……!
意を決して、僕は迷うことなく足を進めた。そして何度もびっくりさせられながら、そろそろ出口が見えそうになっていたその矢先。
地面でポチっという変な音が鳴って、僕たちはお互いの顔を見合った。そして次の瞬間。
「ぐ………ぐああああああああ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「う……うわあああああ!!」
いきなり天井の上から目がえぐられたお化けが降りてきて、僕は大声で叫んでしまった。
歩夢は僕の腰を
「ダメ………ムリムリムリムリムリ!!!絶対に無理!もういやぁぁ……!」
「ちょっ、朝日向さん?!お、落ち着いて?!」
もう半分気を失った状態で、思いっきり僕に抱きついてきた。おかげで体のバランスが崩れて、そのまま後ろに倒れてしまった。
それでもなお、朝日向さんは僕の首元に顔をうずめてひたすら
「ヤダヤダヤダヤダ………やだ、たすけてぇぇ……」
「あ……朝日向さん。あの……その!」
「やだぁぁぁ……五十嵐君助てぇぇ……」
「ちょ………ちょっと!」
……どうしてかな。もうすぐそこに出口が見えるのに、絶対に行きたくない気分。いや、そもそも朝日向さんの香り良すぎるし……!
……ああ、なんで、なんでぇ………
………お化け屋敷、もっと何か色々あっても良かったのに!!
<朝日向 結>
「じゃ、ジェットコースターは僕一人で乗るってことで……えっと、間違いないよね?」
「うん……お兄ちゃん一人で行って」
「わたしもダメ……足に力入んない………」
「………そっか」
…………くっ!
恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。どうしよう、五十嵐君の顔をまともに見れないよ………!
死にたい………死にたいよぉ……うううっ。
遊園地のベンチにまたがって、ほぼ廃人になっているわたしと歩夢ちゃんを見下ろしながら、五十嵐君は苦笑したまま頭をかいていた。
「えっと、僕は本当に大丈夫だよ?みんなと一緒にいた方が…」
「……それはダメ。五十嵐君、ジェットコースターは乗りたいって午前中に言ってたから……わたしたちのせいで乗れないなんて、それはあんまりだよ」
「でも……」
「歩夢ちゃんはちゃんとわたしが見守るから。だから……五十嵐君はゆっくり楽しんできて?」
「………分かった。じゃ、歩夢を頼むね。歩夢?お兄ちゃん行ってくるから」
「………うん」
歩夢ちゃんの魂のない返事を聞いて、五十嵐君は困った顔のまま行ってしまった。
わたしたち二人はさっきのお化け屋敷で気力を使い果ててしまって、お互い文字通りの脱力状態だった。
「……歩夢ちゃん。大丈夫?」
「……もう少しこのままでいたいです」
「そうだよね…」
深くため息をついてから、わたしは立ち上がる。
「わたし、ちょっとトイレ行ってきてくるね。歩夢ちゃん、念のために言っておくけど、絶対にこのベンチから離れちゃダメだよ。絶対だからね?」
「はい…分かりました。行ってらっしゃい」
「うん。行ってくるね」
そして近くにあるトイレの個室に入ってすぐ、わたしは両手で顔を覆って声のない悲鳴を上げる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ……!!!」
わたしはなんてことを……!あんな、あんなに強がってたくせに結局叫んじゃって。
しまいには五十嵐君に抱きついて………!あああああああ……!!!
もういや。死にたい。死にたいよ……いや、そもそもおかしいでしょ!
昔に行ったところは全然怖くなかったというのに、こっちのお化け屋敷はいくらなんでも怖すぎるでしょ!もうあんなところ絶対に行かないから……!
「はうっ………うううっ」
さっきの場面を思い返すと、自然に顔から熱が出てしまう。
五十嵐君は、あの後に私を抱きしめてくれた。結局体のバランスを崩して、そのまま倒れてしまっても、私と歩夢ちゃんをできるだけ優しく抱きしめてくれていた。
…なんか、いい匂いしてたな。
それに思ってた以上に胸板も固かったし、わたしより全然体も大きいし。
………やっぱり、男なんだよな。五十嵐君って…
「………はっ!」
な……なにを考えているの、わたしは!忘れろ。忘れちまえ!
こ……こんなの、ただの変態じゃない!
五十嵐君にもう一度抱きしめられたいって………!ダメ。このままじゃ痴女になってしまう。それだけはダメ。
…ていうか、なんでわたしは無駄にお化け屋敷の話をしたのかな。
アレじゃなかったら、ずっと五十嵐君をいじっていられたはずなのに。逆に私の方が五十嵐君に弱みを握られちゃったし……
「……ふふっ」
でも、やっぱり楽しいなと思った。
この場所が、3人でいる今日というこの時間が大切で、幸せで。
今日は自分もびっくりするほど浮かれていたし、二人と遊んでてすごく楽しかったし…また、この3人で来てみたいと、私はそう思っていた。
それが叶うはずのない願いだと、もう知っているのに。
「………」
……ダメだな、私。
いつかこの役割は、五十嵐君が好きなあの人に
「………」
また頭がモヤっとしてしまって、もう一度大きく息を吐いてから、立ち上がる。
ダメ、こんなこと考えて落ち込んでいれば、二人にも迷惑だから。
うん。今日は何も考えず、いっぱい楽しもう。
手を洗ってトイレを出た後、わたしは歩夢ちゃんが待っているはずのベンチに足を向けた。
そして、さっきまで一緒にいた緑色のベンチにたどり着く。
なのに、待っているはずの歩夢ちゃんの姿が、見えなかった。
「………え?」
一瞬にして、全身の血が冷えていくような感覚に
ない。ない。
歩夢ちゃんがいない。ベンチをどれだけ確認しても、周りをどれだけ見ても、歩夢ちゃんの姿が見えない。
最悪の状況が頭に浮かんで、わたしはつい両手で口元を
「いや………ダメ……」
心の中で膨らんでいた不安は、やがて爆発してしまった。
「歩夢ちゃん!!!!」
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アップロードの日付を間違ってしまいました。遅れてしまって申し訳ございません……
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