57話 遊園地
<五十嵐 響也>
「あっ、五十嵐君!歩夢ちゃん~!おはよう!」
「お……おはよう!」
「おはようございます、結さん」
まさか本当に、一緒に来ることになるなんて…
昨日まではずっと実感がなかったせいでぼうっとしてたのに、いざ
今日の朝日向さんも物凄く綺麗だった。レースがあしらわれた白いブラウスと、丈の短いデニムスカート。靴は黒いスニーカーで、全体的にさわやかで清楚な雰囲気を
朝日向さんの私服姿はこの前も見たはずなのに、いつも目が離せなくなるくらいに可愛くて……
「どうしたの?そんなに見つめちゃって」
「あ………いや、その」
「うん?」
朝日向さんは少し小首をかしげながらこちらを見上げてきた。なんだか顔もすごくにやにやしている。
………誰か、助けて。
「あの、その……」
「その?」
「………か、か……」
「か?」
「……可愛いです」
「ぷふふふっ」
必死に
「うん。五十嵐君もカッコいいよ?髪型もちゃんと決めてるし、服もばっちり似合ってる」
「うん……あ、ありがとう…」
そうですよね。なにせ、朝っぱらからお母さんに無理やり起こされて、髪型とか服装とか色々セットしてもらったんだから。
「………………お兄ちゃん」
「えっ?あ、ごめん
「………わたし、帰っていい?二人で楽しんできて」
「ご…ごめんね?歩夢ちゃん。あ、歩夢ちゃんも今日すごく可愛いよ?!いつも以上に!」
「ぶうう……」
…そうでした。これは二人だけのデートじゃない。あくまで今日の主人公は歩夢なのた。
ものすごくたじろいでいた朝日向さんは、素早く膝を曲げて歩夢と目線を合わせてから言う。
「ほら、手つなごう?なにから乗る?メリーゴーラウンド?それともカート?」
「…とりあえず入ってから見回ることにします」
「………そ、そうですよね……はい」
ぶっきらぼうに答えながらも、歩夢はちゃんと朝日向さんが差し出した手を握ってくれた。僕たちと両手を繋ぐと、歩夢は段々と上機嫌になって嬉しそうな表情を浮かべてくれる。
立ち上がった朝日向さんの顔にも、ちょうど同じ類の笑みが
遊園地に入った途端、歩夢はあるウサギの着ぐるみを見て目を光らせていた。
「う、ウサギさん……!」
「あっ、歩夢ちゃんの目が変わった。好きなんだ?あのウサギさんキャラ」
「この前ウチで子供向けのアニメ見たことあるじゃない?そこに出てくるキャラクターだって」
「あ、そういえば見覚えあるかも!あっ、歩夢ちゃん見て!あそこにウサギさんがたくさん!」
「はっ……!」
朝日向さんが
歩夢はそれを見た途端、いきなり店に向かって走り出していった。
「ちょっ、こら。歩夢!」
「歩夢ちゃん!」
「わぁぁぁ……」
僕たちが慌てて追いつくも前に、もう店に入って行った歩夢はウサギキャラのシャーペンとストラップ、そしてフカフカしそうなぬいぐるみから目が離せなくなっていた。
そのあどけない姿を見て、僕たちはまたお互い顔を合わせて笑う。
「これじゃ、アトラクションの一つもまともに乗れないかも」
「それは困るな…歩夢。そのグッズは帰り際に買ってあげるから、とりあえずここから出よう?ほら、ジェットコースター乗りたいって言ってたじゃん?」
「むう………分かった」
「あ、そうだ。歩夢ちゃん、いくらわたしたちが見てるからって、さっきみたいに走り回ったりしちゃダメだよ?人も多いからちゃんと手も繋いで、わたしたちから離れないように。分かった?」
「…はい」
そして今度は、歩夢が先に手を差し伸べえていた。
一瞬驚きながらも、朝日向さんはすぐその手を握りしめて、愛情のこもった目で歩夢を眺める。
その姿はまるで本当の
ちょっと気持ち悪いかもしれないけど、俺の顔にはもう隠しきれないほどの笑みが滲み出ていた。
「歩夢ちゃん、乗りたいアトラクションとかある?あっ、見て。あそこにメリーゴーラウンド!」
「……子供じゃないんですから、あんなの乗りません」
「もう~そう言わずにね?私はすっごく乗りたいけどな~歩夢ちゃんと一緒に乗りたいけどな~」
「…………ダメです」
「……私の一生のお願いだとしても?」
「こんなので、一生のお願いとか言わないでください………」
「………歩夢ちゃん、お願い」
「………………」
至近距離で見つめられて耐えきれなかったのか、歩夢は結局赤らんだ顔を逸らして、ぼそっと呟いた。
「こ…………今回、だけですから………」
「ふふっ、じゃ行こう!ほら、五十嵐君も早く!」
「……えっ、僕も乗るの?いや、僕は外で見守るという形で………」
「……ムッ」
朝日向さんはすぐに目を細めて、いきなり僕の手をぎゅっと握ってきた。
一瞬にして体が震えて、心臓が激しく鳴り出す。
「ちゃんと楽しまなきゃダメでしょ?ほら、行くよ?」
「あっ……ちょっと!高校生にもなってメリーゴーランドとか!!」
「ダメ。今日の五十嵐君に拒否権はないの。歩夢ちゃんもそう思うでしょ?」
「……ふふふっ、はい」
「ちょっと、歩夢まで?!」
普段の様子からは考えられないほど二人はウキウキしていて、僕はその後にも散々振り回されていた。
ゴーカートに乗っている歩夢の写真を取ったり、朝日向さんの提案で怖そうなバイキングを体験したり、休憩時間にも何故か息がぴったりな二人にいじられたり。
でも、この上なく幸せて、暖かい時間だった。
そして気が付いたらいつの間にお昼になっていて、僕たちは先に予約していたレストランで昼食を取ることにした。
その後、カフェでゆっくりしながら次はなにに乗ろうかと話し合っていた時、朝日向さんはなにか
「そうだ、次はお化け屋敷に行かない?」
「おば…?!あ、いや。か、考え直した方がいいよ?ほら、歩夢もお化け屋敷にはあまり行きたくないでしょ?ホラーとか幽霊とか大嫌いだから…!」
「……そうだけど。でも、結さんとお兄ちゃんと一緒なら、挑戦してみたい……」
「ふふっ、は~~い。じゃ歩夢ちゃんの許可も降りたところで、よろしくね?ボディーガード君?」
「いや……その!」
「あら、もしかして怖いのかな~?五十嵐君は?」
……確かに子供の頃、お化け屋敷に行ってめちゃくちゃ泣いた記憶しかないんだけど。
でも好きな人の前であんな無様な姿を見せるのは…ダメ。そんなの、男としてのプライドが許さない。
……今回だけ。大丈夫、僕も成長したんだから…!
「ぜ………全然?全然、怖くないよ?うん、全然」
「ぷふふっ、声めっちゃ震えてる」
…どうしてだかはよく分からないけど。
今日の朝日向さんは、普段の何倍もウキウキしてて、心底この時間を
誘ってよかったなと安心しながらも、かっこ悪い姿を見せないよう覚悟しながら……僕は、思いっきり息を吐いて呼吸を整えるのだった。
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