39話 一緒にいる
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膝を抱えたままスマホを確認すると、もう
不安と後悔が、全身を震わせる。
…なんで、あんなに調子に乗っていたのだろう。
私と彼は単なるセフレ、人前で堂々と明かせるような関係ではない。でも無意識に私は、彼にセフレ以上の何かを求めて。
自分勝手に生い立ちを聞かせて、どんどん彼を
そして彼は、私のすべてを受け入れてくれて。
「………うっ」
それがどれだけ卑怯で
忘れ去られるのが怖いから、灰塚の傍に居続ける自信がないから、私は彼を縛った。
最初のころは彼に何も求めないと言ったはずなのに、いざその気になったら襲って、勝手に理解することを強要して。
とことん、最低な人間になっていく気がした。
「…………」
私は、灰塚のことが好きだ。
彼の幸せと自分の命を差し替えてもいいほど、灰塚
だからこそ、好きな人には迷惑をかけたくない。
それだけは、言葉の通り死んでも嫌。
「ただいま」
「……おかえり」
言おう。
戸惑ってはいけない。ちょうど意志が固まった頃に灰塚が戻ってきてくれた。私はすぐさま立ち上がる。
そんな私を見て、彼は少し目を丸くして首を傾げた。
「……どうした?」
「…………」
気付かれないように深呼吸をして、私は俯きがちだった顔をあげた。
「話があるの」
「……それって、大事なこと?」
「……うん」
「…………分かった」
出会った頃から、表情の
感情というのがあまり浮かんでいない顔だ。いつも興味なさげにして、周りの人より教科書だけ追ってる目。
だけど今は、溢れるほどの緊張を滲ませている。
誰がどう見ても張り詰めている顔だった。私がそうさせたと思うだけでも、救われたような気分になる。
だから、これでお終い。
「灰塚、私は」
「………」
「もう………もう」
この関係はおしまい。
セフレも、友達も、あの放課後の時間もなにもかもなかったことにして、お互いの道を歩んで行こう。
私は生きるから。
私を助けてくれたあなたのためでも、死なずに生きていくから。
私はあなたにとって害を与えるだけの存在だから、あなたはあなたの人生を歩んで欲しいの。
影ながらも応援するから、だから………
「わたし……………は」
「…………」
「あ………ぐ……」
「……………杠」
……………なんで。
なんで出てこないの。頭ではこんなにも言葉が駆け回っているのに、なんで口には出てくれないの。
喉が詰まって続きの言葉が出なくて、私はまた俯いてしまう。
……好きだから。
分かってる。好きだから言えないんだ。でも、好きだから言わなければならない。だから……
「一緒にいるよ」
「……………え?」
「これからも、一緒にいる」
…………はいづか……
「姉ちゃんは自分で言ってたことは絶対に守る人だから。親に言いつけたりしないと思うから、そこら辺は安心してもいいよ。さすがに、俺たちの関係は色々と気付かれたかもしれないけど…それでも、姉ちゃんは別に会わない方がいいとか、全く言わなかった」
灰塚はその後、自分の膝を曲げて俯いている私と目線を合わせてくる。
すぐにでもこぼれそうな涙をぐっとこらえている、私の不細工な顔を眺めながら……彼は、笑ってくれた。
「今までと変わらないよ、なにも」
「はい……づか」
「…最近はさ、お前が何を考えているのか、なんとなく分かるようになったんだよな、俺」
この優しさが、ダメなんだ。
太陽の光を浴びせられた吸血鬼のごとく、彼は私を
灰塚はいつも私に夢を見せてくれる。私の手の届かないところにある、幸せという名の夢を。
脳にはとっくにこの苦笑の交じりの顔が焼きついていた。体は彼が与えてくれる快感をしっかりと覚えていて、たぶん一生忘れることはない。
はなから私には、選択肢なんてなかったのだ。
「………はい、づか」
そのまま彼に近づいて、ぎゅっと抱きしめてから言い放つ。
「抱いて……」
「………いや、お前」
「抱いて……命令よ。欲しいの。もう我慢できない」
耳元で囁かれてぞっとしたのか、灰塚は僅かに体を震わせる。
そして若干間を置いてから向けられた視線を感じて、私はもっと息が荒くなるのを感じた。
彼にはごく稀に見られる、性慾に満ちた視線だった。
瞳は揺らいでいるけど、しっかりと私を目に留めてくれていた。好きな男になら、いつでも向けられたい熱い眼差し。
その熱に染められたいと願ってしまう。
彼に埋め尽くされて、いつまでも快感に浸っていたいから。
「…キス」
「………」
「キス……してよ。これも命令」
……優しい灰塚は、こんな無茶な願いさえ叶ってくれながら。
一週間も溜めてきた性欲を全部吐き出すように、私たちはベッドがある部屋に向かった。
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