第7話 細川と相談

 「それはなかなか興味深いですね」

 

 細川が興味津々と言う顔で、俺にそう言った。

 こいつはヘビーなオタクだ。

 なので俺の今の現状を話すと、こう言う反応をする事は容易に予想が出来ていた。


 「だよな。様々なオタクであるお前の意見はどうなんだ?」

 「そうですね。SFの観点からすると、タイムトラベラーと言うのは頷けるのですが……やはり、厨二病と言う線が濃厚かも知れませんね」

 「まあそうだよなぁ」


 そう言って、ゆっくりとコーヒーを口にする。

 仕事の昼休憩、俺と細川は会社近くのカフェで昼食を摂りながら細川に俺の相談事を聞いて貰っていた。

 これから乃亜と二人で生活していくにしても、協力者は欲しかった。

 なので俺の中でも一番信用の出来る人物に、まずは相談したと言うわけだ。


 「ですが一つ、気になる事もあります」

 「何だ?」

 「その乃亜と言う女子高生が、何故櫻井さんの事情をやけに詳しいのか。マンションの部屋番号くらいなら、ストーキングをすれば分かるとは思うのですが櫻井さんしか知らない事まで知ってたと言うのが、引っかかるところではあります」

 「それは俺も気になっていたな」


 そう言って、また一口コーヒーを口にした。

 細川も同じ様にメロンソーダーを飲みながら、ハンバーグをばくついている。

 こいつの中には、ダイエットと言う文字は存在しないのだろうな。


 「色々とまだ謎が多い様なので、もう少し情報を集めてみて下さい。そうすれば、また何か分かるかも知れません」

 「わかった。また情報が入り次第、お前に伝えるよ」


 こうして俺たちは、会社に戻った。

 そして俺は、七峰が持ってきた模擬企画書を見直していた。


 「ここ、値段が高すぎるだろ」

 「ええー。これは美味しいと思いますし、これくらいでいいじゃないですかー」

 

 七峰が不満そうな顔をして、俺に反抗してくる。

 こう言う誰にでも対して、堂々と意見が言えるのはこいつの強みなのかも知れん。

 だが、全ての意見がこいつの場合は感覚でしかない。しっかりとデータを集め、説得力が身につけばもっといい人材になれると思うのだが。


 「そう言う問題ではない。これはコンビニのスイーツだ。コンビニと言うのは手軽に立ち寄れて、お手軽な値段で専門店で売っている様なスイーツが楽しめる、それがコンビニと言う場所のウリなんだよ」

 「そうですよね、はい。材料から値段をチェックし直します」

 「……頼む」


 そう言って、七峰が不満ありげに自分の席へと戻って行った。

 俺も言い過ぎているのは分かっている。でも何故か七峰相手だと、加減が出来無いと言うかイライラしてしまってついムキになってしまう。

 そう言うところ、俺も直さないとな。


 

 そしてその日はもう、七峰が俺の元へと来る事はなかった。

 結構一人で悩んでたみたいだったから、少しは補助をしてやれば良かったのだろうか。そんな罪悪感が、俺の中にじわじわと湧いてきた。


 罪悪感を抱えながら会社から出ようとすると、偶然にも現在片思い中の相手今宮美桜とばったり会ってしまった。相手の反応を確認すると、「あ……」みたいな表情をしていた。それはたぶん、俺も全く同じ反応をしていたと思う。

 

 今宮とは、会社に入社した当初は普通に会話をしていた。

 だが気づいた時には、今宮はどんどん結果を出し昇進していった。

 そのせいもあってか、今宮とは若干気まずい関係になってしまっていて今じゃほぼほぼ会話もしなくなっていた。だから未だに食事にすら誘えていないのだ。


 そんな状況での偶然のばったり。

 中々なカオスな空気感に、お互いが硬直していた。


 「お……お疲れ様です」


 一応同期とは言え、今宮は俺よりも立場が上。

 そう言う事もあり、俺から挨拶をした。

 すると今宮が意外にも、軽い会釈だけではなく言葉でも返してきた。


 「お疲れ様。最近は、凄く頑張っているみたいだね」


 見た目と同様に、今宮がボーイッシュな話し方でそう言ってくる。

 その話し方に、俺は若干の懐かしさを感じていた。


 「そうですかね。七峰の奴が酷すぎるんで、俺が頑張っている様に見えているだけかもですけど」

 「そんな事はないさ。櫻井君は私なんかよりも、本当はもっと凄い人なんだよ。だからこそ……櫻井君は勿体ないんだ」

 

 そう言って、今宮は俺から逃げるようにして帰っていった。

 俺は今宮に言われた事を考えながら、ゆっくりと自宅へ向けて歩いていく。


 今宮は一体、俺に何が言いたかったのだろうか。

 いくら考えても、答えが出てこなかった。



 そして自宅に着いた俺は、乃亜と一緒に夕飯を作っていた。

 

 「違う違う。じゃがいもはこう切るんだよ」

 「こう?」

 「そうそう」


 流石に毎日料理をしているだけあって、乃亜もまともに野菜が切れるようになってきた。教えている身としては、本当に嬉しい限りだぜ。

 やっぱり何事も、出来るまで横で付いていてあげる事が大切なのかも知れないな。そうする事で、お互いに達成感と自信が生まれてそれがやる気にも繋がってくるのだ。

 俺は七峰に、その事が出来ていなかった。ただ企画書を見て、直す箇所を言うだけで後は七峰に任せていただけじゃないか。そんなんじゃ、お互いの信頼関係だって築ける筈がない。


 自分の教育係としての過ちに、深く反省をした。

 それに気づかせてくれた乃亜に、俺は感謝の言葉を伝える。


 「ありがとな」

 「え、どうしたの急に?」

 

 突然のお礼に、未確認生物でも見たかのような顔をして驚く乃亜。

 そんな乃亜に、俺はこう言う。


 「乃亜のおかげで、俺はまた一つ成長出来たかも」

 「そうなんだ。何かは知らないけど、お役に立てて光栄です」


 乃亜がクスッと笑いながら、そう言った。


 

 

 

 


 

 


 

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