第6話 乃亜とアウトレット

 俺と乃亜は今、電車で一駅の所にあるアウトレットにやって来ていた。

 今回は、乃亜の私服なり生活必需品を買う為にここまで来たのだ。

 ここのアウトレットは、様々な店が入っていて若い女性にも大人気なんだとか。なので俺みたいな男が一人でウロウロするのは少し恥ずかしいので、絶対に乃亜から離れたくは無いのだが……。


 そんな事を考えている間に、乃亜がどこかに行ってしまった様だ。

 あいつには、何度も逸れるなと言っておいた筈なのだが……。


 俺は一店舗ずつ、虱潰しらみつぶしで見ていく事にした。

 乃亜が行きそうな店とかは全く知らないので、ピンポイントで狙う事が出来ないのだ。はぁ、こんな事なら色々と情報を聞いとくんだったぜ。今更後悔をしても遅いのだけど。


 まずはこの店から入ってみるかな。

 俺が最初に目を付けたのは、服屋だった。

 こう言う店に行き慣れていないので、中々入るのに勇気がいった。

 店内に入ると直ぐに、女性服のエリアへと向かう。


 だが、周りを見渡しても乃亜らしき人物は見当たらず直ぐに店を出た。

 その後も別の服屋や雑貨屋、コスメが売っている店などを回ったが乃亜を見つける事が出来なかった。

 一体どこへ行ってしまったのか、俺は内心とても焦っていた。

 何か事件に巻き込まれたかも知れない。そんな事を考えると、気が気じゃなかった。出会ってまだ数日だが、既に俺の中では乃亜に対して親心みたいなものが芽生え始めているのが感じ取れた。

 

 そして俺はアウトレットの中心にやって来た。

 そこである店が目に入ってくる。


 あの店は、写真屋か。まさかとは思ったが、少しの期待を込めて店の中へと入る。すると、見た事のある白のブレザーを着た女子高生が家族写真の撮影風景を羨ましそうな表情で見ていた。


 「おい」

 「あ、お父さん」


 乃亜が少しやっちゃったと言う顔で反応する。

 だが直ぐに、家族撮影の方へと目線を向けた。


 「写真に興味があるのか?」

 「違うよ。あの家族、幸せそうだなぁって」


 そう呟いた乃亜の表情は、少し寂しげだった。

 乃亜の事情については全く知らないのだが、『家族』と言うものに固執する何かがあるのは間違い無いだろう。俺をお父さんと呼ぶのも、家族を見て寂しげな表情を浮かべるのも、多分そこからきているものなのだと勝手に感じていた。


 「じゃあ次、俺たちも撮るか?」

 「え?」

 「せっかくだし、嫌ならいいが」

 「撮る!お父さんと一緒に撮りたい!」

 「わかった」


 そうして俺は、直ぐに写真屋の店主に話をつけた。

 この俺との写真撮影で、少しでも乃亜が抱えている心の闇を軽く出来るならとそう思ったのだ。しかし、俺と乃亜は結局のところは赤の他人。俺と写真を撮ったからと言って何も変わらないかも知れない。

 だが、順番を待つ間の乃亜が見せる嬉しそうな表情。それを見ていると、俺の無駄だと思える行動も何か意味があるんじゃないかと思わさせてくれる。

 だから俺は、これからも乃亜に対して無駄なお節介を焼いていくのかも知れない。それは全て、俺の自己満足で俺の自己投影だったとしても。

 

 「お父さん、絶対変顔とかしないでよ」

 「それはフリか?」

 「フリかもね」


 そんなやり取りをした後、直ぐに俺たちの番になった。

 俺は冷静な感じを出してはいるが、こう言うのは初めてだったので内心ドキドキしている。

 カメラマンが何か色々と合図を出し、いよいよ撮影だとなった瞬間に乃亜が俺に言った。


 「ありがとう」


 そう小さく呟いて、撮影が終了した。

 そして出来た写真を見せてもらう。

 最初の一枚以外にも、何枚か撮ったのだけれど最初の一枚が最高のショットだった。「ありがとう」と乃亜に言われた時、何故か心の中がとてもスッキリして自然と笑顔になれた。その甲斐あって、本当にいい写真が撮れたのだ。


 俺たちは写真屋を出た後、乃亜の行きたい店を片っ端から回って行った。

 帰りには俺の両手じゃ足りないくらいの荷物の量で、ヒイヒイと悲鳴を上げながらなんとかマンションに帰ってくる事が出来た。

 

 「お父さん、こんなにも買って貰っちゃってなんかごめんね」

 「別に、全部必要な物なんだろ」

 「うん。そうなんだけどさ」

 

 そう言うと、乃亜は購入した物を整理し始めた。

 俺はその様子を見ながら、少しゆっくりとした。


 


 


 

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