第26話
「あぁ、くそ!多い!」
「うるさいわ!」
多すぎる魔物の数に囲まれ、叫んだ隼人に葉月も負けじと叫び返す。
その側で玲於がたんたんと流れ作業のように魔物を切り倒していた。
玲於たちの周りを囲う魔物の数は少し前にダンジョンで魔物の大群に囲まれたのときよりも遥かに多かった。
しかもなぜか知らないが魔物は玲於たちを重点的に狙い、他の生徒たちには目もくれない魔物が数多くいた。
それでも元々の魔物の数が以上すぎるので、他の生徒たちもいっぱいいっぱいだった。
今はなんとか佐奈の回復によって誰も死んでいないが、其れもいつまで続くかわからない。
「あれ?これ……」
しばらく戦っていると、玲於があることに気づく。
「いや、僕らとみんながだんだん離されている……?」
玲於の言う通り魔物の達によって、徐々に玲於たちと他の生徒たちの距離が離されていた。
「だな!」
「なんでこんなことを?」
「誘導している?僕たちを」
玲於は少し考え、そしてすぐに思い出す。
「あぁ、伊織か」
「伊織!?いきなり何?」
「いや、これ全部伊織の手によるものなんじゃないかと思ってね」
「はぁ?どういうこと!?」
玲於の言葉に葉月が驚く。
隼人は苦虫を噛み締めたような表情をしている。
「いや、この状況を見る限り、伊織が原因説が濃厚かなって。学園の野外遠征を狙った大量の魔物。僕らを狙い撃ちするだけでなく、僕らをほかの生徒から離れさせ、誘導しようするという謎の行動を取る大量の魔物。そして、突如として行方不明になった伊織。なんか、伊織が魔物を操ってると思うのが自然だよね」
「な!そんなわけ!だいたいなんで伊織がこんなことを!」
「さぁ?動機は僕の知るところではないよ。でも、周りを見て?魔物が光となって消えてないんだよね」
「あっ!」
葉月が周りを見渡し、驚く。
今まで魔物と戦うので精一杯で、今まで周りを気にしていなかったのが、初めて気づく。
本来光となって消えるはずの魔物が消えず、死体として残っていることに。
「明らかに普通じゃないよね。人為的なもの考えるのが妥当じゃないかな」
「……そうだな。俺もそう思う。……伊織かどうかはわからんが、人為的なものであるのは確実だろう」
「ほら、呪いって、相手操れそうじゃない?」
「……確かにな。伊織の固有スキル【呪術】の可能性はまだまだ大いにある。現に最近も新しい呪術を使えるようになっていたしな」
伊織の呪術の種類はたくさんあり、攻撃、防御、デバフ、なんでも出来た。別に相手、魔物を洗脳、支配する呪術があっても不思議ではない。
「な、何よ!二人ともこれの首謀者が伊織だって言いたいの!そんなこと、そんなこと、あるわけないじゃない!」
葉月は平然と伊織が首謀者であると話す二人に怒鳴る。
「……そういうことも考えられる、っということだ」
隼人はずっと苦虫をダース単位で噛み潰したような表情をし、うつむいている。
そして、さっきから全然魔物と戦わない二人を守るため、一生懸命刀を振るっていた。
「ねぇ、今はそんなことどうでもいいよ!」
「どうでもいいって何よ!」
どうでもいいと言った玲於を葉月はにらみつける。
「あぁ、どうでもいい。所詮は仮定の話だ。確証も取れていない話で右往左往するなんてバカらしい。僕らが今考えるべきなのは、今僕らがどう動くかだ。このまま魔物の誘導に従うか、それとも強引に僕らを囲う魔物の包囲をぶち抜き、みんなと合流するか。どっちがいい?」
「このまま魔物の誘導に従おう!そしたら、伊織が首謀者じゃないことが証明される!」
「いや、合流しよう」
「なんでよ!このまま伊織が首謀者扱いされたままで!」
「冷静になれ!今ここで誘導に従ってどうする?何のメリットもないどころか、リスクしかないぞ!」
「で、でも!」
「忘れるな!そもそも伊織が首謀者かどうかはまだ俺らの仮定に過ぎない!仮定を否定するためだけにのこのこ罠に嵌りに言ってどうする!?」
「ねぇ、早く決めて」
……即答されると思っていた質問にだらだらと議論を続ける二人に玲於は不機嫌そうに告げる。
「合流しよう。伊織のことも気になるが、まずはこの魔物たちをどうにかする必要がある」
「……わかったわ」
理屈は理解できた葉月は嫌そうながらも了承の意を示す。
「じゃあ、取り敢えずまずは手を動かそ。僕だけじゃきつい」
「「あ……」」
このときになってようやく二人はずっと玲於に戦闘を押し付けていたことに気づいたのだった。
「すまねぇ!加勢する!」
「ご、ごごごめん!」
隼人と葉月は慌てて戦線に復帰した。
「僕の魔法の後に突撃ね。悪魔よ」
「「了解」」
「『雷帝の一撃』」
玲於の魔法が放たれ、眼前の魔物を一掃する。
「はぁあああ!」
その穴を広げるように葉月が突撃、剣で魔物を切り刻んでいく。
その援護を隼人が行い、玲於が支える。
玲於たちの誘導のために魔物たちも群がるが、玲於たちは強引に包囲を切り崩した。
「『雷帝の一撃』」
玲於たちを追いかけてくる魔物に向けて玲於が極大の魔法を打ち込む。
「さっさと合流を目指すよ」
「「了解!」」
玲於の号令に従い、合流を目指し、離れてしまった他の生徒のところに向かった。
■■■
「大丈夫!?」
葉月は魔物に囲まれる生徒たちを助けるために、魔物に突っ込む。
「ん」
それを慌てて、玲於が追いかけ、支える。
「えぇ、なんとか」
生徒全員に回復魔法と支援魔法をかけ続けてなおケロリとしていて、余裕がある佐奈が答える。
「まだ、なんとか死者も出していません」
「おぉ!そうか。よかった」
葉月は胸をそっとなでおろす。
玲於もここまで魔物に囲まれて死者0人というのには驚いた。
これは、伊織の狙いは葉月かな?
伊織が葉月に対して良い感情を持っていなかったのを知っている玲於がそう結論づける。
「これもすべて聖女様の回復魔法のおかげでですよ」
隣で魔法を使い、魔物に対抗していた先生が笑う。
「いえいえ、これはひとえに生徒の皆さんの頑張りのおかげです」
佐奈は謙遜し、ひかめな笑みをうかべる。
これは生徒たちの士気をあげることに繋がり、生徒たちも一層精神努力する。
しかし、生徒たちがやる気を爆発させたところで急に魔物が動かなくなる。
「え?」
その場にいた玲於以外の人が驚く。
「なんでですかぁ。玲於くん」
そして、空から一人の少女が舞い降りる。
その少女は黒髪のショートカットで、紫色の瞳が怪しく輝いていた。
「私の、私の誘いになんで乗ってくれなかったんですかぁ」
「う、そ。嘘でしょ」
葉月は呆然と呟く。
その少女は、眼鏡はなく、チャームポイントだった三編みはばっさりと切り落とされているが、まちがいなく伊織だった。
「やっぱりそこの雌豚がいけないんですかぁ?あぁ、玲於くんをたぶらかし、困らせる雌豚は私が始末してあげないとぉ」
怪しく瞳を輝かせたまま光を失った目という実に器用なことをやりながら、伊織は葉月を溢れんばかりの殺気をこめて睨んだ。
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