第27話

 「う、そ。なん、で」

 葉月が呆然と呟く。

 「危ないよ」

 呆然としていた葉月を玲於は蹴り飛ばす。

 そして、葉月が元々立っていたところに伊織がメイスでバットのように撃った杭がぶっ刺さる。

 「なんでですかぁ」

 「なんでですかぁ」

 「なんでですかぁ」

 伊織はぶつぶつとなんでですかぁとつぶやき続ける。

 「なんでその女を守るの!あぁ、可哀想に。守るように脅されているんだね」

 「脅されてなんかいないけど」

 「いえ、わかっていますからぁ。そういうように言うように脅されてるていると。大丈夫。私は玲於くんのことわかっていますからぁ」

 伊織は慈愛の表情を浮かべ、うんうんと頷く。

 「無理だな」

 何言っても自分の都合の良いように捉え、通じない。

 玲於は伊織を話で説得するのを諦める。

 まぁ、もとより話で説得するつもりはさらさらなかったのだが。

 「今、助けてあげますぅ!」

 伊織はそう言うやいなや葉月の方に突進していく。

 未だに呆然としている葉月はメイスを振りかぶる伊織を見つめることしか出来なかった。

 「くっそ!」

 隼人は慌てて葉月を守るため伊織に向けて銃を向け、発泡する。

 「ふん!」

 伊織は隼人が撃った弾丸をメイスで弾く。

 「隼人くんも邪魔をするんですかぁ。なんでですかぁ。なんで邪魔ばかりするんですかぁ!」

 「ッ……!」

 隼人は伊織に睨まれ、無意識のうちに一歩後ずさる。

 「死ね」

 「は?動かな……!」

 伊織は隼人との距離を詰める。

 隼人は伊織から距離を取ろうとする。

 だが、伊織の呪いによって動きづらくなった隼人は伊織と距離を取ることに失敗する。

 「だめ」

 玲於が隼人に向けて伊織が振り下ろしたメイスを素手で受け止める。

 「なんで邪魔するんですかぁ」

 「殺しは容認できない。それ以上やるなら許さない」

 玲於は伊織からメイスを奪い取り、睨みつける。

 「なんで、そんな事言うの。玲於くんはそんな事言わない!そんなの玲於くんじゃない!」

 「いや、僕は僕なのだが」

 「あぁ、そう。……やっぱりあの雌豚に毒されちゃったんだね。もう大丈夫。私が今助けてあげる。ずっと私が愛してあげるからねぇ」

 玲於は懐から血まみれの刃物を取り出す。

 「うん。愛してくれるのは嬉しいけど、殺しは駄目かな。そこは許容範囲外だから」

 玲於はそう言うと、一瞬で伊織との距離を詰め、腹に拳を打ち込む。

 「かはっ」

 崩れ落ちた伊織に再度蹴りをぶち込み、気絶させる。

 「お、おう」

 その様子を見ていた隼人は少し引き気味に呟く。

 なんか、伊織もやべぇけど玲於のほうがやばい気がする。

 いきなり現れて、友達を殺そうとする仲の良かった友達がいるのに一切動揺せず、血まみれの刃物を持った友達を気絶させるレベルにまで殴るのはやばいだろ。

 「こ、今回の騒動は彼女が原因なのか?」

 「そうじゃない?私の誘いって言っていたし。魔物を扱って僕を誘おうとしたんじゃないかな?」

 「そうか。で」

 「いやー、さすが先生ですね」

 「あ?」

 急に自分の言葉を遮り、自分を褒めだした隼人に先生は首をかしげる。

 「伊織の呪術の中に魔物を操る呪術があることを察して、野外遠征として利用するとは」

 「はぁ?お前何言って?」

 「先生は、伊織の呪術で操った魔物を生徒のみんなにぶつけさせて、本気の殺し合いを演じさせたんですよね?将来、学園を卒業し冒険者になったときにガチの殺し合いの対処の仕方を教えるために」

 「……あぁ」

 隼人が伊織を助けるために言っていることだと理解する。

 普通に考えて魔物を操り、襲いかかってきたの慣れば殺人未遂で捕まることになるだろう。

 それを防ぐために隼人は口裏を合わせようとしているのだ。

 伊織の魔物を操り、襲いかかってきたのを先生の指示のもと行われた授業の一環として扱うのならば罪にならない。

 幸いなことに誰も死傷者は出していないのだから、なんとかなるだろう。

 「まぁ、そうだな」

 先生は隼人の口車に乗る事にする。

 学園最強である隼人と次に強い葉月の機嫌を損ねるのはよくないと判断したのだ。

 言うことを聞かなくなるということだけならまだしも、反逆でもされたら溜まったもんじゃない。

 隼人なら、やりかねない。

 彼の過去から見て、彼の仲間を思う気持ちは異常だろうから。

 「あぁ、そうだったんだ。ごめん。容赦なく気絶させちゃった。せめて僕らには教えてくれればよかったのに」

 「いや、お前らにはイレギュラーな事態になっても冷静に対処できるようにしてほしかったんだ。特に葉月には」

 「たしかに」

 「う……」

 取り乱しまくった葉月はばつが悪そうに顔をしかめる。

 「それで、この後どうするの?」

 「ん。あぁ、玲於が伊織を気絶させちまったからな」

 「あ、私が治しましょうか?」

 「いや、治せないと思うよ?特殊な一撃与えたから」

 「あら、そうですか。じゃあ、どうしましょうか」

 「そうか。玲於。どれくらい起きると思う?」

 「そうだね。うーん。わからないけど、一時間は起きないと思うよ」

 「そうか。……じゃあ今日はここで野宿するか」

 「おけ。じゃあ僕はここらへんの見回り行ってくるね。ほとんどの魔物は狩り尽くしたと思うけど」

 伊織が玲於によって気絶させられた途端に伊織によって操られていた魔物は全員光となって消えた。

 「おう。わかった。隼人と葉月以外から数人連れてけ。隼人と葉月には気絶した伊織のまもりをやってもらう」

 「……わかった。じゃあ、そこの人たちお願い」

 玲於はしぶしぶ先生の言うことに従い、適当に集まっていた女子たちを誘う。

 その後、適当に女子たちの相手をしながら、とある場所に向かう。

 「ここらへんまでだね」

 玲於は刀を抜き、隣に立っていた女子の首を吹き飛ばす。

 「え?」

 混乱する女子たちの首を次々と跳ね飛ばす。

 「ごめんね。先生が連れてけって言ったせいで。ブラン?」

 「はっ」

 玲於の隣にブランが転移してくる。

 「……来た」

 「はい」

 「あら、あなたが私のところに来るなんて、私に勝てると思われているのかしら?」

 ふわりと一人の女性が空から舞い降りる。

 その女性の背中には立派な翼が生えていた。

 地上に降りると翼は消滅する。

 「……安心して。傲慢之悪魔王よりは警戒してる。ブランも、いる」 

 「あの男と比べられてもねぇ。まぁいいわ」

 「戦う?戦わない?」

 「戦わないわ。私の目的はすでに達したから。今は戦うときじゃないわ」

 「そ。でも、僕の障害になる。というなら」

 「安心しなさいよ。私はあなたの目的の障害ではないわ」

 静かに殺気を巡らせる玲於に対し、女性は笑顔で告げる。

 「そ」

 「じゃあまた。きっともうすぐ会えるわ。じゃあ、あなたが一歩前進した後にね」

 「ん。ばいばい。色欲之傲慢王」

 女性、色欲之傲慢王は背中から翼から現れ、空に飛び立った。

 「よろしかったのですか?」

 「……危険な道行きたくない。僕の邪魔さえしなければ、問題ない」

 「はっ。そうですか。出過ぎた真似を」 

 「もう、いい。ばいばい」

 「はっ」

 ブランは再度転移し、消えた。

 きっと彼女はこの後、車に乗って北海道まで帰るだろう。

 彼女の転移は長距離転移はできないので、車などの乗り物に乗って北海道までに帰るのだ。

 玲於は無言で巨人を生み出し、自分の左腕を潰し、頭を殴り血を流したりと自分の体に傷をつけていく。

 その後、自分で首を落とした女子の体を潰していく。

 巨人によって殺されたかのようにするように。

 「……よし」

 玲於はさも疲労困憊、ぼろぼろといった感じで隼人たちの方に向かっていき、巨人に自分を追いかけるように命じた。

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