第25話
「すみません。遅れました」
玲於は授業の途中で教室に入る。
「訳は後で聞きます。とりあえずは席に座ってください」
「はい」
玲於は先生の言うことにしたがって、席に座り、授業を受けた。
「なにがあったんだ?」
「そうよ。玲於、私よりも先に家出たわよね?」
授業が終わり、先生に遅れた理由を話し席に戻って来たところで隼人たちに聞かれる。
ちなみに、先生への説明は精神干渉系スキルを多用した結果、適当な言い訳で納得してもらえた。
「いや、迷っちゃって」
「はぁ?迷った?何回も学園に来ているだろ?」
「いや、目の前にキレイな蝶々が通って、それを追いかけていたらどこかわからんくなっちゃって。ここまで来るの大変だったよ」
遅れた本当の理由は隠す。伊織に監禁されるところだったと言えば、二人がどういう反応をするかわからない。面倒なことになるのは避けたい。
迷子になったのは本当のことだしね。伊織の家から学園までの道のりがわからなくて、気配遮断を使いながら空を飛んで学園まで来たのだ。
学園は広くとてもよく目立つので、空から見つけるのは容易くかった。
「なぁ、今日伊織も来ていないんだが、知らないか?」
「いや、知らない。でも昨日も元気そうだったし、来るんじゃない?」
隼人の質問に玲於は平然と答える。
これが嘘だと見抜ける奴はいないだろう。
「だよな。俺らは風邪にはなりにくいし」
ステータスが上がったものは、免疫も高くなり風邪を引くことは少なくない。だから、基本学園を休み人はいない。ほとんどの人が皆勤賞だ。
しかも、隼人たちのレベルまで来ると、風邪どころかどんなウイルスが相手でも具合が悪くなることがない。
だから、伊織が休むということはなかなか考えられないのだ。
しかし、結局その日、伊織が学園に来ることはなかった。
■■■
伊織が学園に来なくなってから一週間がたった。
伊織は家にもいなく、完全にどこに行ったかわからない状態になってしまった。
ちなみに、伊織の家に行ったとき、伊織の部屋に置いてあった玲於の等身大人形はなくなり、壁一面にはられていた写真もすべてなくなっていた。
「はぁー伊織どこに行っちゃたんだろう」
「死んではないと思うんだけど」
ため息と共に吐かれた葉月の言葉に玲於はそう返す。
「なんでそんなことわかるんだ!」
だが、その発言が隼人の逆鱗に触れたのか、隼人は怒鳴り声を上げる。
「隼人、うるさい」
「あ……すまない」
隼人はすぐに自分が熱くなりすぎていたことに気づき、謝る。
玲於にあたったからと言って何も変わりはしない。
「……死んでないんだけどな」
玲於は隼人に聞こえないように呟く。
玲於は隼人たち3人にとある魔法をかけている。
その魔法は対象者に命の危険が迫ったときにそれを知らせてくれる魔法で、これで何か危険が迫ったときに、ブランを呼び、ブランの転移の力で助けに行くという寸法である。
そして、魔法をかけた対象が死んでしまった時は繋がりが消えるので、対象が死んだのか死んでないのかいつでもわかる。
伊織との繋がりは玲於の中に残っていた。
「え……?」
玲於は遠い、いやここの近くで爆発的な魔力を感知する。
これは、……この魔力は……。あいつの……?なんであいつがこんなところに!?
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
HRの始まりを知らせるチャイムが鳴り響く。
玲於は一旦感じた魔力の波動を忘れることにする。
……呪術を使う伊織。あいつとの相性抜群。……嫌な予感がする。
「ほらー、席につけ」
立ち歩いていた生徒が皆自席に戻る。
「あー、今日は野外遠征の授業がある」
前から告知されていた野外遠征の授業を行うことを先生が告げる。
野外遠征の授業は、まだ完全に魔物を殲滅できていない地域に出向き、そこで実際に魔物と戦うという授業だ。
実際の冒険者と同じように野宿までする結構本格的な授業だ。
この日のために学園では様々な準備をしてきた。
「今から準備のための時間を一時間取る。一時間後、前から決めておいた4人グループで集まり、校庭に出ること。今日休みなのは伊織だけだが、まぁ伊織は隼人たちのグループだ。隼人たちなら余裕だろう。平気だよな?」
本来なら、そのチームを解散し、他のチームに一人づついれることになるのだが、玲於たちのチームならその必要はない。
3人でも十分、一年生最強のチームである。
「はい。問題ありません」
「そうか。良かった。じゃあ、一時間後。遅れるなよ。では、HRは終わりだ。号令」
「気をつけ、礼」
「「「ありがとうございました」」」
みんなが一斉に立ちあがり、更衣室に向かっていく。
各クラスに与えられた広い更衣室で戦闘衣装に着替える。
玲於は制服が汚れるのは困るため、スーツを着る。それに刀を持てば準備完了である。
このスーツは奈弓からもらったものを動きやすく丈夫に改良したものだ。戦闘用の服とかはふつうに売っているのだが、玲於にとって戦闘衣装はさほど重要でもないので買っていないのだ。
玲於の隣で隼人は戦闘衣装に着替えている。
重要ような箇所だけ守られた動きやすい軽装が隼人の戦闘衣装だ。それにガンホルダーを腰巻きつけ、二丁の拳銃をしまえば準備完了である。
普段はこれで終わりなのだが、嫌な予感がするのでブランに連絡を入れておく。いつでも僕の元に駆けつけることができるように。
ブランがいれば、あいつなら勝つことができるだろう。
隼人と少し雑談しながら、葉月との合流場所に決めた場所で待つ。
「ごめん。待たせたわ」
「大丈夫」
「俺らもいま来たところだから」
葉月は軽装の二人と違い、ガッチリとした鎧を纏っている。
その背中には大きな剣が背負われている。
「じゃあ、校庭に行こうか」
「だな」
「あぁ、楽しみだわ。魔物を殺りたい放題!」
「そうだな。……伊織と一緒に殺りたかったな」
「……そうね」
葉月は明るかった表情に影を落とし、呟く。
「大丈夫だよ。生きているよ。いつかひょっこりと戻ってくるよ」
平然としているのは玲於だけだ。
「あぁ、そうだな」
伊織も有数の実力者だ。誘拐犯なんかに負けることはないし、そう簡単に魔物にも殺されないだろう。
生きている可能性のほうがよっぽど高い。
3人は校庭に向かった。
校庭にはすでに多くの生徒が待っていた。
それからしばらく待っていると、全ての生徒が揃い、この学園の校長が全生徒の前で話し始める。
その後もいろんな先生が全生徒の前で話しをしていく。
ちなみに、引率の先生としてついてくる佐奈の話になったときの全生徒のテンションはとんでもなかった。
そして、すべての先生の話が終わり、野外遠征の授業が始まった。
各々のチームが生活に大きなバックを渡されている。
玲於たちのチームは隼人がバックを持っている。
基本的にチームは自由行動。だが、行動範囲は制限され、何かあっても先生がすぐに駆けつけられるようになっている。
玲於たちは他のチームより強すぎるため、自由な行動が許されている。
というか、玲於たちは一部の強い先生を除く先生よりも強いので、玲於たちが無理な相手なら、他の先生や生徒でも無理ということだ。
■■■
「ぶもぉぉぉぉ、ぶもぉぉぉぉ」
血まみれになり倒れ伏す巨大な魔物が鼻息を荒くし、ズタボロになった手を少女に伸ばす。
「うるさいですぅ」
少女は手に持った巨大なメイスを魔物の頭に振り下ろした。
魔物の頭は潰れ、吹き出した血が少女を赤く染めあげる。。
「あぁ、待っていてくださいぃ。玲於くん。私が必ず助けてあげます」
肩の高さで切りそろえられた髪を持った少女が紫色の瞳を輝かせて嗤った。
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