第22話

 「結局、唯我先輩来ませんでしたねぇ」

 「ん。そうだね」

 あの後、玲於は部室に戻ってきて、唯我先輩を見つけられなかったと話した。

 唯我がいないのと使いたい道具の場所がわからないので、二人はただ雑談するだけで終わった。

 「んー、帰るか」

 「ですねぇ」

 二人が部室から出る。

 学園の外に出ると、外で生徒がざわめき、上を見上げていた。

 「何でしょうかぁ?」

 「人?」

 みんなが見上げている上を見ると、そこに人影が見えた。

 「なんか、自殺しようとしているらしいよ?」

 「そうなのか?」

 周りの生徒がそんな話をする。

 「誰なんだ?そいつは」

 「あぁ、確か。2年生の唯我、っていうやつらしいぞ」

 玲於と伊織が顔を見合わせる。

 「行こ!」

 「はいぃ!」

 玲於と伊織は慌てて屋上に向かった。

 

 ■■■

 

 屋上に出る扉の前に先生が屋上に行かせないように立ちふさがっている。

 玲於はその先生を簡単に気絶させ、屋上に出た。

 「駄目だ!何バカなことをしているんだ!」

 「うるさい!」

 そこでは屋上のフェンスを超え、端に立つ唯我と唯我に話しかける先生がいた。

 「玲於……」

 唯我は屋上に入ってきた玲於と伊織を見て驚く。

 先生は一度ちらりと玲於たちのほうを見るが、すぐに唯我の方に向き直る。

 「生きてさえいれば良いことがあるよ!だから、頑張って生きるんだ!」

 「ん?誰がそんなこと保証してくれるの?」

 玲於は先生が言ったことばを否定する。

 「その人の人生どうなるかなんて誰もわからないよね?なのになんで良いことがあるなんて言えるの?何?先生は神様かなんかなの?」

 「いや、違うが……」

 先生は一瞬玲於をどなろうとするが、玲於を見て何故か怒鳴れなくなり、玲於の答えに答える。

 「だよね?ならわからないじゃないか。この先生きていて良いことがあるなんてわからないじゃん。歯食いしばって頑張って生きても突然病気で事故で死ぬかも知れない。それに今はこんな世界だ。無念のまま死ぬ人なんて腐るほどいる。明るい未来を信じて歯を食いしばって生きていた人は僕の目の前でたくさん死んでいったよ?」

 「だが!自殺するのはいけないことだ!」

 先生は叫ぶ。

 「なぜ?いいじゃないか。死。それは恐ろしく、怖いものだ。それを自ら選ぶそれを選び実行する。素晴らしい決断力ではないか。凄まじい勇気ではないか!自分の次の生に期待する。いいことではないか!周りの人が悲しむ?なぜそんな事を気にしなくてはいけない。なぜ、辛い思いをして生き続けねばならない。自分に生きるように願い、苦しめるような人など本当に自分のことを考えてくれているのか!ただ自分を苦しめようとする人のことなんてなんで考えてあげないといけないんだ!」

 玲於はそう言い切ってから。一度。息を吸う。

 「その上で唯我先輩。生きない?」

 「は、はぁ?何言ってんだよ。お前が言ったんだろ!生きても良いことなんてあるかわからない。と!」

 唯我は叫ぶ。

 いきなり現れ、いきなり自殺を肯定して、そして、いきなり今までの自分の発言を否定するかのように自分に生きるように求める。唯我は、玲於のことがわからなくなる。

 「うん。言ったね。生きてたら良いことがある。そんなの誰が保証してくれるのだ、と」

 「あぁ、そうだ。だからお」

 「僕が保証する」

 玲於は唯我の言葉を遮り、絶対の意思を持って告げる。

 「僕が保証すると言っているんだ。唯我先輩は何を望む?強くなりたい?魔道具開発部を盛り上げたい?唯我先輩が好きな女性がほしい?」

 「ははは」

 唯我は苦笑する。なぜだろうか。目の前の少年ならどんな願いも叶えてくれそうな気がする。

 だが。

 「何もいらない。ただ死にたいだけなんだ。先輩は俺のことなんとも思っていないのだ。俺にはなにもない。空っぽの俺は何も手に入らない。誰も悲しみやしないさ俺が死んだところで」

 「ふふふ、そんなの先輩の勘違いだよ。ねぇ、僕の手を取らない?」

 玲於は唯我先輩に手を差し伸ばす。

 「少しの間でいい。少しだけ僕にすがってみない?死を選べるんなら、僕の手を取ることくらい簡単でしょ?」

 唯我は、玲於の手を取った。

 

 ■■■

 

 「実際、どう思うんだ?自殺することについて」

 帰宅途中玲於は隼人に尋ねられる。

 ちなみに、唯我は置いていかれた。

 玲於がじゃあお家帰りたいから、明日部活で会いましょうと言ってそのまま唯我を置いてきた。多分唯我もお家に帰っていることだろう。

 隼人と葉月と合流し、4人で帰路についていた。

 「ん?どうでもいい。死にたいなら死ぬばいいと思っているよ?」

 「な!そんなひどい!」

 あっさりと死ねばいいと答えた玲於に葉月が遺憾の声を上げる。

 「え?なんで?」

 「本当に死にたい人なんているわけないじゃない!彼らだって悩み、救いを求めているのよ!」

 「なんでそんなこと言えるの?本当に救いを求めているなら、自殺なんかしないでしょ」

 「なぁ、なんで玲於は自殺する人は自殺すると思うんだ?」

 ここで隼人が話に割り込む。

 「ん?贖罪じゃないかな?」

 「贖罪?」

 玲於の答えに隼人は首をかしげる。

 「うん。自分が行った行動に対する贖罪。他人に迷惑をかけたこと。他人を傷つけけたこと。大切な人を守れなかったこと。大切な人が苦しんでいるのに気づいてあげられなかったこと。一人生き延びてしまったこと。生まれてきてしまったこと。みんなが望むように生きられないこと。自分が望むように生きられないこと。それらに対する贖罪」

 「贖罪、か」

 「うん。まぁ、くだらない。罪なんてその人の錯覚でしかないのに」

 「いや、別に罪は錯覚ではないだろ」

 「ん?錯覚でしょ。もし僕が自分以外のすべての人間を殺して罪なる?ならないよ。だって僕を裁く者はいないんだから」

 「いや、別に罪は裁かれなければ罪にはならないということには」

 「じゃあ、罪って何?ヒンドゥー教の人だったら牛を食べてしまい、自分が罪深いことをしたと感じるでしょ?でも、僕らは牛を食べたところで自分が罪深いことをしたなんて考えない。罪とは所詮その人の考え次第変わる。個人の考えで決まるものなんて勘違いとしか言えないでしょ?罪とは偉い人が楽に統治するための道具であり、個人の勘違いによって発生するものだと思うんだけど」

 「……なんか玲於が正しいように思えてきたわ」

 葉月は玲於の説明に納得しかける。

 「いや、ちょっと待て。罪に関しては何も言うことないが。ならなんで自殺すればいいなんて考えに?」

 「ん?だって個人の自由じゃんか。好きにすればいいよ。一人罪悪感に苛まれ、生きたくないと願うのなら。好きにすればいい。別に他人がその人の考えを否定する権利はない」

 玲於はサラリと告げる。

 「そうなったら残された人のことはどうなる?残された人のことを考えれば!」

 「そいつが苦しんでいることに気づいてやれなかった残されたほうが悪い。だって、そいつは死を望んでいるんだ。死を望んでいないのは残される周り。なら周りの人はそいつが死なないように努力すべきだ。その努力を怠った周りが悪い。止められなかったやつが文句を言うな。僕は唯我先輩に死んでほしくなかった。だから、止めた。それだけ」

 「いや、それは」

 「ん?だって付き合ってほしい人がいたら、その相手に好きになったほうが付き合って貰えるように努力するでしょ?別に相手が付き合えるように頑張らないよね。それと同じじゃない?」

 「おー、だが、付き合うのと死ぬのは違くないか?」

 「別に違わないよ。死ぬのは特別なんかじゃないよ。どこにでも死なんてありふれているからね」

 「確かにそうだな」

 死がどこにでも溢れているそこに隼人は理解を示す。

 「……自殺、か」

 玲於は一人呟く。

 ……加恋は自殺するとき、僕のことを考えてくれただろうか……?

 死。それは……。

 玲於は一人頭を悩ませた。

 加恋は、本当に死ぬことを望んでいたのだろうか。

 

 まぁ、いいか。僕はただ自分が死んだときに泣いてくれる人を増やせればそれで。

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