第21話

 「唯我先輩。見てこれ。よく出来てるでしょ?」

 玲於は自分が作った魔道具を唯我に見せる。

 「これはこうしてこうすると」

 「おぉ、すごいじゃないか。初めて作った魔道具がこれって。かなりすごいぞ」

 玲於が作った魔道具の精巧さに唯我が驚く。

 玲於が作った魔道具は魔力を込めると炎を纏う剣だった。

 「やっぱり玲於くんはすごいですねぇ」

 「そうかな?まぁ、所詮こんなのおもちゃだよ」

 二人の称賛に玲於はそう返す。

 「これくらいの魔道具じゃ意味ないよ。自分で魔法使って剣に炎をまとわせたほうが強い」

 「まぁ、玲於くんですからなぇ」

 「そんなに強いのか?玲於は」

 「うん」

 「はいぃ。玲於くんは学年で一番強いですからねぇ」

 元々一番強い言われていた隼人に危なげなく勝ったのだ。

 間違いなく学年最強と言えるだろう。

 「……そうか」 

 「せっかく作るんだから、僕が使っても邪魔にならないくらいのものは作りたいよね。あ、伊織の武器を作るのも良いかも知れない。僕が使っても邪魔にならない魔道具より伊織の武器を作るほうが簡単そうだ」

 「本当ですかぁ?私の武器を作ってくれるんですかぁ?」

 「うん。どんなのがいい?」

 「そうですねぇ、ギザギザしていて痛そうなのがいいですぅ」

 「ふっ。任せてよ。確か伊織は相手の血を触媒にして使う呪術があったよね?」

 「はいぃ」

 「じゃあ、相手がたくさん出血するような武器にしようか」

 「はいぃ」

 ここで、伊織が唯我に合図を出す。部室から出て行けと。

 「あぁ、すまない。俺はちょっとやらなくちゃいけないことがあるから、ちょっと出てくる。30分ほどで戻ってくるよ」

 「あ、はい。わかった。それで伊織。どんな機能がほしい?」

 「そうですねぇ」

 唯我は二人の話し声を聞きながら、部室から出ていった。

 「あんっ」

 出ていった後聞こえてきた伊織の喘ぎ声は聞こえなかったと、自分に暗示をかけ、走り去った。

 俺は……。俺は……!

 

 「あんっ」

 「あ、ごめん」

 唯我先輩が教室を出てすぐ、玲於はバランスを崩し、伊織の上に覆いかぶさる。

 「れ、玲於くん。手が!」

 「あ、ごめん」

 そして、伊織の上にかぶさったときに玲於の手が伊織の豊かなお胸をタッチしてしまっていた。

 「い、いや、大丈夫ですからぁ」

 「いやー、ごめんね」

 玲於は謝りながら立ち上がる。

 「いや、本当に大丈夫ですかりゃぁ」

 伊織も顔を真っ赤に染めながら立ち上がる。

 「それで、伊織。魔道具のことだけど……」

 「あ、あぁ、そうですねぇ。私は持ち運びが楽なようにコンパクトにできるような仕組みがほしいかも」

 「うん、わかった。じゃあ取り敢えず試作品を作ってみるか」

 玲於は取り敢えず長い棒を部室の中から探し出し、それをコンパクトにできるように色々と試していった。

 

 30分ちょうどに唯我が部室に戻ってくる。

 そして、唯我は自分が出る前は開けられていなかった窓が開けられているのを見て、眉をひそめる。

 「あ、唯我先輩。ここって鍛冶道具あったりする?」

 「え?いや、あるにはあるが」

 唯我はすぐに切り替え、玲於の質問に答える。

 「鍛冶できるような広い場所がないからな」

 魔法の炎で鉄を熱することができるので鍛冶をするのに窯は必要ない。ハンマーなどがあれば簡単に行えるようになっていた。

 だから、先輩は念の為と鍛冶の道具も年のために用意していたのだ。

 まぁ、魔道具開発部の部室は一つしかなく鍛冶ができるような広さではないため、鍛冶が行われることはなかったが。

 「え?あるの?貸してほしいんだけど」

 「いいけど」

 唯我は部室の奥深くにホコリを被って置かれていた鍛冶道具を持ってくる。

 「これ、どう使うの?こんなところじゃ使えないと思うんだけど」

 「あぁ、大丈夫。使えそうないい場所を僕は知っているから」

 玲於はそう言って、鍛冶道具を持ち部室から出ていく。

 それを伊織と唯我が追いかける。

 「サ、サッカー部?」

 玲於がやってきたのはサッカー部が練習しているスタジアムだった。

 「ここ借りるね」

 「ひぃぃぃぃいいいいい!」

 玲於の姿を見たサッカー部の面々が悲鳴をあげる。

 玲於はそう言うと、鍛冶道具を広げていく。

 そして、堂々と作業を始める。

 サッカー部の面々はすぐさま練習を中断し、スタジアムの端まで逃げる。

 「いや、なにやってんだ?」

 サッカー部に所属し、練習していた隼人は呆れたように呟く。

 「何いってんだ、隼人!あいつはやべぇよ。近づくな!」

 そう叫ぶサッカー部員を見て隼人は顔を引きつらせ、玲於に近づく。

 「お前、何やったんだ?」

 「ん?僕は何も?勝手に向こうが僕を恐れているだけだよ?ここなら簡単に場所を譲ってくれるかなって」

 「……そうか」

 隼人はもうなにか言うことも億劫になってしまった。

 「じゃあ、もう好きにしていてくれ。他の奴らも文句ないみたいだし」

 「うん」

 玲於はスタジアムで鍛冶を続けた。

 

 ■■■

 

 「唯我先輩遅くないですかぁ?」

 玲於がメイスを作った次の日。今日も魔道具開発部に来ていたのだが、いくら待っても唯我先輩が来なかった。休むとは聞いていない。

 「ちょっと探してくるね」

 「あ……」

 玲於は伊織の返答も聞かずに部室から飛び出した。

 

 

 「なんだよ。お前本当にあの二人が魔道具が好きで魔道具開発部に入っていると思っているのか?」

 「な、何を」

 「あいつらふたりがデキているのは知っているだろ?魔道具開発部なんて彼らがしてみれば不純異性交遊の場所でしかない」

 「……そ、そんなことは……」

 「なんだ?お前だってわかっているだろ?」

 ヤンキーにそう言われ、思い出されるのは最初の日の伊織の言葉。そして、部室から聞こえてきた伊織の喘ぎ声。

 あの二人にとって、魔道具開発部とは何なのだろうか。なぜ、あれほど強い玲於が、魔道具に興味を示すのだろうか。玲於には魔道具なんて必要ないだろうに。あぁ、そもそも玲於は魔道具に興味がないのではないか。

 「かかか、滑稽だなぁー。おい!お前らしい勘違いだわ。それにどうせ玲奈はお前に対して何の興味も抱いてねぇよ」

 ヤンキーは唯我が恋する玲奈の名前を出す。

 「当然だよなぁ。お前は玲奈との約束を何一つも果たしていないのだからなぁ!まぁ、玲奈はお前に同情しただけで、特別な感情をお前に抱いてなどいなかったけどなぁ!あのひとには好きな人がいたしな!」

 唯我の頭に浮かぶのは玲奈が自分の知らない男と楽しそうに話す姿だった。

 「まったく、お前は何のために生きてるんだがな!」

 ヤンキーは伊織の腹を蹴り飛ばす。

 「ぐはっ」

 「おら。これはもらっていくぜ」

 ヤンキーは強引に唯我から財布を奪い取る。

 「じゃあな」

 ヤンキーは財布から有り金全て奪い、財布を唯我に投げつける。

 「次会うときまでに金を手に入れてくるんだぞ?」

 ヤンキーはそう言って空き教室から出ていった。

 それを唯我は失意の中で見送った。

 あぁ、俺はなぜ……。

 

 

 「……ん。いい感じ」

 空き教室の外で話しを聞いていた玲於がぽつりと呟く。

 「行く」

 「へ、へい」

 玲於は外に出てきたヤンキーを連れて空き教室から離れた。

 

 ■■■

 

 「これでよかったっすかね?」

 ヤンキーは無表情で椅子に座る玲於に聞く。

 さっきの会話はすべてヤンキーが玲於に命じられ、言ったことだ。

 「ん。上出来」

 「へい」

 「褒めてあげる。ヤンキー君」

 「ありがとうっす。あ、自分ヤンキーじゃなくて間宮 幹二っつう名前があるんっすが」

 「ん。覚えとく」

 「こ、これで俺はお役御免っすか?」

 「いや」

 ヤンキー、幹二は玲於のその言葉に絶望の表情を浮かべる。

 「大日本帝国、知ってる?」

 「へい、知っていやすが」

 「大日本帝国トップ、僕」

 「は?え、えぇぇぇええええ!」

 まるでなんでもないことのように言った玲於の言葉に幹二は心底驚く。

 「これから、色々頼む」

 「へい。まぁ俺にできる範囲で頑張らせてもらうっす」

 よく考えてみれば、大日本帝国のトップの側近として動けるのであれば、悪くない。

 それに、冷徹無慈悲な絶対皇帝の側近。これ以上にかっこいいポジションがあるだろうか。

 いや、ない。

 幹二はこれからの自分のバラ色の人生に思いを馳せる。

 だが、残念のことに幹二は頭があまり良くなかった。

 普通に考えて、大日本帝国のトップであれば優秀な部下などいくらでもいる。ぽっとでの不良ごときが側近になれるはずがない。

 これから玲於の雑用として死ぬまでこき使われるだけである。

 スタイリッシュでかっこいい仕事が自分に回ってくるはずもない。

 ただ、雑用係としての役職上玲於の回りにいることは多くなるので、周りから見れば冷徹無慈悲な絶対皇帝の側近として回りから恐れられることにはなるだろう。

 幹二の目的であるモテるかどうかはわからないが。

 幹二くんはツッパリがかっこいいと考え、女の子にモテると信じているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る