第19話
「案外簡単なんだね。サッカーって」
放課後、まず隼人のサッカー部に来ていた。
「玲於くんがおかしいだけだと思いますぅ」
そこで玲於は学園の一軍相手にたった一人でフルボッコで圧勝していた。
それは、玲於がサッカーボールに触ってたった30分のことだった。
絶対にボールを取られず、ひたすらゴールを決める。
ボールを取られば、ゴール前に速攻で行き、ゴールに打ち込まれたボールを足で止め、そして一人コートを走りきり、ゴールを決める。
そして玲於はサッカー部の部員のメンタルをブレイクしてしまった。
「隼人の言う通り運動部はダメそうだね。個人戦でも相手がいなそう」
「ですねぇ。こんな悩みを抱えるのは玲於くんくらいですよぉ」
あの後、サッカー部全員に涙ながらに帰ってくれと懇願され、玲於達は仕方なくサッカー部を後にした。
「うーん。やっぱり文化部しかないのか」
「嫌なんですかぁ?」
「いや?別に。そういえば、僕と伊織が二人きりなの地味に初めてじゃない?」
「そうかもしれないですねぇ。いつも二人と一緒でしたからねぇ」
「うん。そうだね。あ、伊織が見てみたい部活とかある?」
「いえ、ないですよぉ。玲於くんの好きなところでいいですよぉ」
と、伊織が玲於にそう答えたところで旗と思いだす。
こういった質問のとき、一番困る答えが何でも良いだということに。
料理でもデートの場所でも、聞いた相手から何でも良いと言う答えだったらならば、どうすればいいか悩み困り果てるだろう。
玲於くんを困らせるわけにいかない!伊織はそう考える。
だが言わなくてもわかるであろう。そんなことで玲於が困ることはないことくらい!玲於はこういうとき、何も考えずに適当なところを歩いて回るであろう。
「あ、やっぱり行きたいところがあったや」
「あ、そう?」
突然意見を変えた伊織に玲於は不思議に思うも、まぁ忘れてたり、突然行きたくなったりすることもあるかと考え、深くは考えない。
まぁ、深く考えたところで玲於が伊織の心理に気づくことはないだろうが。
「えーと、私はね」
だが、伊織は何も考えずに玲於にそう言ってしまったため、何の部活を答えればいいかわからず悩む。
玲於が行って満足できるような部活。
何だ!?それは。
伊織は必死に頭を働かせる。……そこで思い出す。昨日玲於が図書室に言ったことを。
文芸部ならどうだろうか。玲於は本に興味があったようだし、嫌ということはないだろう。
そう考えた伊織は満を持して口を開く。
「私、文芸部に興味があったんですよねぇ。行ってみたいですぅ」
「うん。そうか。じゃあ、文芸部に行こうか」
二人は今日、文芸部が活動していることを確認し、文芸部の活動場所である図書室に向かった。
「えーとね。ここで私たちは本を読んだり、本を書いてみたり、俳句を詠んだり、文芸に関するさまざまなことをしているわ。えっとね。コンクールで入賞したやつも結構あるのよ。ほら、これとか」
玲於と伊織は文芸部の先輩から、文芸部の活動内容や、その成果などの説明を受けていた。
文芸部の人数は5人と少ないものの、全員が仲良くいい雰囲気の部活だった。
閉鎖的な伊織はここならば入部しても良いと思えたほどだ。まぁ、女子率が多く、玲於に対して薄汚い視線を向けていることには怒りを覚えるが。
「私達の部活の説明はこんな感じね。どう?今日一日体験入部してみる?」
「あ、すみません。僕は良いです。これからもいろいろな部活を回ってみたいと考えているので。伊織はどうしますか?」
「私もいいですぅ。玲於くんと同じでいろいろな部活を見て回りたいものでしてぇ」
「あぁ、そうね。部活は高校生活で大切なものだからね!真剣に選ぶと良いわよ」
「はい、そうさせてもらいます。ではありがとうございました」
「あろがとうございましたぁ」
「えぇ。こちらこそありがと。また来てくれると嬉しいわ」
二人は優しい先輩に見送られ、図書室から出た。
「どうでしたかぁ?玲於くんは」
「うーん。僕は入らなくていいかな」
「なんでですかぁ」
「いや、図書室の本すべて読みきっちゃったから。自分が書くことに余り興味はないから」
玲於は知識は力だと思っている。
強くなる。自分の目的のために読書はとても大切なことではあるが、もう覚えた本にもう一度目を通す必要はないし、ましてや自分で書くようなことはしない。
「そうですかぁ」
伊織は心の中で失敗したと、自己嫌悪する。玲於くんはとてもすごい人である。なら、昨日のうちにすべての本を読み終わっていてもおかしくないではないか!と。
「伊織はどうする?」
「私は良い部活だとは思ったんですけどぉ。いいですかねぇ。私一人じゃ心細いですしぃ。玲於くんと同じ部活に入りたいですぅ」
「そっか。じゃあ、一緒に他の部活も見て回るか」
「はぁい」
あの後も二人はぶらぶらと部活を回り、様々な部活の説明を受けた。
「うーん。どこも簡単にできるせいで、入る必要性がないんだよな」
「玲於くんのすごいところですけどぉ。こういう時はとても困りますねぇ。どうしましょうかぁ?」
しかし、どの文化部でも少しの時間で玲於がマスターしてしまうのだ。
合唱部では、人の心を揺さぶり誰もが感動するような美声で歌い、吹奏楽部では触らせてもらった楽器でプロ以上の華麗な演奏を披露し、囲碁将棋部では部長、顧問相手にハンデ有りで圧勝し、魔法関連の部活では玲於以上の魔法の知識を持つ者はいなく、結局何も学べず、入る価値がありそうな部活がなかなか見つからなかった。
「おらぁ!」
そうこうして、二人が学園ないを歩いて回っていると、昨日のような怒号が聞こえてくる。
「行こ?」
「はいぃ。行きましょうぅ」
二人は声が聞こえてきた方向に向かっていく。
そこでは、昨日と同じように空き教室で唯我がヤンキーに恫喝されていた。
「また、先輩たちですか」
「な!……ちっ。お前ら。行くぞ」
玲於の姿を見たヤンキーは驚き、他のヤンキーを連れ、空き教室から出ていった。
「大丈夫ですか?唯我先輩」
「えぇ。また情けないところを見せてしまったね」
唯我は玲於を前にして苦笑し、立ち上がる。
「いえいえ、全然情けなくなんかないですよ。あ、先輩。自分部活どこに入ろうか悩んでいるんですけど、なんかおすすめの部活ありませんか?」
「おや?まだ部活に入っていないのかい?」
「はい。僕転校生で」
「おやおや。そうなのかい。じゃ、じゃあさ。僕の部活に来ないかな?魔導具開発部なんだけど」
「魔道具、ですか」
魔道具なんて作ったことないし、いい機会かもしれない。
魔法はすでに決まりきっているもので研究、開発のしがいがないが、魔道具なら違う。魔道具の研究、開発するのも良いかも知れない。
「ははは、やっぱり魔道具なんて駄目かな?」
黙った玲於を見て、唯我は自嘲気味に笑いながら話す。
魔道具なんて力ないやつが使うもので、俺らエリートが使うにはふさわしくないという考えが蔓延している学園内で魔道具開発部は疎まれていた。
「いや、そんなことないですよ?興味深いです。伊織はどう思う?」
伊織は、玲於が学園で自分の知らないところで知り合いを作っていたことを面白く思っていなかった。
だがそれと同時にいじめられている人を助けてあげる玲於が優しい心に触れ、感服していた。
「本当かい?君がそう行ってくれるだけで嬉しいよ。なんせ部員は僕一人しかいないからね」
「私も興味がありますぅ。行ってみたいですぅ」
伊織は唯我のその一言を聞いて速攻でそう答える。
この頼りない先輩を脅して、部室から出ていってもらえば、玲於と二人きりになれる。伊織はそう考えた。
「本当かい!?」
唯我は喜ぶ。この後脅されることになろうとは一切考えていない。
「じゃあ、行きましょうか。唯我先輩案内してください」
「あぁ、任せたまえ」
唯我は力強くうなずいた。
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