第18話
「……図書館、どこ?」
玲於は絶賛迷子中であった。
前から気になっていた図書館に行こうと思ったのだが、あまりにも学園が広すぎて迷子になってしまったのだ。
今、隼人たち3人は、時間があいていた桜から魔網術を学んでいる。
だから、玲於はもうすでに魔網術で桜から学ぶことはないので、隼人たちが魔網術を学んでいる間の時間つぶしとして図書室で本をよむことにしたのだ。
だが、いつも学園を案内してくれている隼人たち3人がいないので場所がわからなかったっていうことになったのだ。
「おい!」
玲於が校舎内をウロウロしていると、怒号が聞こえてくる。
怒号が聞こえてきた方向に向かうと誰もいない空き教室で一人の男子生徒が複数の男子生徒に囲まれ、恫喝されていた。
「お前、金持ってきた?」
「すみません!すみません!これだけしか!」
「あぁ!?足んねぇよ!
「いじめは駄目だよ?」
明らかにヤバそうな空き教室に何事もないかのように平然と入っていく。
「あぁ?」
制服を着崩したヤンキーのような見た目のやつが玲於をにらみつける。
「どうしたの?」
だが、玲於は睨みつけられても首を傾げるだけ。
「んだ、ごらぁ!喧嘩売ってんのか!」
ヤンキーは玲於の胸ぐらをつかむ。
だが、それでも玲於は不思議そうに首を傾げるだけだ。
「んだよ……お前」
玲於の作り物のような美しい表情と相まってそれはひどく不気味に見えた。
「ちっ、行くぞ。お前ら」
ヤンキーは舌打ちし、手下を引き連れ空き教室から出ていった。
ヤンキーは玲於からやばい雰囲気を第六感で感じ取ったのだ。
「あの人がトップだったのかな?あ、大丈夫ですか?」
玲於はいじめられていた男子生徒に声をかけ、手を差し伸べる。
「あぁ、うん。……ははは、後輩に情けない姿を見せてしまったね」
男子生徒は玲於の手を掴み、立ち上がる。
その男子生徒の上履きの色は青であり、2年生であることが見てわかった。
剣魔学園では上履きの色で学年が分けられており、緑が3年生、青が2年生、赤が1年生といった感じだ。
「ん?情けない姿ですか?」
情けない姿といった男子生徒に玲於は首をかしげる。
「いや、あんないじめられている姿を……」
「え?別にいじめられてる姿は情けなくないですか?いじめられるだけの魅力があるということでしょう?」
「え……」
困惑する男子生徒を前に玲於は首をかしげる。
「あ、自己紹介をまた忘れていました。僕は皐月 玲於です。よろしくお願いしますね」
「あ、うん。俺は八代 唯我だ。よろしく頼む」
「はい、よろしくおねがいしますね。あ、唯我先輩。図書室の場所はわかりますか?」
「あ、うん。わかるぞ」
「じゃあ、案内してくれませんか?図書室に行きたかったんですが、迷ってしまいまして」
「……いいぞ」
玲於のペースに飲まれたまま、唯我は頷く。
「本当ですか。ありがとうございます」
「すっごいですね」
玲於は図書室を見渡し、告げる。
「まぁ、ここは日本の学園の中で最大の蔵書数を誇るからな」
玲於は本棚に近づき、本をパラパラとめくっては戻すを繰り替えていく。
「……なんだ?読まないのか?」
「え?読んでいますよ?」
「え?だって。……まさかあれで読んだと?」
「はい。しっかり頭の中に入っていますよ?」
「嘘だろ?じゃあ、俺の質問に答えられるか?」
唯我は本棚に駆け寄り、玲於が一度手にとった本を手に取り、適当にページを開く。
「2006年に行われた中小企業診断士制度の改正の内容は?」
「えーと、第1次試験への科目別合格の導入。第1次試験の科目の再編成(従来の8科目から7科目へ)。第1次試験のいわば「共通1次化」(第1次試験合格が養成課程受講の資格要件となった)。第2次試験後の実務補修での診断企業件数の増加(2社から3社に増加)。中小企業診断士の更新要件の変更。ですね」
「一字一句あっている。……俺なんかとは脳の出来も違うってことか」
唯我は少し自嘲気味につぶやく。
だが、玲於はそんな唯我のことを気にせず、本をパラパラする作業に戻った。
「……俺も読むか」
唯我も自分が手にとった本に視線を落とした。
しばらくして、唯我が一冊読み終わり、顔を前に上げるとそこには笑顔を浮かべた玲於が立っていた。
「うお!?なにしてんだ」
「いや、全部読み終わりましたので」
「お、おう。そうか。先に帰ってよかったんだが」
「いえ、玄関までの場所がわからなかったので、案内してもらおうかと思いまして」
「は?玄関の場所もわからないのか?」
「えへへ」
玲於は少し困ったように笑った。
なんなんだ、こいつ。唯我は困惑する。本を簡単に記憶することができるのに、玄関の場所もわからないのか?
「……まぁ、いい。ほら。ついてこい」
「はい、ありがとうございます」
玲於と唯我は玄関に向かった。
「じゃあ、俺は2年生の玄関に行くから」
「はい、ありがとうございます」
「いや、お礼はいいよ。本当に感謝しなきゃいけないのは俺の方だ。いじめから助けてくれてありがとう」
唯我は深々と頭を下げる。
「別に気にしないでください。こっちも色々と教えてくもらいましたから。それでお愛顧です。ほら、唯我先輩。頭を上げてください」
「あ、あぁ。すまない」
「では、先輩。またお会いしましょう」
「あぁ、そうだな。またな」
唯我は玲於のもとから離れ、2年生の玄関に向かっていった。
「うーん。うまくやれば彼も僕が死んだとき泣いてくれるかも知れませんね」
玲於は唯我が完全に見えなくなった後一人呟く。
「玲於!遅いわよ!」
靴を履き、外に出ると玲於を待っていた葉月が不満げに声を荒らげる。
もうすでに外には隼人たち3人が待っていた。
「何をしていたんですかぁ?」
「ん?あぁ、図書室にね」
「あぁ、図書室か。あそこの蔵書数はすごいよな」
「うん。だからこんなに遅くなっちゃった」
「まぁいいわ。じゃあ帰りましょ」
「今日暁の光は用事があるらしくて、ホームに来なくていいらしいですぅ」
「へー、じゃあみんなで夜ご飯でも食べに行く?」
「お、いいじゃねぇか」
「いいじゃない!」
「いいですねぇ」
4人は学園の近くの飯屋に向かった。
■■■
次の日に昼休み
「あー、部活か。中学生以上には部活があるんだもんね」
玲於は隼人たちから部活についての話をされていた。
「そうそう。玲於は部活入らねぇのかな、って」
「あー、どうしよ。隼人たちはなにか部活やっているの?」
「あぁ、俺はサッカー部に入っているぜ。まぁ、暁の光の修練のためにここ最近出れてねぇが」
「私は魔法総合格闘部に入っているわよ。隼人と同じでずっと部活の方に顔を出せてないけど。」
「私は入っていないんですよぉ」
「ふーん。もう暁の光から学ぶことあまりないし、部活動に入ってみようかな」
「俺は暁の光から何も学べることがないって言えるお前が怖いわ」
もうこの一週間で暁の光の持つ全ての技術を会得し、あとはそれの精度を上げるだけだ。
だが、それは暁の光がいなくても一人でできることであり、暁の光に学ぶことは何もなくなったと言える。
「じゃあ、私も一緒していいですかぁ?」
「一緒?」
「はいぃ。私と一緒に部活探しに行きませんかぁ?」
「うん。いいよ」
「え?二人で?」
「え?なにか問題があるの?」
「そうですよぉ。なにか問題ありますかぁ?」
「い、いや、ないわよ!二人でどこにでも行きなさいよ」
「はぁー」
玲於と伊織の二人きりにさせたくないけど、素直にそう言えない葉月をみて隼人はため息をつく。
「?じゃあ、大丈夫だね」
「はぁー」
そして何もわかっていない様子の玲於にも隼人はため息つく。
あと、玲於、葉月。伊織を見てみろ。一瞬とんでもなく悪そうな表情を浮かべたぞ。
「ねぇ、隼人。おすすめの部活動ってある?ちなみに僕は何の運動もしたことないんだけど」
「あー、じゃあこの学園の運動部って結構強いから、初めてだとやめたほうが良いかも知れ……いや、お前なら楽勝か」
この学園の生徒はたとえ世界が世紀末になったとしても持ち前の固有スキルで魔物を相手取り、普通に暮らして来た人が多い。
だが、ゲームとかの娯楽は全部一旦できなくなったため、運動以外できることがなく、一日中ずっと運動していたような奴らが部活に入っているため、とんでもなく強い。
しかし、暁の光の一流の技術を何の苦労もなしにマスターした玲於ならどんなスポーツもあっさりマスターするだろうと予想し、言葉を途中できる。
「多分、玲於は運動部向いてないと思うな。特に苦労も努力もせず一人で無双し、他の部員から嫉妬されて終わる未来が見える。だから、文化部のほうが向いているんじゃないか?メジャーな部活から少しマイナーな部活、魔法関連の部活など多種多様な部活があるから、色々と回ってみると良いよ。まぁ、うちの学園の生徒の数がそこまで多くないから一つの部活の生徒人数は少ないが」
学園が全国から集めているとはいえ、生徒はみな精鋭。数は学園の広さに対してそこまで多くない。
だから、空き教室の数がとても多く。使われていない施設も多く、一般公開されているし、空き教室のいくつかは家をなくした人の宿泊場所になっているほどだ。
誰だよ。何も考えずにバカ広くしたの。
「ふーん、そっか。じゃあ、色々見て回ることにするよ。長くなりそうだけど伊織は大丈夫?」
「はいぃ。大丈夫ですぅ」
「そっか」
おい、気づけ。玲於。葉月の表情に。玲於に見えないところであくどい笑顔を浮かべている伊織に。
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