第17話
3日間、有事の際に優秀な冒険者である学園の教師たちがいつでも動けるように学園は休校となっていた。
政府が対応を決定し、教師たちをいつでも動けるようにする必要がなくなったため学園が再開されることになった。
「なぁー、北海道反乱ってどうよ?」
「えー、マジヤバない?」
「俺は良いのではないかと思うぞ。力あるものが支配するそれが自然の道理だ」
「最高じゃねぇか。前からうぜぇって思ってたんだよ」
「そんなこと言ったらいけないよ」
クラスの話題は北海道の反乱のことでいっぱいだった。
「なぁ、今回の政府の対応どう思うよ?」
そして、北海道の反乱について話しているのは玲於たち4人も同様だった。
「え、いや、どうなのかしらね?」
奈弓から今回の政府の対応について色々聞いていたはずだが、ミノタウロス関連のやり取りのせいで何も覚えていない葉月はしどろもどろになりながら答える。
「今回の政府の対応、俺は駄目だと」思うんだ。例外を出してしまえば次々とそれに続く形で例外が発生してしまう。奴らをつけあがらせる事になってしまう。そうなってしまっては駄目だと思うんだよ」
「そうかもね」
政府がこの対応の判断を決めることになった一番の要因である玲於は呑気に頷く。
「あ!確か……他の冒険者たちの不満も結構溜まっていると思うから、下手に戦力を北海道に向けると他の地域で反乱が起きるかもって、言う理由だった思う」
奈弓から聞いた話をなんとか思い出した葉月はそう話す。
「たしかにそれも一理あるかもしれないが、それでもここで弱気な姿勢を見せてしまえば……」
隼人が神妙そうな顔つきで話す。
「おーい、席につけー。ホームルーム始めるぞー」
各々が北海道の反乱について話しているところで先生がクラスに入ってきて、ホームルームを始める。
諸連絡を済ませると、教師は一旦深呼吸を挟む。
「あー、みんなは北海道の反乱についての話は聞いただろうか。今回の政府の対応によって暁の光がここに滞在することになった。しかし、政府は暁の光をただ遊ばせておくわけはない。ここ、剣魔学園で臨時講師として来てもらう事になった」
先生のその発言にクラスがざわつく。
「あー、静かにしろ。そして、だ。うちのクラスに暁の光所属で【聖女】の称号を持つ斎藤 佐奈様がうちの副担任としてつくことになった。では、どうぞ。聖女様」
「むぅ。様付けで呼ぶ必要はありませんよ?私だってあなた達と同じ一人の人間なのですから。気軽に佐奈と呼んでくれれば」
頬を膨らませながら佐奈がドアを開け、中には行ってくる。
その瞬間、クラスから歓声が上がる。
「おーい、静かにしろ。聖女様が自己紹介できねぇだろ」
「お願いしますね」
教室が一気に静まり返る。
「はじめまして。私は暁の光所属の斎藤 佐奈って言います。恥ずかしながら【聖女】の称号で呼ばれているものです。しばらくの間よろしくおねがいします」
佐奈はきれいにお辞儀をして、ニコリと笑う。
「あー、お前ら。普段の副担任や教育実習生ならたくさん話しかけてやれって言いたいところだが、今回は別だ。自重しろよ」
先生はそう一度注意してからホームルームを終わらせた。
だが、教師の注意なんてなんのその。
一斉に生徒たちが佐奈の周りに集まる。
玲於たち4人は一歩離れたところからそれを眺めていた。
「すごいわね!本物の聖女様よ!」
「ですねぇ!」
「ん」
「あぁ、そうだな」
テンションバク上がりの女子二人とは対象的に男子二人のテンションは低い。
「うーん、かわいいとは思うが、それだけだな。なんであんなに群がるのかわからん」
「だね。それにかわいいって言ったら葉月や伊織も同じくらいかわいいし」
「「ッ……!」」
玲於のなんでもないこのようにつぶやかれた言葉に女子二人が顔を赤くする。
「ちょっと失礼しますね。あなた。奈弓さんの妹さんですか?」
「え、あ、はい、そう、です」
突然佐奈に話しかけられた葉月はブリキ人形のように頭を縦に振る。
「あぁ、やっぱりそうでしたか。会議ではあなたのお姉さんに大変お世話になりました」
佐奈がペコリと葉月に頭を下げる。
「あ、は、はい」
「あなた達は葉月さんのお友達ですか?これからよろしくおねがいしますね」
「ひゃ、ひゃい」
「あ、いや、は、はい」
さっきまで聖女とかどうでもいいわ、て感じだった隼人も本物を前にキョドりまくっている。
「はじめまして。よろしく。佐奈」
そんな中玲於だけは平常心を崩さす、平然と挨拶し、その上佐奈と呼び捨てにする。
「ちょ!」
「お前、何呼び捨てに!?」
「え?だって本人がそう呼べって」
「ええ、はい。そうですね。気軽に呼んでもらって大丈夫ですよ」
佐奈は楽しそうに笑った。
「んなもん。世辞に決まっているだろ!?」
隼人は本人を目の前に世辞だと言い切ってしまう。
「いえいえ、そんなことありませんよ」
佐奈は少し苦笑しながらそれを否定する。
「どうぞ、佐奈とよんでください」
「あ、いや、すみません。でも、ちょっと恐れ多いっていうか」
「はぁー、仕方ありませんね」
佐奈は少し残念そうにしながらも、諦める。
「ところで、玲於君どこかでお会いしたことありましたか?どうも初対面じゃないような気がして」
「ん?初めて会ったと思うよ?」
「あら、そうでしたか。すみませんでしたね」
仮面もつけて、声も変えて魔法を使い認識も捻じ曲げたはずだけど、気づくのか。
最強と名高い暁の光は伊達じゃないということか。
認識を捻じ曲げる魔法の強度を上げることにしよう。
「あ、お前ら。今日の授業は聖女様がやってくれるから、しっかり聞けよ」
「あ、はい。そういうことになっています。どうか、みなさんよろしくおねがいしますね」
「「「はい!」」」
玲於の除くすべての生徒の返事が重なった。
「私からは、神聖魔法について教えようかな、って思います」
佐奈は自分の象徴とも言える魔法であるといえる神聖魔法についての授業をすると話す。
「まず第一に私の神聖魔法は私の固有スキルによるものだと思われがちですが、それは違います。これは光魔法の派生系です。使おうと思えば、誰でもつくことが出来ます」
佐奈のその一言によってクラス中が騒然となる。
授業を後ろで聞いていた教師も口をあんぐりと開けている。
「魔法は簡単に性質を変えます。身体強化などは無属性魔法は知っていますよね?まず、魔法には魔力には色があり、それによって属性が決まる。これが前提知識となります。そして、無属性は無色なので、属性がないとされています。そして神聖魔法は無属性魔法に光属性の色を後付けた魔法です。無属性魔法に色をつけるには高度な魔法操作を必要になるため、難しいのです。では、みなさんもやってみましょうか。魔法操作のいい練習になると思いますよ。
なるほど、神聖魔法は、悪魔たちがよく使う不浄魔法の反対側か。
不浄魔法は、無属性魔法に闇属性の色を後付けした魔法だ。高位の悪魔ともなれば、属性魔法に闇属性の色を混ぜたりなどもできるのだが、どうやら、佐奈はできないらしい、と。玲於は一人分析する。
ただただ、光属性と闇属性以外の色を後付けすることは出来ない。光属性と闇属性は特殊なのだ。
不浄魔法は、闇魔法への高い適正が必要となるのだが、人間には闇魔法への高い適正がないらしい。玲於は固有スキル【器用貧乏】のおかげで、不浄魔法も問題なく操れているのだが。
逆に悪魔は光魔法に高い適性がないので神聖魔法は使えないだろう。
それにしても、今まで教えてもらってばかりだったせいで視野が狭くなっていた。
なぜ、この程度のことを思いつかなかったんだろう、と玲於は反省する。
「では、お手本を見せますね」
佐奈は、身体強化の魔法を唱える。
佐奈の手に身体強化の魔法の魔法陣が描かれる。
魔法陣の色は白だ。
「よく見ててね。光あれ」
佐奈はすでに完成した魔法陣に魔力を込めていく。
徐々に魔法陣の色が白から黄色へと変わっていく。
「「「おぉ」」」
目の前で行われた佐奈の有名な神聖魔法にクラスメートが感嘆の声を上げる。
「はい、お手本はこんな感じです。では、やってみてください」
生徒たちが身体強化の魔法を唱えていく。
そして、光の魔力を流し込んでいくのだがうまく行かず、魔法陣が破綻する。
その傍ら、玲於は身体強化の魔法に光の魔力を流し込み、神聖魔法を成功させる。
「え?すご」
「は?」
「えぇー」
あっさりと成功させた玲於を前に回りのみんなは呆然と声を漏らす。
「あら?成功させたんですか。すごいですね。こう言ってはなんですか、成功させると思っていなかったですよ」
「え?成功できないと思ってたのに教えたの?」
「はい、そうですよ。私この授業で魔力操作の大切さと魔法の可能性を教えたかったのです。将来、神聖魔法が使える人が現れたら御の字だと考えていたんですよ」
「へぇー。まぁ、僕は固有スキル【器用貧乏】のおかげで何でもできるんですよ。まぁ、極めることは出来ないんだけどね」
ははは、と玲於は苦笑する。
「いや、それでも十分すごいですよ。もし、暁の光全員の技術を学ぶことが出来れば……。きっと多くの人が救われることになるでしょう……!」
「そうなるといいね」
熱く話す佐奈に玲於は笑顔でうなずいた。
佐奈は、玲於のもとから離れ他の生徒のことも見て回る。
そして、玲於は神聖魔法の検証も進めていく。
「あら?隼人君。どうしたんですか?」
佐奈が隼人に声をかけられ、玲於も一旦そちらの方に意識を向ける。
隼人は身体強化の魔法を唱えておらず、何もしていなかった。
「いや、すみません。俺、光魔法失ってしまいまして、使えねぇないんですよ。本当にすみません。聖女様」
「えぇ!」
初めて光魔法が使えない人を見て、佐奈は驚く。
玲於も光魔法が使えないということを聞いて不思議そう首をかしげる。魔法の原理的に光魔法が使えないということはありえないはずなのだが。彼が嘘を教えたのだろうか。……だが、なぜ?なんのため……?
まぁ、いいか。どんなに考えても答えが出ることはなく彼を警戒しておけばいいか、という結論に至る。
「じゃあ、隼人くんには特別な魔力操作法でも教えましょうか」
「ほんとですか?よろしくおねがします!」「
玲於は隼人から神聖魔法に意識を移す。
ほとんど原理は不浄魔法と同じで、玲於は問題なく自在に神聖魔法を操ることが出来た。
だが、そもそも不浄魔法の効果は既存の魔法の強化であり、神聖魔法も同様だった。
不浄魔法に神聖魔法を重ねがけしても、特に効果が上がることはなく、神聖魔法は不浄魔法だと出来ない光魔法への重ねがけくらいしか活用できない。
しかし、玲於は光魔法をあまり使わないので正直に言ってあまり活用できそうにない。
そう考えたところで玲於は思いつく。
色を後付けする段階で同時に後付けしてみればどうなるだろう、と。
反対の性質を持つ物質と反物質が衝突すると対消滅を起こし、なんか大きなエネルギーが発生すると昔本に書いてあったことを思い出し、反対の性質を持つ光と闇の魔力を同時に流し込んだら、いい感じにパワーアップするのでは?と思ったのだ。
思い立ったが吉。
玲於は早速身体強化の魔法を唱え、魔法陣に光と闇の魔力を流し込んでいく。
すると、突如魔力が消滅。
魔力じゃない明らかになにか違う別の力がうねり、暴走する。
「はぐ」
そして、力は爆発し玲於は爆発の威力をもろに食らう。
咄嗟に玲於は結界魔法を使い、自分の周りを囲むことで周りへの被害は抑え込んだ。
「ちょ、大丈夫ですか!?」
いきなり爆発した玲於に周りは騒然となり、爆発で傷を追った玲於に佐奈は魔法をかけ、傷を回復させる。
「いたた……」
結構ボロボロになっていた玲於を佐奈の魔法は一瞬で治す。
「何をしたんですか?」
「いや、魔力を流し込みすぎて魔法陣が暴走して、破裂した」
「えぇ、そうですか。……あれ?別に流し込みすぎても爆発はしないような?」
「……そうなんだ。まだまだだね。僕の魔力操作も」
爆発したのは自分の魔力操作が甘いからだと言う風に玲於は話す。
「そうですか。……魔力操作が不十分な状態での神聖魔法は危険が伴うということですか」
佐奈は深刻な表情を浮かべて頷く。
「他の人に神聖魔法を教える時は、魔力の流し込み過ぎに注意するように言い聞かせましょう」
「うん」
玲於も深刻な表情を浮かべて同意した。
そこで、授業の終了を知らせるチャイムがなる。
「あ、これで授業は終わりですね」
佐奈は玲於の隣から、教卓の前に戻る。
「気をつけ、礼」
「「「ありがとうございました」」」
授業終了の挨拶をする。
佐奈が、教室から出ていき、休み時間となる。
「お前、すげぇな」
「びっくりしましたよぉ……」
「ちょっと、大丈夫なの!?」
「うん。大丈夫だよ。さすが聖女。やっぱ回復魔法の効果はすごいね」
「そう。良かった……」
葉月が安堵のため息を漏らす。
「ありがと。心配してくれて」
「なっ、別にそんなんじゃないんだから!」
葉月は頬を赤らめて、そっぽ向いた。
キーンコーンカーンコーン
「おーい、授業始めるから、席につけー」
授業の開始のチャイムがなると同時にいつもどおりの先生が教室に入ってくる。
「「「えー」」」
暁の光の授業だと思っていた生徒たちから不満の声が上がる。
「暁の光は少人数なんだぞ。毎回授業をやってくれるとは思うなよ。他のクラスでも授業しなきゃいけないんだからな。まぁ、安心しろ。全員に一回は授業を教えてもらえるからな。確かこのクラス、次は守護者様だったと思うぞ」
先生はそう話す。
次は守護者か。防御系スキルは余り持っていないから楽しみだと玲於は思う。
「ということで、授業やっていくぞー」
そして、いつもどおりのつまらない授業が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます