第16話
日本国未確認生物対策本部会議室
北海道での反乱のニュースが流れてから早3日会議室には錚々たる面々が集められていた。
総理大臣、安倍 新平
未確認生物対策大臣、影山 英二
暁の光【勇者】、本郷 学
暁の光【聖女】、斎藤 佐奈
暁の光【大賢者】、堀北 春木
暁の光【武王】、美濃 晃
暁の光【守護者】、天崎 桜
大日本鉄血団長【血鬼】、青山 悠真
大日本鉄血団【最後の頼みの綱】、或真
玲於の保護者、天華 奈弓
日本最強の冒険者パーティーである暁の光は九州に遠征していたところを招集され、奈弓と悠真は玲於によってつれてこられた。
ちなみに、玲於は或真として仮面をかぶり顔を隠して会議に参加している。
「諸君、すでに知っているとは思うが北海道で反乱が起きた。北海道では一部冒険者による独裁体制がしかれているとのことだ。そして彼らは大日本帝国と名乗っているそうだ」
円卓に座る面々を見渡し、総理大臣が口を開いた。
「あぁ、聞いているとも。それで私達暁の光はどうすればいい?」
「それは、これから話し合いで決めることだ」
「というかさ、そもそもなんでこいつがいるの?」
春木が悠真を睨む。
「こいつらは関東にこもっている引きこもりだぜ?こんなところに呼んでどうするんだよ。なんかよくわかんねぇガキと女もいるしよ」
「いやー、それな。なんでここに俺がいるんだ?」
睨まれる悠真も首をかしげる。
玲於に無理やり連れてこられた悠真もなぜ自分がここにいるのかわからなかった。
「あ、よくわからんガキとか言うなよ?こいつ俺より強いからよ。こいつの不興を買うと、あっさり殺されるかもしれねぇぞ?」
「僕を何だと思っているの?」
玲於はジト目で悠真を睨む。
「わりぃ、わりぃ」
「ちょっと待て!そのガキがお前以上だと!?」
悠真の実力をよく知っている春木が驚愕する。
「あぁ、俺がここにいるのもこいつに無理矢理引っ張って来られたからだからな」
「僕が悪いみたいに言わないでくれない?どうせ大日本鉄血団としても他人事じゃないでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「あ?引きこもりになんの関係があるんだ?」
「俺ら大日本鉄血団の中には政府を快く思っていないやつが多い。正直に言って大日本帝国側につこうと言うやつが現れてもおかしくない」
「ふん、リーダーはおめぇだろ。抑え込めや」
「はっ。わりぃが無理だ。大日本鉄血団の殆どの団員が大日本帝国につこうとするだろうよ?」
能天気に抑え込めだなんて言う春木を笑いとばす。
「なるほど、関東と北海道が大日本帝国に染まれば、東北地方は挟まれることになる。東北地方は容易く落ちるだろう。そして、東日本と西日本の内戦に発展する、か」
学が物知り顔で告げる。
「ん?多分もっとひどいことになるよ?」
だが、玲於はドヤ顔の学に告げる。
「もっとひどいこと?」
「やぁやぁ、玲於君は詳しいようではないか。ちょっと玲於君の話を聞こうではないか。あぁ後それと奈弓くんはうちのエースだからね。個々の仕事の殆どを彼女が管轄しているし、この会議も聞いてもらったほうがいいと私が判断したんだ」
胡散臭い笑みを浮かべた未確認生物対策大臣玲於の方を見て言った。
まるで、或真が玲於であるとわかっているように。
「んぅ」
すべてを見透かしてそうな未確認生物大臣にやりにくそうに玲於は仮面の下で顔を歪める。
「いや、詳しいも何も。ただただ現在の冒険者たちの不平不満はたまりにたまりまくっているだけだよ」
「な、私はそんなこと聞いたこともないのだが?」
冒険者の頂点に立っている学が驚愕と共に告げる。
「そりゃそうでしょ、冒険者の頂点であるあなたに愚痴る冒険者なんていないよ。僕もちょくちょく冒険者のギルドに顔を出すことがあるんだけど、割と不満たまっているって聞いたよ」
「え?」
玲於の言葉に驚きの声を上げた奈弓を玲於は睨む。
「なんで俺らが何もしてない奴らのことを守ってやらないといけないんだ、って」
「ひどい。何もしてないだなんて、彼らには彼らの仕事があり、職務を全うしているというのに。そんな彼らを守ることが私達の仕事だと言うのに」
フェーブのかかった長いゆるふわの黒髪のおっとりとした美人さん、佐奈が告げる。
「ははは、あなた達のような優秀な人達はそうなのかもしれないけど、普通の冒険者はそんな高貴な人たちじゃないよ。戦う理由は金であったり、復讐だったりが多いくて誰かを守ろうという人は少ないよ。誰か守る人がいる人達は命がけの仕事なんかしないよ。致死率は他の職業とは比べ物にならないからね。普通に安定した職業につき、裕福な暮らしをしているよ。だから、文句ばかり喚き散らし、助けてもらって当たり前だとか思っている人たちと、自分たちが失った守るべき人達がいる人達にいい思いを持っている冒険者っていうのは少ないんだよ」
「そ、そんな」
冒険者は高貴な人たちだと思っていたらしい佐奈がショックを受けた表情を思い浮かべる。
荒くれ者が多い冒険者のことを高貴だと本気で思っていたことに玲於は少なからず、というか結構驚きを覚える。
「ふむ。なるほど。それで、結局どうなるというのだ?」
「えーっとね。多分他の都市とかでも大日本帝国のように反乱が起きる可能性があるよ。最悪、ここ以外の都市全てで反乱が起きるかもね」
「な!」
ずっとポーカーフェイスを保っていた総理大臣や、未確認生物対策大臣も想像以上の可能性に表情を動かす。
「そ、そんなにか。他の人達はどう思っているのか?」
未確認生物大臣は動揺を隠しきれず他の人達に意見を求める。
「さすがに全ては言いすぎだが、玲於に同意だなぁ」
「……そんなことはないかと思うが」
悠真は同意し、学は否定する。
だが、今まで暁の光として絶対の王者かつ嫉妬さえも許さない絶対の英雄として君臨し続けた彼らは人の醜い部分にふれることのなかった。
それ故に否定する学の声は弱い。
「……私達がそんなの起こさせない」
今まで沈黙を保っていた桜が力強い声で告げる。
「そうだろうね」
そして、玲於はあっさりと頷く。
「君たちは強く、その権威は絶大だ」
「なら!」
「だから今、一番やってはいけないのが、北海道での反乱を鎮圧するために暁のメンバーを北海道に派遣することだよ」
玲於はそう断言する。
「青森あたりで要塞戦作って防衛して、北海道は一旦放置。他の街の治安維持をとかをしたほうが良い。暁の光の名前の威光は大きいから、暁の光がいるのに反乱を起こしてしまえば、あっさり鎮圧されてしまうのってのはわかっているし、起こそうとする人はいないと思うよ。現に反乱が起きたのは九州から離れた北海道なわけだし。当分遠征とか行かないで、治安維持に努めたほうが安全ではあると思うな」
玲於は自分の意見に絶対の自信持って告げる。
「なるほど」
総理大臣は考え込む。
「なるほどね。君たち二人が鎮圧に言ってもらうことは出来ないだろうかね?」
動揺から回復した笑顔で未確認生物対策大臣が玲於と悠真に告げる。
「「面倒だからやだ」」
二人は口を揃えて告げる。
「面倒だから!?」
二人の答えに暁の光の面々は驚く。
「いや、僕が戦う理由ないし」
「俺は関東開放以外に興味ないし」
二人はあっさりと答える。
「さすがにここが大日本帝国みたいな感じになるのは困るから、助言はしているけど、遠い北海道がどうなろうと知ったことではない」
玲於は力強く断言し、未だニコニコと笑顔を浮かべる未確認生物対策大臣をにらみつける。
「僕が言いたいことは終わりかな。先に帰らせてもらうよ」
玲於は厄介ごとを押しつけられるような自体になるより前に先に帰ろうと思い、席を立つ。
ここまで言えばもう十分であろう。
「ま、まっ」
「いや、いい」
玲於を止めようとした学の一声を総理大臣がさえぎる。
「彼の意見はとても参考になった。それだけで十分であろう。奈弓。お前が変わりに座りなさい」
ずっとほぼほぼ喋らず、空気を消し、隅に立っていた奈弓に視線を向け座るように命じた。
「え?」
玲於は奈弓の困惑する声をバックに、会議室を後にした。
■■■
「………」
玲於と葉月の二人しかいない家の中は怖いぐらい静かである。
玲於はソファでだらけ、ぼーっと虚空を眺め、葉月はスマホをいじりながら、ちらりちらりと玲於に視線を向ける。
「……ねぇ、今日の会議どうだったの?」
葉月が何度も口を開くか開かないかで悩みに悩み抜き、ようやくその重い口を開く。
「ん?思ってたより暁の光が無能だったね。力ある者は本気で弱い市民たちを守るためにあると信じている人たちだったよ」
「え?そうなの?」
葉月は最強であり、みんなの英雄である暁の光がそんな理想論を本気で信じているという事実に驚く。
葉月だってそんなの無理だとわかっているのに其れをわかっていない暁の光は何なんだろうか。
「ん。汚いところを知らない子供かな?」
中学生にすら見える小さな少年が20歳過ぎた大人を子供だと評する。
「結構ひどいこと言うわね。でも、力ある者が弱い市民が守るのは当然じゃないかしら?」
そんなふうにのたまった葉月を玲於は信じられれない者を見るような目で見る。
「あ、当然。そんなの理想論だってことはわかっているわよ?」
そんな目で見られることに不満に思った葉月がそう言う。
「はぁー。なんで強い人が弱い人を守ってあげないといけないのさ。結果はその人が努力してきたからあるんだよ?なんで頑張ってきた人たちが何もしない無能たちに上から目線で物を告げられ、強制されないといけないの?おかしくない?これさ。ほとんどの事柄にも言えるよね。例えば税金だって、金持ちの人達が自ら頑張って稼いだお金を貧しい人たちのために払ってあげているんだよ?それなのにお礼もせず、上から格差だ格差だ騒いでもっと払うように要求する。こんな恩知らず生きている意味ある?そんな奴ら奴隷のように働かせていればいいじゃん。まぁ、これは言いすぎだけどね」
玲於は苦笑を浮かべる。
「でもさ、頑張っている人だけが一方的に損して、無能共が得するのはどうなのかな?」
玲於はこてんと首をかしげる。
「……確かにそうね」
「でしょ?先生たちってさ。よく頑張っている人たちの足を引っ張るようなことしてはいけないって言っているじゃん?」
「うん。言ってるね」
「でもさ、あいつら生きているだけで頑張っている人の足を引っ張ってるんだよ?面白いよね」
玲於は楽しそうに笑う。
「確かに」
葉月も玲於と同じように笑う。
二人が先生の悪口で盛り上がっているところに、奈弓が帰ってくる。
「あんたたち、ひどい会話してるのね。しかも、知的なところが厄介ね」
話が聞こえてきていた奈弓はそう言いながら、スーツ姿のままソファに倒れ込む。
「あぁ、疲れた」
「お疲れ様」
「元はと言えば私にすべてを押し付けたあなたが行けないんだからね?」
ジト目で逃げ帰った玲於を睨む。
「それが奈弓の仕事でしょ。結局どうなったの?」
「大体あなたの話していたとおりになったわよ。暁の光は治安維持のためにしばらくはここに滞在。北海道は津軽海峡に要塞戦を建てることに決定したわ。悠真が譲歩してくれたおかげで、関東、東北の治安維持は受け持ってくれたわ。そうそう、暁の光を完全に遊ばせておくのは勿体ないということで、剣魔学園の臨時講師として派遣されることに決まったわね」
「え?本当!」
最強の暁の光が剣魔学園に派遣されると聞いて、葉月のテンションが上がる。
さっき少し暁の光の評価が下がったことなど忘れてしまった。
玲於も自分の思い通りにことが進んで内心ほくそ笑む。
これで北海道の安全は保たれ、九州の情勢は悪化し、暁の光の技術を学ぶことができる。
「あ!お姉ちゃん。私、ミノタウロス倒したよ!」
3日間ずっと家に帰って来なかった奈弓にようやく葉月がミノタウロスのことを報告する。
「え?えぇぇぇぇええええええええええええ!」
奈弓が驚愕し、大きな声で叫んだ。
あの後、葉月に事情を長い時間かけて、説明し理解してもらった。
その後、奈弓と葉月のお姉ちゃんの遺影を前に号泣し、夜ご飯を玲於が作っても食べず、せっかく作ったご飯が残り、二人の泣き声のせいで眠ることさえ出来ないという玲於にとって最悪の出来事とかす。
奈弓は一応先生としての立場があるんだから勝手なことをした僕たちを叱らないといけないと思うんだけど?
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