第14話
「まぁ、とりあえずは授業だ。今日は確か実習の時間だったろ?」
「実習って?」
「ん?あぁー、まぁ自学のようなもんだ。魔法の試し打ちしたり、模擬戦したり、生徒たちが好きに自分のしたいことをするんだよ」
「へぇー」
■■■
「行くぞ。玲於」
「うん。来て、隼人」
二人はにらみ合い、隼人は銃を構え、玲於は刀に手を置き、抜刀術の構えに入る。
「抜刀術、一閃」
玲於は地を蹴り、スキル『縮地』を用いて、一瞬で距離を詰め、一閃。
「ふっ!」
それを隼人はギリギリのところで回避し、銃を発砲。
玲於は迫りくる弾丸をすべて刀で弾く。
「うそだろ!?」
隼人は慌てて距離を取り、銃を乱射するも、すべてが弾かれる。
「くそ!」
銃での攻撃は諦め、魔法を用いて戦うことにする。
「土よ」
隼人が詠唱を唱え、魔法を発動させる。
地面から土で出来た数多の手が現れ、玲於を襲う。
「おぉ」
第四階位の魔法の詠唱を省略して、使った隼人に歓声の声が上がる。
しかし、その魔法はすべて簡単に玲於に切り落とされる。
「マジかよ。火よ。風よ。雷よ!」
隼人も次々と魔法を放つが、すべて玲於に切り落とされる。
「祖よ、悪魔よ、我に力を」
「くそが!」
隼人は玲於が詠唱を始めたのを見て、悪態をつき、慌てて銃を乱射し、玲於の詠唱を止めようとする。
もう魔力の温存と考えずに、魔力を豊潤に流しこんだ特殊な弾丸を撃つ。
「これ、死ぬくない?」
玲於は隼人の弾丸を見て、ポツリとつぶやく。
玲於の言う通り、隼人の撃った弾丸は決して人に向けて撃って良いものではない。
冒険者はステータスが高いく、回復魔法によってすぐに回復できるが、其れにだって限度がある。
隼人が撃った相手が玲於ではなかったら、その相手は死んでしまっただろう。
まぁ、玲於はあっさりと回避するのだが。
「『雷檻』」
そうこうしている間に玲於の魔法が完成する。
雷の檻が隼人を閉じ込めるように展開され、逃げられなくする。
「はい、終わり」
逃げられなくなった隼人に玲於が刀を突きつけて、この戦いは終わった。
「はー、強すぎ」
隼人は地面にへたり込む。
「おぉー!すげーな。おい」
二人の模擬戦を見ていた他の生徒が歓声を上げ、二人の元に駆け寄ってくる。
二人は実習の授業の一環で模擬戦をしていたのだ。
一年生の中では学園最強と言われる隼人とその隼人が自分より強いと認めた玲於の模擬戦の注目度は高く、殆どの生徒が二人の模擬戦を観戦していた。
「お疲れさまですぅ。これ、タオルとドリンクですぅ」
伊織が玲於に駆け寄り、タオルと飲み物を渡す。
「ありがとうね」
玲於は笑顔を浮かべ、伊織から受け取る。
「いえいえ、こんなのお安い御用デスク」
「おい、俺の分はねぇのか?」
伊織からもらえなかった隼人が不満げな声を上げる。
「あぁ。そうでしたぁ。どうぞですぅ」
伊織は隼人に向けて適当にタオルと飲み物を投げる。
「うおっ。玲於との扱いの差よ」
隼人は不服そうにしながらも大人しく飲み物に口をつける。
玲於は飲み物に口をつけたりはしないのだが。
「違うわ。ここはこうするのよ。見てなさい」
玲於と隼人の二人が模擬戦していたところから少し離れたところに目を向けると、二人の模擬戦を観戦している場合ではない成績下位者たちのことの面倒を葉月が見ていた。
「葉月。ヒステリックに叫ぶだけじゃなかったんだな」
その様子を見ていた玲於が感心したように告げる。
「お前。葉月のことを何だと……まぁしょうがないか」
結構ひどいこと言う玲於に苦言を呈そうとしたが、今までの葉月の言動を思い返し、妥当な評価と思い返す。
「魔物のことになると周りに見えなくなるけど、それ以外は基本的に厳しいけど他人思いのいい子なんだぜ?」
「へぇー」
玲於は少し感心したように告げる。
厳しいけど他人に優しいそんなところも加恋そっくりだ。
まぁ、加恋はあんなに厳しくないが。
「聞こえてるんですけど」
話し声が聞こえていた葉月が不満げに文句を言う。
「文句を言うなよ。褒めてんだから」
「うるさいわね。私は玲於に言ってんのよ」
葉月は玲於を思いっきりにらみつける。
「お、お詫びとしてこっちを手伝いなさいよ」
葉月はそっぽ向きながら玲於に告げる。
「うん、わかった」
玲於は葉月の方に向かう。
その後二人は喧嘩しながら(主に葉月が玲於を叩く)教えていった。
「ぎりぎり」
■■■
今日の学園に授業は終わり、玲於たちはダンジョンに来ていた。
「本当に玲於はなんでもありだな……」
ダンジョンの近くには多くの警備員がいたが、玲於の魔法により簡単に侵入することに成功した。
「ふふふ、当たり前だよ。じゃあ、ミノタウロス退治と行こうか」
玲於は誰にも気付かれないように魔法を発動させる。
「そうだな。ミノタウロス相手に撤退戦した玲於絡見てミノタウロスはどんな感じだ?」
隼人にそう聞かれ、玲於はなんて答えるか悩む。
ミノタウロスを倒したことになっていないため、自分がどういうふうに戦ったのかわからないで、どう答えれば良いのかわからない。
ガッツリ戦っていて、色々情報を持っているのか、それとも軽くひと当たりしただけで、そんなに情報を持っていないのか。
どっちかわからない。
まぁ、いいか。
どうせ、情報はたくさん合ったほうが安全だろう。
「ミノタウロスは完全脳筋タイプだから、デバフかけまくって近距離で翻弄しまくればなんとかなると思うよ。でも、再生スキルを持っているから、長期戦になると思うよ。あと、ミノタウロスが持っているハルバードは気をつけたほうが良いと思うよ」
「そうか。デバフなら伊織行けるな?」
「うん。任せてくださぁい」
伊織が力強く頷く。
「来た……」
玲於が美濃太郎の魔力を感じ、ボソリとつぶやく。
その一言を聞くやいなや全員に緊張が走る。
「ぐぉぉぉぉおおおおおお!」
ダンジョンの角からミノタウロスが曲がってきた。
「伊織!デバフを!葉月は先走るなよ!」
隼人が指示を出していく。
伊織は自分の固有スキル『呪術』を使って、ミノタウロスのステータスを下げる。
葉月も怒りに任せて飛び出しそうになるのを抑える。
「抜刀術、一閃」
その隣の玲於が真っ先に突っ込む。
「僕に続いて」
玲於の一閃はミノタウロスが持っていたハルバードを真っ二つにする。
そのまま玲於はミノタウロスの拳と刀を交える。
「ふっ」
玲於は強引にミノタウロスの懐に入り、胴元を切り裂き、懐に隠し持っていた短剣でミノタウロスの片目を潰す。
が、ミノタウロスが強引に振り回した腕にぶつかり、吹き飛ばされる。
「やぁ!」
玲於とすれ違いで飛び込んだ葉月がミノタウロスに斬りかかる。
伊織も葉月に続く形でミノタウロスに近づき、足に向けてメイスを振った。
足を攻撃されたミノタウロスの動きが目に見えて悪くなる。
隼人は、銃で残った片目を狙撃し、そして再生する目を狙い撃ちし、視界をもとに戻させない。
すぐさま復帰した玲於はミノタウロスの動きを封じるように刀を振る。
「はぁ!」
そして、葉月が豪快な一振りをミノタウロスにお見舞いする。
目を潰され、足を潰され、動きも制限され、葉月に強力な一撃をお見舞いされる形となったミノタウロスになすすべはなく、ただ翻弄され続けた。
「ぐぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」
ただ、ミノタウロスはこのまま終わるようなやわな魔物ではない。咆哮を一つ。強大な魔物から放たれる咆哮は玲於たちの動きを止めるのには十分であった。
ミノタウロスは伊織を蹴り飛ばし、葉月を殴り飛ばす。
そして残ったもう一つの目を魔力で覆い保護する。
そして、最初の一閃を警戒してか玲於の動きに注目する。
もう、ミノタウロスに与えたダメージは回復していた。
「うぅぅ」
「伊織!」
隼人は吹き飛ばされた伊織に意識を飛ばす。
葉月はすぐに回復し、立ち上がったが、蹴り飛ばされた伊織は倒れ伏したままだった。
「ちょ、危ない」
「はっ!」
意識を別のところに飛ばした隼人はミノタウロスの全力の突進に反応が遅れ、吹き飛ばされる。
「がはっ」
「ふっ」
追撃をさせないように玲於は距離を詰め、両足を斬りつける。
傷は一瞬で再生されるが、足止めには成功する。
ミノタウロスは隼人への追撃を諦め、玲於と葉月の方に意識を向ける。
「葉月、やれる?」
「当たり前よ。私をなめないで頂戴」
葉月と玲於は共にミノタウロスに斬りかかる。
葉月を支える形で玲於が刀を振る。抜群の連携でミノタウロスとも互角に戦った。
「葉月、仕掛ける」
ある程度削り、再生に必要な魔力の総量が減ってきたことを確認した玲於は葉月に仕掛けることを告げ、ミノタウロスに突っ込む。
「悪魔よ」
玲於は魔法を唱え、ミノタウロスの顔面に雷撃をお見舞いする。
もろに魔法を喰らい仰け反ったミノタウロス相手に容赦なく斬撃を浴びせていく。
再生速度が落ちたことを確認すると、玲於は両手両足を斬り飛ばす。
「すごい」
玲於の怒涛のラッシュに葉月は感嘆の声を漏らす。
「オラァ!」
玲於はミノタウロスの巨体を葉月の方に向けて蹴り飛ばす。
「任せて!」
こっちの方に飛んできたミノタウロスに向けて剣を構える。
だが、次の瞬間ミノタウロスの両手両足が一瞬で再生し、葉月に向けて大きな両手を伸ばした。
再生すると思っていなかった葉月は驚き、体をこわばらせる。
葉月に向けてミノタウロスの大きな両手が迫る。
「なっ!」
しかし、次の瞬間。
ミノタウロスが滑り、転ぶ。
「今!」
チャンスは今しかないと思った葉月は剣をミノタウロスの首めがけて力いっぱい振り下ろした。
そして、首を切り落とされたミノタウロスは光となってこの世から消えた。
「ふぅー」
「はぁはぁ、やったんだ。私は」
ミノタウロスの討伐。
それを成し遂げた葉月はへたり込んだ。。
■■■
東北地方 旧青森
「……見つけた」
一人の少年が無様に逃げるミノタウロスの首を簡単に斬り飛ばす。
切りつけた断面を焼く黒炎はミノタウロスの再生を許さない。
しばらくすると、ミノタウロスは光となって消え、そこに魔石だけが残された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます