第11話
「なんか、人増えすぎじゃね?」
休憩中、ポツリと隼人がつぶやく。
「別に気にする必要もないでしょ?別に僕たちの邪魔にならないだろうし」
「それ、お前が言う……?」
たくさんの女子に囲まれ、楽しそうに話していた玲於が笑いながら告げる。
玲於たちが休憩していると、続々と後続の生徒たちが玲於たちのそばを通った。
彼らはまず、床いっぱいに落ちている夥しい量の魔石に度肝を抜かす。
そして玲於たちから事情を聞き、この先何があるがわからなく、俺らだけじゃ怖いから玲於たちと一緒に行動するわ。と言って玲於たちと行動を共にすることを決めた。
そんなこんなで人が増えていき、今ではクラス全員が集まっていた。
誰も引き返そうとする人はいなかった。試験は重要なのだ。
「ねぇ、玲於君は戦えるの?固有スキル『器用貧乏』なんでしょう?」
「へっ!戦えるわけ無いだろう。そんなスキルで。雑魚が」
「はぁ?そんなひどいこと言う必要ないじゃない!」
だが、休憩中のクラスの雰囲気は最悪だった。
女子に囲まれる玲於に男子は悪態をつき、女子が玲於をかばう。
ずっとギスギスしている。
なんで、女子に好かれて嫉妬する彼らが女子から嫌われるような行動を取るのか。隼人には到底理解できなかった。
「安心してよ。これでも僕は強いほうなんだよ?」
そんな中、雰囲気など一切気にしていない玲於はいつもどおり話す。
「ほんとう?」
「へっ。女子の前だからって強がりやがって」
「は?」
「いや、玲於は強いぞ。多分俺よりも強いんじゃないか?」
「え?」
そう話した隼人の発言に全員が驚く。
「……悔しいけどそうわね」
「え?」
しかもあの葉月が認め、更に驚く。
葉月の負けず嫌いは有名であり、葉月が同年代が相手で自分より強いと認めた人は誰もいなかった。
それだけ、玲於が見せた魔法のインパクトが強かったのだろう。
「伊織、そろそろ平気そう?」
だが、玲於は一切周りを気にせず、ゆっくりとお茶を飲んでいる伊織に聞く。
「え?あ、はい。大丈夫ですぅ」
「そか、じゃあそろそろ行こ?」
「やっとね!」
玲於の発言を聞いて、葉月が元気よく立ち上がる。
「ん。じゃあ、行くか。全員ついてくるんだよな?」
隼人も立ち上がり、体を伸ばす。
「あぁ、当たり前だよ!」
剣魔学園の伝統あるダンジョン攻略試験(第二回)で前代未聞のクラス全員によるダンジョン攻略が始まった。
とはいっても、現れる魔物は全員一撃で隼人が撃ち抜いているので、隼人以外何もしていない。
前のようにアホみたいな量の魔物が現れるということもなく、全員は簡単に3階層に降りることができた。
「ん?」
3階層に降りたとき、今までとは違う魔力を感じ、玲於は首をかしげる。
あぁ、この魔力は。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
隼人に聞かれた玲於はごまかした。
「なんだ?」
それからしばらく歩き続けたのだが、玲於たちは一回も魔物たちに出会うことなかった。
「そうね。ここまで魔物がいないなんて、もしかして2階層に全員集まっていたのかしら?」
「いや、どうだろうか?あくまであそこにいたのは二階層の魔物だった。3階層の魔物なんていなかったが」
隼人は不思議そうに告げる。
「……来た」
困惑する他の人たちを尻目に玲於はぼそりとつぶやく。
「ぐあぁぁぁぁぁああああああああ!」
曲がり角からのっそりと姿を現した巨大な化け物。
人の体に牛の頭を持った怪物。その大きな手に握られている巨大なハルバードが鈍い光を放つ。
現在政府によって確認されている未確認政府の中でも上位に位置するミノタウロスがそこにいた。
「う、うわぁぁぁあああああ!」
生徒の一部が逃げ出し、別の生徒はミノタウロスの恐ろしさに失禁し、その場に座り込む。
「臭い」
玲於は容赦なく失禁したやつらの首根っこを掴み、後方に投げる。
そして、おしっこを魔法で洗い流す。
「伊織!みんなが逃げるのをサポートしろ!」
隼人はミノタウロスが現れると同時に拳銃をガンホルダーから抜き、拳銃をぶっ放し、伊織に向けて叫ぶ
「は、はい!」
伊織は、隼人の支持に従い、走っていく。
「いや、隼人も手伝ってあげて?伊織だけじゃきついだろうし。あれの足止めなら僕でもできるから」
「な。そんなことは!」
逃げるように言われた隼人は玲於を睨む。
「隼人じゃ無理だよ。その拳銃じゃ太刀打ちできないよね」
「くっ」
実際にミノタウロスに向けて撃った銃弾がミノタウロスの皮膚に弾かれた隼人は口惜しそうに歯ぎしりする。
「大丈夫。僕なら。足止めは得意。それと葉月は……葉月?
葉月の方を見ると、葉月は剣を握り、体をふるわせていた。
なにか嫌な気配を感じる。
「あぁぁぁああああああ!」
そして、絶叫しながらミノタウロスに切りかかっていった。
「ばかやろう!」
葉月の無謀さに隼人が絶叫する。
「あれはもう無理だね。葉月が暴走しているうちに早く逃げよ?」
玲於は冷静にそう告げる。
「なっ!馬鹿なことを言うな!そしたら、葉月は!」
「無理だね。だからこそ、早くみんなを逃がすの。できるだけ救ったほうが得でしょ?」
「そ、そんなこと」
表情をピクリとも動かさず告げた玲於に恐怖を感じる。
本当に、葉月を見逃せと。
「どうせ、君が行っても無駄。はやくみんなを逃がすべき」
二人がそんな事を話している間に、葉月はミノタウロスに吹き飛ばされる。
「あぁ!」
隼人は悲鳴を上げ、そして玲於は固まる。
玲於の目に映る葉月の姿が、『彼女の』姿に重なる。
絶望を宿した瞳が、玲於を捉えた。
「抜刀術、一閃」
今まさに葉月にとどめを刺すため、振り下ろしいたミノタウロスのハルバードを取手から斬り飛ばす。
「希望は絶望の中でこそ輝く。だから、そこで見てて。僕が今度こそ救うから。だから……、だから……」
玲於は無意識のうちにそう葉月に話しかける。
「え?玲於?」
葉月は呆然とした様子で玲於の姿を見つめ、ついさっきまで玲於の隣に立っていた隼人は呆然とつぶやく。
「隼人。さっさと伊織のフォローに行ってあげて」
「ぐぉぉぉぉおおおおおおお!」
隼人にそう言い、自分に向けられたミノタウロスの右腕の手刀を切り落とす。
「わかった。そっちは任せた!」
その様子を見ていた隼人はミノタウロスを玲於に任せ、自分は伊織の方に向かっていった。
「ぐぉぉぉぉおおおおおおお!」
切り落としたミノタウロスの右腕がいとも簡単に再生した。
「再生スキル、面倒な」
その様子を見ていた玲於は嫌そうにつぶやく。
「ぐぉぉぉぉおおおおおおお!」
再生さればかりの右腕から繰り出されるミノタウロスの一撃を一瞬で背後に回ることで避ける。
「刀剣術、百花」
そして、無数の斬撃がミノタウロスを切り裂いていく。
スキル『疾駆』『空歩』を用いて動き回り、ミノタウロスを翻弄しながら、次々と切り裂いていく。
その様子は妖精みたいでとても美しく、ミノタウロスの鮮血が玲於を美しく染め上げる。
スキル『再生』は万能ではない。
使い続ければ体力を浪費し、いづれスキル『再生』は使えなくなる。
それを知っている玲於はさくさくとミノタウロスを切り裂いていく。
「ぐぉぉぉぉぉおおおおおおお!」
ミノタウロスは荒れ狂い、暴れるが玲於に攻撃が当たることはない。
「祖よ、悪魔よ、我に力を」
魔力が玲於を包み、身体を大幅に上昇させる。
それにより玲於のスピードも力も飛躍的に伸び、更にミノタウロスを追い詰めていく。
「ぐぉ、おおおお」
数分もすればミノタウロスの動きは鈍り、再生しけれない小さな傷が増えていく。
「ん?」
もう少しでミノタウロスを倒しきれるというところでミノタウロスから膨大な魔力が溢れ出してくる。
「ぐぉぉぉぉぉおおおおおおお!」
そして、膨大な魔力がミノタウロスを覆う。
ミノタウロスの傷が一瞬で治り、玲於にも反応出来ない速度で動き、玲於を弾き飛ばした。
「かはっ。ッ!……そういうことか!」
玲於は急いでスキル『空歩』を使い、宙に逃げる。
だが、
「がぁぁぁぁぁあああああああ!」
ミノタウロスの咆哮により吹き飛ばされあっさりと地面に叩き落とされた。
「ちっ」
「ぐぉぉぉぉぉおおおおおおお!」
ミノタウロスは玲於に容赦なく追撃を加えていく。
「祖よ!悪魔よ!我が身を守りたまえ!」
玲於は急いで自分の身を守るための結界を張る。
そして、虚空から拳銃を抜き、撃ちまくり足止めする。
その間に魔武術を用いて、真紅の雷撃を纏う。
「おぉ!偉大なる悪魔よ。我が願いは届きけり」
玲於の魔力が膨れ上がっていく。
「ぐぉぉぉぉぉおおおおおおお!」
魔武術のおかけで飛躍的に速度が上昇していた玲於はミノタウロスの攻撃をなんとかさばいけるようになる。
そして、玲於の魔力が十分な量貯まり、玲於は一旦ミノタウロスから距離を取る。
そして、玲於は刀を鞘に収める。
「抜刀術、雷火一閃」
玲於は紅き閃光と化す。
玲於の膨大な魔力が込められた必殺の斬撃はミノタウロスの首を跳ね飛ばした。
その後、ミノタウロスが再生することはなく、光の粒子となって消えていった。
その場にはひび割れたミノタウロスの魔石が残った。
「ん、大丈夫?葉月?」
ミノタウロスと戦っている間、魂が抜けたように玲於のことを見つめていた葉月に手を伸ばす。
「え、あ、うん」
葉月はその手を握り、立ちあがる。
「それならよかった」
玲於は葉月ににこやかに笑いかけた。
その笑顔でようやく再起動した葉月は慌てて、握っていた玲於の手を話し、顔を真っ赤に染めあげた。
「あ、あ、わ、私は別にあなたに助けてほしいって言ったわけじゃないし!わ、私ひとりでもなんとかできたんだから!よ、余計なことしないでよね!」
あ、やった。
葉月が心の中でそうつぶやく。命の恩人に対して今の言葉はないだろう。自分で自分を嫌悪し、泣きそうになる。
玲於に嫌われたらどうしよう。
「そ」
そんな大荒れ状態の葉月に対して興味も抱かず、玲於はそっけなく答え、ダンジョンの先を睨む。
「ねぇ、葉月。先に上に戻っといてくれる?」
「え?」
玲於の突然発言に葉月は戸惑う。
「僕はもう少し進んでみる。だから、先に帰って」
「な!そんなこと!玲於を一人になんてできないよ!私も行くわ!」
玲於を心配する葉月が叫ぶ。
「足手まといだから。来ないで、迷惑」
だがしかし、そんな葉月に玲於は冷たく答える。
「なっ!」
玲於にはっきりと迷惑と言われた葉月はショックを受ける。
「な、何があっても私は知らないんだからね!」
涙目の状態で、精一杯玲於を睨む。
だが、玲於は葉月の方を向いておらず、そんな葉月の様子はわからない。
「別に葉月に心配してもらおうなんて思っていないから」
「もう玲於なんて知らないんだからー!」
葉月は走り去っていってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます