第10話

 

 「それじゃ僕も連れて行ってよ」

 

 雨が地面を打ち付ける中、男女が二人、線路の上を歩いた。

 「ねぇ、玲於」

 「ん?何?加恋」

 玲於は『彼女』、加恋に話しかけられ、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 「後ろうるさいね」

 「そうだね」

 後ろでは迫りくる『 』の怒号を聞きながら、二人は楽しそうに笑い合う。

 ふと、君はナイフを手に取る。

 そして、君は一人傘から抜け出す。

 君を雨が容赦なく打ち付ける。

 「私がここまでこれたのは君のおかげ。君のおかげでここまで来れた。だから、もう良いの。もう良いんだよ」

 あぁ、なぜだろうか。

 心臓がバクバクとうるさい。あぁ、本当にうるさい。

 「私はもう十分。私の死に泣き叫んでくれる君がいるから。君がいるだけで十分なんだ。私は幸せを見つけた。だから

 君はこの世のすべてを魅了する笑顔を浮かべた。

 

 「死ぬのは私だけでいいよ」

 

 そして、君は首を切る。

 君から真っ赤な血が吹き出し、世界を染め上げる。

 あぁ、なんと、なんと。

 美しいのだ。

 

 気がつけば僕は後ろから迫っていた『 』に取り押さえられて、

 傘が宙に舞い、そして横たわった君を覆い隠した。

 

 世界はいつもと何もかわらず回っている。

 なのに君が僕の隣にいなくて、

 君だけがどこにもいなくて、

 僕は笑った。

 

 

 ピピピピ…

 煩わしいアラームの音が鳴り響く。

 「なんで、今更」

 久しぶりの光景。

 久しぶりの彼女。

 見たことない夢に僕は困惑し、体を置きあげる。

 その際に、ポツリと一滴の水滴が布団の上に落ちる。

 「え?」

 僕の頬をなにか熱いものが流れていた。

 

 ■■■

 

 「じゃあ、事前に連絡していたようにダンジョン攻略試験を行っていくぞー。じゃあ、まずは今から4人グループ作れー」

 先生が学園内にあるダンジョンの前で告げる。

 生徒たちはいつもの制服姿ではなく、各々の戦闘衣装を着ていた。

 そんな中、いつもの制服に刀を差しただけの玲於の姿は奇怪に写った。

 「4人グループだってよ。玲於一緒に組もうぜ」

 黒い外套を羽織り、腰に2つの拳銃をさした隼人が玲於に話しかける。

 「うん、いいよ」

 「わ、私もいいですか?」

 「ふん!」

 「当然」

 それに伊織と葉月の二人も加わる。

 これで4人だ。

 「では、お前たちにはこれからダンジョンに入り、3階層にあるメダルを取ってきてもらう。制限時間は3時間だ。だが、これだけは注意してほしい。各々安全に取り組み、決して無理はしないように。たとえ何があったとしても自己責任故に。では、ダンジョン攻略試験。開始!」

 全員が急いでダンジョンに向かっていく。

 「これって試験だったんだね」

 ダンジョン攻略を行うということは知っていたが、それが試験だということを知らなかった玲於がつぶやく。

 「ん?あぁ、そうだよ」

 「初めて知った。転校二日目で試験とかひどくない?」

 「確かにいきなり試験はきついなw」

 みんなが事前に準備してきた試験を突然転校二日目でやれと言われるのは酷だろう。

 「まぁ、でもこれはダンジョン攻略授業を行う前に全員の現在の実力を知るためのものだからね。あまり気にする必要はないと思うぞ。その後挽回すればいいだけだ」

 「うーん。そうだといいんだけど。まぁ、平気でしょ?いつでも頼っていいんでしょ?」

 玲於が少しいたずらっぽく微笑む。

 「お、そうだな。俺に任せておけよ」

 みんなが慌てている中、玲於と隼人が呑気に会話する。

 「ちょっと、何してんのよ!早く行くわよ!」

 「そ、そうですよ。時間内にメダルを取ってこなくちゃいけないんですから」

 伊織と葉月の二人は呑気に会話している二人を急かす。

 「いや、慌てる必要はねぇよ」

 「え?」

 「あんだけ人がいるんだ。少し後に行けば、大体の魔物は狩られ、楽に下に行けれはずだ」

 「あ、そうか」

 隼人の説明に納得したように頷く。

 「そういえば、まだ玲於は俺らの固有スキル知らないよな?」

 「あ、そうだね」

 「じゃあ、俺らの固有スキル教えていくよ。俺の固有スキルは『魔弾』魔力によって弾丸を作り出すんだ。これのおかげで俺は銃が使えるんだぜ?」

 「私の固有スキルは『呪術』ですぅ。相手のステータスを下げたりできるんですよぉ」

 へぇーそれは便利。玲於は伊織のスキルに感心する。

 「えー、なんで私がこいつに固有スキルを教えてあげないといけないのよ」

 心底嫌そうに顔をしかめる。

 「えっとですねぇ。葉月ちゃんの固有スキルは『永久』ですぅ」

 「ちょっと」

 話そうとしない葉月の代わりに伊織が話す。

 「体力とか魔力とか、永久に続くからずっと戦い続けられるんですぅ」

 「え」

 玲於は葉月の固有スキルの恐ろしさに体を震わせる。

 魔力が減らないって無限ってこと?えぐ。

 玲於も、そして悪魔にとっても自身の魔力量は死活問題だ。

 扱うのが困難な魔法になってくれば、どれだけ魔力を込めたかがその魔法の威力に繋がる。

 魔力無限とか最強なのでは?と、一人驚愕する。

 「そろそろ頃合いか?」

 固有スキルについて話していると、そこそこの時間が立っていた。

 もう周りには誰もいなくなっていて、先生に怪しむような視線を向けられていた。

 そんな中、四人はダンジョン内に入った。

 「……なるほど。そういう」

 「ん?なんか言ったか?」

 ダンジョンに入るとボソリとつぶやいた玲於のつぶやきを隼人が拾う。

 「あ、なんでもない」

 玲於は自分のつぶやきをごまかし、歩きだす。

 玲於たちは他の生徒達が戦うなか、それを横目に悠々と進んでいく。

 「……魔物と戦う授業なのに戦えてないわ」

 葉月がつまらなそうにつぶやく。

 魔物と戦いたい葉月からしてみれば物足りないだろう。

 「いいだろ。どうせこれから戦うことに嫌でもなるのだから」

 隼人は葉月のつぶやきにも律儀に返す。

 「別にいいでしょ?どうせ戦うことになるんだし」

 玲於はつまらなそうに言う。

 「だよな。おら」

 隼人は玲於の言葉に同意しながら、襲いかかってきた魔物を撃ち抜いた。

 「だが、そんなに戦いたいたいなら先を急ぐか」

 隼人はそう言い、歩く速度を早める。

 「いいわね!」

 他の3人も隼人に続いていく。

 玲於たち4人は大した苦労もすることなく、2階層に降りていった。

 

 ■■■

 

 「玲於!援護する」

 隼人はたくさんの魔物に囲めれる玲於にそう声をかける。

 「いや!僕は良い!それよりも伊織の手助けを!」

 二階層に降り、だんだん同級生の数も減っていき、玲於たちも戦う事になっていった。

 だがしかし、玲於たちの予想を遥かに超えるほどの魔物たちが玲於たちを襲った。

 「ご、ごめん」

 四人の中で最も弱かった伊織は魔物たち相手に手こずっていた。

 「気にするな」

 隼人は玲於に言われ、初めて苦心していた伊織に気づき、隼人は伊織の手助けを行う。

 必死に周りの魔物たちに向けて自身の獲物であるメイスを振り回す。

 隼人は自分の周りの魔物を撃ち殺しながら、伊織の援護射撃を行う。

 葉月も必死に自身の獲物である剣を振り回す。

 葉月は必死であり、周りが見えていないようだった。

 顔色一つ変えることなく周りの魔物を切り裂きながら、玲於は周りを冷静に観察する。

 隼人や葉月はまだマシだが、伊織がきつそうだ。これ以上の戦いはもう無理かな?)

 「抜刀術、一閃」

 死角から伊織のことを襲おうとしていた魔物を一瞬で切り落とす。

 「危ないよ」

 「あ、ありがとうございますぅ」

 「ほい」

 そして、そのまま周りの魔物を次々と切り落としていく。

 「魔法使いたいから、僕を守って」

 玲於はそれだけ言うと、血糊を払い、刀を鞘に収める。

 「任せろ」

 「わかりましたぁ。『呪術』束縛」

 伊織は固有スキル『呪術』を使い、魔物の動きを遅くする。

 そして、動きが遅くなった魔物を隼人が次々と撃ち抜いていく。

 「あぁ大いなる悪魔よ、我に力を」

 玲於の周りに圧倒的な魔力が集まっていく。

 「くっ」

 だが、その間にも魔物は大量に押し寄せ、二人で抑えきれるのが大変になってくる。

 「あぁ、偉大なる大いなる魔よ!悪魔よ!大いなる御身に逆らう愚か者に鉄槌を!『雷帝の一撃』」

 ぴかりと光り、轟音とともに雷が落ちる。

 玲於が放った雷撃の魔法は、隼人たちに影響はなく魔物たちのみを一気に削った。

 「ふぅー」

 「「「すご……」」」

 玲於のはなった魔法の威力に葉月も剣を振る手を止めて、呆然と呟く。

 「手を止めないでくれる?まだ終わってないよ」

 玲於は再度刀を抜き、残った敵を切り倒していく。

 「あぁ、そうだな」

 他の三人も玲於に続いて、敵を倒していく。

 大量の魔物が玲於の魔法によって倒されたため、その後は確実に魔物を倒していった。

 「ふぅー、予想以上に敵が多かったな」

 「そうね」

 「はぁ、はぁ」

 「……これ以上はきつくないかな?地上の方に戻るのも検討したほうが」

 「はぁ!?何言っているの!」

 伊織の状態を見た玲於の発言に葉月が食って掛かる。

 「ここで逃げるとか!」

 だが、それは葉月の逆鱗に触れたようだ。

 この人の逆鱗はいったいいくつあるのだろうか?

 「いや、この魔物の量は普通におかしいし。この先想定外のことが起こっても不思議じゃない」

 「だとしても、ここで逃げるのはいけないわ!これは試験でもあるのよ!」

 「だが、伊織がこれ以上の戦闘に耐えられるとは思わない」

 「そうだな。たしかに俺もそう思う」

 「え……」

 倒れ伏し、息を荒らげる伊織を見て葉月は何も言えなくなる。

 というか、どうやら葉月は周りが見えなくなるタイプのようで初めて息も耐え耐えになっていた伊織に気づいたようだった。

 「……たしかにそうね」

 「はぁ、はぁ、ちょっと待てくださぁい」

 葉月が撤退に納得したところで伊織が待ったを入れる。

 「はぁ、私は、足手まといに、なりたくはないですぅ」

 「精神論じゃどうしうもないよ?」

 玲於は無慈悲に告げる。

 「それでも、私のせいでみんなの試験に影響を及ぼすわけにはいきません」

 「はぁー、そうか。じゃあ、せめて休憩は取ろう」

 「それがいいわ」

 強情な伊織に玲於が折れ、玲於の提案に他の二人も同意する。

 「……ありがとうございますぅ。私のせいでごめんなさぁい」

 「謝る必要はないよ。ちゃんと仕事はしたし。伊織の呪術のおかげで魔物の力も弱くなって、楽に戦えたわけだし。それに、伊織の呪術がなければ、僕の魔法も唱えられなかっただろうからね。負い目を感じる必要はないよ」

 「……ありがとうございますぅ」

 伊織は玲於に深々とお辞儀した。

 

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