第7話


 「日本は立て直したって聞いていたけど、割とボロボロ何だね」

 空から日本を眺めてつぶやく。

 下では街が破壊され、魔物たちが徘徊している。

 人間が暮らしいる様子もぽつぽつと見られたが、それも小規模なものだった。

 「そうね。でも、これでもまだ立て直したほうなのよ?」

 「え?これで?」

 玲於は困惑の声を上げる。

 「ええ」

 「ふーん、それで、向きはこっちであっている?」

 玲於はもう人間の営みに興味を失い、向きの確認を行う。

 「うん、あっているわ」

 「ん」

 

 「近づいてきたかな?」

 「そうね」

 だんだん見える人の数が増えていき、キレイな建物が増えていく。

 「あ、だんだん近づいてきたから降りてもらっていいかしら?流石に空を飛んだまま近づくのはまずいわ」

 「わかった」

 奈弓を脇に抱えた玲於は人が少なそうなところに降り立った。

 「とりあえず、車を用意させるわ」

 「……わかった」

 玲於は少し不満そうだが素直に了承する。

 「ありがと」

 奈弓はスマホを取り出し、自分の部下に連絡を入れた。

 

 「奈弓先輩」

 しばらく待っているとスーツをぴしりと着こなした若い男が車に乗ってやってくる。

 「ごめんね。車が途中で故障してしまって」

 「全然いいですよ。それで、この子が?」

 若い男は玲於に視線を向ける。

 「えぇ、そうよ」

 「どうもはじめまして。皐月 玲於です。よろしくおねがいします」

 「ッ!えぇ、こちらこそ。わたしは天野 和也です」

 行儀よく頭を下げた玲於に少し驚く。

 勧誘された若い少年は基本的に傲慢な子が多いのだ。

 「では、どうぞ」

 「ありがと」

 和也がドアを開け、奈弓と玲於が車内に入った。

 

 車はしばらく進み、大きなビルの駐車場に入る。

 「こっちよ」

 「ん」

 奈弓は車から降りる。

 それに続く形で玲於も車が降りる。

 「では、いってらっしゃい」

 和也はひと声かけ、車を発射させた。

 「ここが、未確認対策生物対策庁よ。さぁ、行くわよ」

 玲於は奈弓に連れられて、未確認生物対策庁を進んでいく。

 「まずは大臣との面会よ。だから、私達は応接室にむかうことになるわ」

 奈弓はそう話し、玲於を応接室に案内する。

 さすが政府なだけはあり、応接室はとてもきれいな部屋である。

 その後、奈弓は大臣を呼んでくると言い、部屋を出ていく。

 奈弓と入れ替わりで入ってきたスーツを来た秘書っぽい人から、お茶と洋菓子をもらう。

 だが、それを口にすることはしない。

 しばらく待っていると、奈弓と一緒にスーツを着こなしたおっさんが入ってくる。

 ……着こなしてはいないかもしれない。

 スーツをはち切らんばかりに存在感を主張するお腹!

 見事なまでのバーコードハゲ!

 加齢臭が漂ってきそうなその肉体!

 そう。彼こそがThe冴えないおっさん!

 だが、そんな冴えないその瞳に宿る力強さだけは本物である。

 その強さは玲於が出会ったことないものだった。

 玲於も心を引き締める。

 「やぁやぁ、はじめまして。私が未確認生物対策大臣の影山 英二だ」

 「はじめまして。僕は皐月 玲於です」

 二人はにこやかに挨拶を交わす。

 「君が大日本鉄血団の『血鬼』に期待されている子かね?」

 「ん。どういう報告を奈弓がしたのかはしらないけど、悠真とは中がいいよ」

 「なるほどね」

 悠真と『血鬼』を下の名前で呼び捨てにするほど深い関係だと。

 未確認生物大臣は満足そうに頷く。

 「はは、そうか。君の実力は素人の私にはわからんが凄まじいものなのだろうな。だが、世論とかいう私にとっての最強の未確認生物が日本にはおってな。悪いのだがまずは学園に入ってもらうことになる。それでも許してくれるかね?」

 ジョークも交えながら、未確認生物対策大臣は告げる。

 「はい。いいですよ。元々学園にいくことになることは奈弓に聞いていましたので。たくさん学ばせてもらいますよ。そうするように悠真からも言われているので」

 「ははは、そう行ってもらえると実に助かるよ。剣魔学園は世界最高峰の学園だ。たくさん学んでくれたまえ」

 「ええ、存分に学ばせてもらいたいです」

 「そうか。ところでだ。最近私は忙しくてね。久しく前線の方の生の話を聞いていないのだよ。久しぶりに聞きたいのだが、聞かせてもらえることはできないだろうか?」

 「ひどいですね?僕の中ではトラウマに等しい記憶なのに、それを思い出せと言うのですが?」

 おどけた笑顔を浮かべながら、拒否する。

 「おやおや。これは失礼なことを。申し訳ない。紳士としてあるまじき行為をしてしまった」

 未確認生物大臣は頭を下げる。

 「……ッ!」

 大臣が頭を下げたことに奈弓は驚く。

 「いえいえ、全然構いませんよ。ところでその下は三枚舌ではないですか?」

 だが、玲於はそんなことを気にもせず、ちくりと嫌味をぶつける。

 「はっはっは。よくぞ御存知で。実はうちの嫁の料理はまずくての。三枚くらい下がないと耐えきれないのだよ」

 「おやおや、それはそれは。では、大臣の家内に出会ったら料理について語り合うことにするとしましょう。大臣の先程の話も含めて」

 「それはやめていただきたいですな」

 二人はにこやかに会話を続ける。

 「ところで今晩はどこで寝泊まりを?よろしければ私たちが手配しましょうか?」

 「いえ、その必要はございません。奈弓の家に泊めてもらいますので」

 玲於はにこやかに断る。

 「え?」

 奈弓は困惑の声を上げる。

 「おやおや、そうでしたか。これはおせっかいでしたな。奈弓。任せたぞ」

 「え?」

 奈弓は困惑の声を上げる。

 「ちょ!私の家に泊まるとか聞いていないんだけど!」

 「うん、言ってないからね」

 大臣と秘書っぽい人が退室し、応接室に残ったのは玲於と奈弓の二人だけだ。

 「えー。ちょ、勝手な!」

 「別にいいでしょ?僕の家に泊めてあげたんだし、これくらい」

 「ん。いやぁ、でも私に家に妹が」

 それを言われると奈弓は弱い。

 実際に一ヶ月も泊めてもらい、たくさん迷惑もかけたのだから。

 「そんなの知らない」

 「なんでよ!というか、政府が泊まるとこ用意してくれるって言っていたじゃんか!そこにお世話になってよ!」

 「嫌だ。何が仕掛けれているかわかったもんじゃない。向こうにとって僕は大切な情報源だからね。別に用意されてた部屋に盗聴器くらいあっても何ら不思議はない。まぁ、杞憂かもしれないけど、ああいう人を警戒しとくぶんには損ないと思う」

 「え?盗聴!?え?じゃあ、もしかしてここも!?」

 盗聴という玲於の言葉に驚く。

 「そうかもね。まぁ、盗聴器を阻害する魔法も一応使ってはいるけど、実際防げるこどうかはわかんないかな。まぁ、だから早くここからおさらばしたいんだけど」

 「そ、そうね。早く行こう」

 奈弓は慌てて外に向かう。

 上司が盗聴しているかも知れないと言われて何も疑わず、急いで出ていくのはいかがなものか。

 その様子を見ていた玲於は軽くため息を付いてから、奈弓の後を追った。

 

 未確認生物対策庁から、暫く進むと、そこそこ大きな2階建ての一軒家にたどり着く。

 「私の家はここよ」

 「はえー」

 「ここで私と妹の二人が住んでいるわ。今、私の妹は学園に行っているはずね。ちなみにだけど私の妹は剣魔学園に通っているのよ」

 「ふーん」

 玲於は心底どうでも良さそうにつぶやく。

 「少しくらい興味を持っても良くない?同い年だから、同じクラスになるかもよ?」

 「ふーん。どうでもいい」

 「はぁー、ならいいわ。ほら、上がって」

 興味なさげな玲於の態度に奈弓がため息をつく。

 「ん。ありがと」

 玲於は奈弓の家に上がる。

 家は可愛いい小物類が置いてあり、いい雰囲気の内装となっていた。

 玲於の家とは違い、テレビなども当然置いてある。

 「ほら、玲於はここで寝泊まりして」

 奈弓は玲於を空き部屋に案内する。

 「政府からもらった家なんだけど、二人で住むには広くてね。いくつか部屋が余っているのよ。あ、政府からもらった家ではあるけど、盗聴器などはないから安心してね」

 「ん」

 なぜ断言できるのだろうか、と玲於は首をかしげる。

 「とりあえず、買い物に行きましょうか。家具を揃えないとね」

 玲於がここに住むのに必要な家具を揃えるため、買い物に行こうと提案する。

 「ん?問題ないよ」

 しかし、玲於は首を傾げ、なんにもないところからベッドを取り出し、部屋に置いていく。

 そして、布団や枕を取り出し、セットする。

 「え?なにそれ」

 「ん?魔法」

 「……魔法って便利なのね」

 魔法ってこんなに何でも出来たっけ?……できるのかな?まぁ、そうなんだろう。

 奈弓はもう何も考えないことにした。

 「……え?それだけ?」

 ベッド類を置いた後、何も取り出さない玲於を見て疑念の声を上げる。

 「うん、別にベッドさえアレばいい」

 「えぇ。……せめて椅子と机は必要でしょ。買いに行かないといけないわね」

 「え?別にいらないよ?」

 「何行っているの?玲於がこれから行くのは学園なのよ。机と椅子もないで、どうやって勉強するのよ」

 「え」

 奈弓のその一言に玲於は凍りついた。

 「べん、きょう?」

 「当たり前じゃない。あなたは学園に行くのよ?そりゃ当然勉強が必要になるに決まっているじゃない」

 「……ほんと?」

 玲於はすがるように奈弓に聞く。

 「えぇ、本当」

 現実は厳しかった。

 「僕、知識5年生で止まっているんだけど」

 「5、5年生?そんなに低いの?」

 奈弓は首をかしげる。

 魔物のせいで学校にいけなくなり、勉強できない子はいるのだが。玲於の年齢で5年生とはどういうことだろうか。

 5年生なら、魔物が現れる前から学校にいけてないではないか。

 「まぁね。5年生の途中で家を飛び出したから」

 「そ、そうなのか」

 これには余り触れないほうがいいと判断した奈弓は深く突っ込まず、流すことにする。

 「流石にそれはまずいわね。ねぇ、未確認生物が現れてからの基礎知識も持っていないのか?」

 「基礎的なものなら、知ってるよ」

 「そう。それならよかったわ。とりあえず、リビングで勉強しましょう」

 奈弓の勉強しようという発言に玲於は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 「不服そうにしないの。学園に行くのなら絶対に必要なことだから」

 「……わかった」

 玲於は大人しく奈弓と一緒に勉強を初めた。

 

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