第6話
「あれ?まだみんな帰ってきてないの?」
本部に戻ってきた玲於はまだ誰もいないことに驚く。
「あら?玲於くんだけ?」
本部の入り口の前で必ず毎日夜遅くまで団員の帰りを待っている受付のお姉さんが玲於に気づき、声をかける。
「いや、先にみんなに帰ってもらったんだけど……」
「あら?そうなの?まだ誰も帰ってきてないけど。まぁ、とりあえず中で待ちましょうか」
「うん、そうしよ!」
玲於はお姉さんと一緒に本部の中に入っていった。
本部の中の応接室に向かい、そこで玲於はお姉さんと一緒にお茶を飲む。
お姉さんが入れてくれる抹茶も応接室に常備されている和菓子、蔵出し芋もとても美味しい。
「それで、今日は何があったの?」
「いやー、中級悪魔に襲われてね?」
まるでおつかいに行ったよぐらいの軽さで中級悪魔のことを語る。
玲於がいなければ大日本鉄血団が滅んでもおかしくない相手だと言うのに。
「あら、そうだったの。大変だったわね」
しかし、お姉さんは特に慌てた様子もなく、あっさりと頷く。
「ほんと、大変だったよ?雲の下で鬼ごっこすることになったし」
悲しいくらい何事もなかったのように二人は穏やかな時間を過ごす。
「本当に帰ってこなくない?」
「ね〜」
あれから3時間。
もうすでに日が暮れていた。
それでも、悠真たちは帰ってこなかった。
「あ、来た」
玲於はこちらに近づいてくる魔力を感じ、そう告げる。
「あら?ほんとに?じゃあ、私はみんなの分のお茶を入れてくるわね。大会議室に集まるように言って置いて頂戴」
この狭い応接室では全員入ることは出来ないと判断したお姉さんは玲於にそうお願いする。
「うん」
お姉さんはお茶を入れに、応接室から出ていった。
玲於もみんなを迎えるために応接室から出て、玄関に向かう。
「あれ?なんか多くない?」
だが、感じた魔力量が今日の朝よりも増えていて首をかしげる。
死んだ人もいるし、減るならまだしても増えるとは一体どういうことだろうか?
玲於は不思議に思いながら玄関に向かう。
「多くない?」
そして、玄関にいた悠真たちの多さに首を傾げる。
今日一日くらいは気絶しているかなって思っていた悠真が立っていることにも驚きだが、それ以上になんか人の数も1.5倍くらいになっていることに驚く
「遅くない?みんな。なんで増えてるの?」
「な!玲於!」
「むぅ」
玲於の姿を見た悠真は驚き、玲於の名前を叫ぶ。
なお、玲於は自分の質問を無視されてご立腹である。
「な、なんで、お前?死んだんじゃ……」
「勝手に殺さないで欲しいんだけど。僕が死ぬわけ無いじゃん」
不満そうに玲於は頬をふくらませたまま告げる。
「それで、なんで人が増えているの?」
「いや、人揃えて中級悪魔に対抗しようと……」
「足手まといを増やす……?」
玲於が首をかしげる。
「って!そうだ!中級悪魔!あいつは!あいつはどうなったんだ!」
と、ここで悠真が思い出したかのように叫ぶ。
「あぁ、もう大丈夫だよ」
「だ、大丈夫?倒したってのか?」
「いや?そんなん無理だよ。でも悪魔への対処法があるからね。僕しか使えないけど」
「そうか、お前しか使えないのか」
悠真は玲於のその発言に納得する。
雲の下を生き延びた玲於ならではの方法があるのだろう。
「ん。あ、お姉さんが大会議でお茶入れて待っているよ」
「何!?お姉さんが待っているだと!急ぐぞ!」
お姉さんの名前を聞いた悠真は慌てて、大会議室に向かう。
玲於の言った対処法が何なのかわからず、不安に思っていた
他の団員たちも慌てて大会議室に向かう。
「え?何?」
そして、お姉さんが誰かわからない奈弓は一人置いてきぼりになった。
「ほら、行くよ」
一人呆然と立っていた奈弓の手を引っ張り、大会議室に向かった。
「あ、あぁ。手をつないだままじゃなくても大丈夫だぞ?」
「うるさい」
奈弓の発言を切り捨て、玲於は手をつないだまま進んだ。
■■■
「玲於君。蔵焼き芋いる?」
「いる」
玲於はお姉さんからまた蔵焼き芋をもらい、美味しそうに口に頬張る。
そして、ぐおおおおおおおおおお!とか叫びながら自転車を漕ぐむさ苦しいおっさんたちを見て、ため息をつく。
悠真は勝手に団員を動員したことをお姉さんに怒られ、電気代の節約のために発電させられていた。
そして、連帯責任として団員全員が自転車を漕がされていた。
大日本鉄血団の財政は結構きっつきっつなのだ。
「なに、これ」
実は大日本鉄血団ではお姉さんからの命令で団員たちが自転車を漕がされているのはそこまで珍しいものではないが初めて見る奈弓は目を丸くしている。
「ねぇ、奈弓」
「え、ん?何?」
「僕が政府の方に行ったらどうなる?」
「え?」
玲於の突然の質問に奈弓は一瞬固まる。
だが、すぐに再起動し、説明を始める。
「……え、あ、えーと、だな。まずは、未確認生物対策大臣と面会することになると思う。大日本鉄血団と交流があるからそれはまず確定だろう。政府は君にかなりの期待を寄せいているんだ」
ちなみに、玲於が大日本鉄血団の団長よりも強いということは報告していない。
大日本鉄血団の団長から期待されているとしか上に報告していないのだ。悠真の検閲が厳しくて。
「大臣と、か」
「あぁ。後、玲於って何歳だっけ?」
「16歳だけど」
「16歳か、……なら、多分学園に行くことになると思う」
「学園?」
「あぁ。剣魔学園に行くことになると思う」
剣魔学園。
調子に乗った若者が未確認生物と戦い亡くなってしまうことが社会問題となってしまい、日本政府は急遽冒険者を育成するための学園を作ることを決定した。
その学園の中でも最高位に位置するのが剣魔学園なのだ。
魔法も利用され、急速に建てられた学園は日本最大の大きさを持つ冒険者育成のための学園だ。
「学園。学園か……」
玲於は沈黙する。
「というか、いきなりどうしたんだ?」
悩む玲於に奈弓はそう聞く。
今までそんな素振りを見せていなかったから、ふしぎにおもったのだ。
「ん?あぁ、魔武術あったじゃん?あれのおかげで僕が知らない面白い技術が色々あるんだって知って、それを学びたくて。奈弓じゃちょっと力不足かな?悠真が次に僕の家に来たときに悠真に報告してから行こうかなって思ってたんだ」
「ひっど!私これでも学園の准教師なんですけど!」
奈弓じゃ力不足というところに反応し、不満の声を上げる。
「え?じゃあ、そこに行く価値ないじゃん」
「ちょっとまって!あくまで私は准教師。よわいわ!私より強い人たくさんいるよ?勇者とかもたまにくるよ!」
「必死やな」
「当たり前じゃない!あなたが味方になってくれれば魔物たちを!」
というか、ここまで長い間玲於に付き合ったのだ。出来れば一緒に来てほしい。本当に政府は人手不足なのだ。
「あぁ、そういえば復讐的なことを言ってたね」
初めてあったとき、主人公みたいな熱いことを言っていたことを玲於は思い出す。
というか、未確認生物のこと普通に魔物って呼ぶんだ、と玲於は思う。
政府の人間くらいは未確認生物呼のかと思っていたのだが。
冒険者たちはみんな魔物って言っているのだが、政府まだ名前を決めておらず、未確認生物のままなのである。
未確認生物の名前を決定のために時間を割けるほど暇ではないのだ。
「的なこと!?そんなどうでもいい的な感じで扱わないで!?」
適当な扱いに奈弓は不満の声を上げる。
「いやー、復讐とか考えたことなしね。自分から最も遠い位置に存在するから忘れてた」
「……復讐を考えないか。……それはいいことだね。本当に」
奈弓が悲しげな顔でそう漏らす。
「何、シリアスみたいなこと言っているの?ギャグ要員でしょ?」
だが、奈弓にシリアスなど似合わないと言わんばかりに玲於が雰囲気をぶち壊しに行く。
「ギャグ要員だったの!?私!?知らなかったよ!?」
ギャグ要員というひどい扱いに奈弓が絶叫する。
「多分そうじゃない?しらんけど」
「……適当ね」
「別に奈弓のこととか適当でいいでしょ?」
「ひどい」
奈弓は自分のあまりの扱いの酷さに涙する。
「ということで、お姉さん。僕、ここ離れることにするね」
玲於は涙を流す奈弓を視線を外し、お姉さんに視線を移す。
「「え?」」
二人の女性の声が重なった。
「お姉さんならまだしも、なんで奈弓まで驚いてるの?」
「いや、ほんとに来てくれるとは思っていなくて」
呆れる玲於に奈弓は言い訳を口にする。
「ちょっとまって!本当に行っちゃうの!」
「待て!お前が行くのはまずい!お前が持っている情報が流出すると!」
お姉さんは慌てて立ち上がり、悠真も自転車を漕ぐ足は止めずにこちらに顔を向けて叫ぶ。
「安心してよ。余計なことは言わないから」
「……それなら。いやだがなー、玲於は万が一のときのために」
「僕を便利屋扱いしないで?」
玲於は不満げに口をとがらす。
「えーでも玲於君がいなくなると色々困るのよね。今回のように中級悪魔とかが現れたりしたらどうしようもないっていうか」
「……ん。なんで僕が大日本鉄血団の事を気にしないといけないの?」
「あ……」
若干殺気も含めた玲於の一言にお姉さんは二の句が告げられなくなる。
「まぁ、お世話にもなったからね。はい」
玲於はお姉さんに結晶を5つ渡す。
「これを割ってくれれば、僕に連絡くるようになっているから。こっちに来てあげるよ」
「本当?」
「うん。だから何の心配もいらないね」
「そうね」
玲於の発言にお姉さんは残念そうに頷く。
「あんたたち!3時間延長ね!」
そして、悠真たちに八つ当たりする。
「ひぇぇぇえええ!」
悠真たちは絶望の声を上げた。
「それで、奈弓。早く行こ?」
悠真たちの絶叫など気にせず、玲於は奈弓に笑顔を向ける。
「え?今から行くの?」
あまりに急で奈弓は困惑の声を上げる。
「うん。思い立ったが吉日って言わなかったけ?」
「まぁ、言うけど。ちょっと待てよ。車とか用意してないんだけど」
「え?車?」
玲於は首をかしげる。
「何を言っているの?飛んでいくんだよ?」
「え?」
今度は奈弓が首をかしげた。
まだ、席に座ったままの奈弓を立たせ、そのまま脇に抱える。
「え?」
「じゃあね。バイバイ」
奈弓を抱えた玲於は大日本鉄血団の外に向かう。
「確か、京都ってこっちだよね?」
「え?」
玲於は浮かび上がり、空を駆け抜けた。
「きゃああああああああああああ!」
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