第5話
「ねぇ、ここ臭くて嫌だからさっさと下級悪魔を倒してきちゃっていい?」
驚く奈弓を無視して、玲於は悠真に聞く。
悪魔は階級によって別れている。
知能がない最下級の悪魔、最低限の知能は持っている下級悪魔、人と同じ位の知能を持っている中級悪魔、人知を超えた知能を持つ上級悪魔、上級悪魔とは一線を画す貴族位を持つ悪魔。
今、戦っている悪魔は最下級の悪魔である。
知能を持っていない最下級の悪魔はあたりを徘徊し、目についた動いているものしか攻撃しない最下級悪魔たちは雲の下から出てくることはない。
だが、知能がある下級悪魔に操られ、最下級悪魔たちは雲の下から出てくることがある。
だからこそ、下級悪魔を倒せば、必然的に最下級悪魔たちが突っ込んでくることはなくなり、大人しく雲の下に帰る。
「おう。むしろこっちから土下座で頼むぜ」
「ん。じゃあ今度ヘドロの中で土下座して」
「いや、それはちょっと」
「使えない」
「あ、わ、私もついていっていいか!」
「ん、無理。だって飛べないでしょ?」
玲於はそう言うと宙に浮かぶ。
そのまま、奈弓のことを無視して、玲於は高速で飛んでいった。
「ん?なんか、多くない?」
「人間ガ……空ヲ?」
それからしばらく空を飛んでいた玲於は見えてきた悪魔の大群に首をかしげる。
そして、下級悪魔も初めて見る空を飛ぶ人間を前に首を傾げる。
いつも、下級悪魔は最下級悪魔たちを自分の周りを守らせている。そこは目の前の悪魔も変わらない。
しかし、今回の場合は最下級悪魔の数が多すぎた。
「まぁ、いいか」
だが、すぐにどうでもいいことかと切り捨てる。
「どうせ一瞬だし」
「抜刀術、雷火一閃」
スキル『縮地』も利用した玲於の抜刀術は紅き閃光となり、空を走る。
「ア?」
一瞬で下級悪魔との距離を詰めた玲於の刀はあっさりと下級悪魔を切り裂いた。
「ぎゃあああああ!」
自分たちのトップであった下級悪魔の死すら認識できない最下級悪魔は群がって玲於を襲う。
「ほいさ」
一瞬のうちで近くにいたすべての最下級悪魔どもを切り捨てる。
「はい、おしまい」
刀を振り、血糊を払ったあと、刀を鞘に収める。
「ん?」
しかし、終わったと同時に膨れ上がった膨大な魔力に首をかしげる。
魔力が感じた方向にあるのは奈弓たちがいる塹壕だった。
「ん。よかった。わざわざ遠回りしないですむ」
玲於は塹壕の方へと引き返した。
「かごめ かごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だぁれ」
楽しそうに歌を歌いながら。
「へぇー、わざわざこんなところに中級悪魔が」
玲於は興味深そうに言う。
塹壕だったところでは限りなく人間に近い姿をした中級悪魔が暴れていた。
塹壕は吹き飛び、辺りには死体が転がっている。あと、重要なのが神聖水もなんかあとかたもなくなくなってること。当然匂いも。うん。最高。
「んしょ。悪魔よ、某に力を」
腰に差している拳銃を抜き、構える。
そして、魔力をうんしょとたくさん込めて込めて込めまくる。
「世界よ、歪め」
玲於の持つ拳銃が放たれた弾丸は自由気ままに暴れまわる中級悪魔を撃ち抜く。
だが、その弾丸は中級悪魔の身を守る結界に弾かれる。
「むぅ、足りないか」
「んあ?人間が空を?」
弾丸を打たれた中級悪魔は空を自由に飛ぶ玲於を見つけ首をかしげる。
中級悪魔は空を飛ぶ人間を見るのは初めてだった。
「みんなが驚くけど、そんなに驚くことかな?」
「「玲於!」」
大日本鉄血団のみんなを少しでも守るために戦っていた悠真と奈弓が声を上げる。
「支援はお願いね、抜刀術、雷火一閃」
玲於は二人に向けて一方的に告げ、刀を構え、一気に肉薄する。
下級悪魔を叩き切った一閃をいともたやすく中級悪魔にかわされる。
「ほう、なかなかやるではないか人間のくせにしては。はっはっは」
中級悪魔は玲於を馬鹿にするように笑い、拳を向ける。
「うるさいよ」
玲於はアホみたいな速度で、威力で放ってくる中級悪魔の拳をすべていなしていく。
だが、中級悪魔の攻撃をいなすので精一杯で、反撃する余裕がない。
玲於は中級悪魔から逃れるため宙に浮かぶ。
追いかけるため中級悪魔も宙に浮かぶ。
戦いは地上戦から空中戦に移る。
悠真と奈弓は手助けしたくても、空を飛べない二人は手助けできない。
というか、そもそも玲於と中級悪魔戦いが超次元すぎて手出し出来ない。
だがしかし、それでも悠真は大剣を握る。
「ッ!」
中級悪魔の攻撃を今まで躱し続けていた玲於だったが、とうとう躱し続ける事ができなくなり攻撃をもろに食らった玲於は地面に叩きつけられる。
「これで終わりですね!よく頑張ったほうですよ」
中級悪魔が玲於にとどめを刺すために地上に降り立つ。
「おらよ!」
だが、そのタイミングを狙った悠真の渾身の一撃が中級悪魔の身を守る結界を破壊する。
「十分!」
そのタイミングで玲於が銃の引き金を引く。
魔力がアホみたいに込められた弾丸が中級悪魔に迫る。
中級悪魔は慌てて身をそらすも、躱しきれず右腕が吹き飛ばされる。
「ッ!人間ガァ!」
中級悪魔は激高し、悠真を突き飛ばし、玲於を手刀で貫こうとする。
しかし、突きつけられた手刀を玲於は刀で斬り落とす。
「ッ!」
「ほいさ!」
そして、流れるままに中級悪魔を玲於が蹴り飛ばす。
「ほい」
最後に魔法を使い雲の下に吹き飛ばす。
「さっさとこいつら撤退させてくれる?悠真ももう起きないと思うし」
呆然と座り込んでいた奈弓にそう声をかける。
「な!れ、玲於はどうするんだ!」
「ん?僕はこのままここであいつと遊んであげるよ?」
「む、無理だ。一人でなんて」
「いや、別にあんたたちいても何の役にも立たないし。唯一使えるかも知れない悠真は伸びてるし。僕は慣れてるから平気。ぶっちゃけ一人のほうが周り気にせずにすむからいいんだよね」
「私達は……足手まといか?」
「うん」
「……そうか、撤退するぞ」
玲於が来るまで中級悪魔と戦っていた奈弓は政府の人間なのにも関わらず、ある程度大日本鉄血団の団員から信頼を勝ち取ったのか、団員たちは大人しく奈弓の言うことを聞き、撤退していく。
まぁ、全員が玲於と奈弓の会話を聞いていたのもその理由の一つだとは思うが。
そして、その場に残されたのは玲於と団員たちの死体だけだった。
「人間!覚悟シロォ!」
怒りを顕にし、人間の姿を捨て去り、恐ろしい化け物と化した中級悪魔が玲於に突っ込んでくる。
「ったぁ」
そして、玲於は中級悪魔の右腕によって胸を貫かれた。
「ア?」
あまりにもあっけない幕切れに中級悪魔が疑問の声を上げる。
「あぁ、痛いんだけど」
「ア?」
そして、胸を貫かれても平然としている玲於に中級悪魔が疑問の声を上げる。
中級悪魔は胸を貫かれても平然としている人間を見たことがない。
「堕天回帰」
玲於がぼそっとつぶやき、世界が闇に包まれる。
玲於の背中から漆黒の翼が生え、中級悪魔を覆う。
「いただきます」
闇が中級悪魔を飲み込み、蝕む。
「ッ!」
中級悪魔が慌てて玲於から逃れようとするが、闇は離さない。
「爆ゼヨ!」
中級悪魔は自分自身を爆発させ、一時的に闇を吹き飛ばし、人間状態になり強引にその場から抜け出す。
「よく抜けたね」
抜け出してみせた中級悪魔に驚嘆の声を上げる。
「き、貴様。まさか、悪魔崇拝者か!」
「……僕その呼び名嫌いなんだけどなぁー」
玲於のその反応を見て中級悪魔は逃げ出す。
その反応は他の悪魔から聞いていた悪魔崇拝者そのものだった。
悪魔崇拝者には勝てない。勝てるわけがない。
なぜなら……なぜなら!彼は……悪魔崇拝者は!
「逃げないでよ。悪魔よ、某に力を。彼の者に終焉を」
大いなる闇に覆われた刀を振り下ろす。
「終断」
玲於から放たれた斬撃があっさりと中級悪魔を吹き飛ばした。
「ふぅ、まぁ中級悪魔ごときだと本気を出すまでもないね」
刀を鞘に収め、踵を返す。
「た、助けてく、れ」
しかし、死体だと思っていた団員の一人に足首を掴まれる。
「あ、生きてたんだ」
玲於は完全に死んでいたと思っていたので驚く。
「た、助け」
「嫌」
玲於は刀を抜き、首を切り飛ばす。
「うーん。やっぱきれい」
吹き出る真っ赤な血を見てうっとりとした声を上げる。
「まぁ、僕の奥の手的なのを見たやつを生かせておくわけないじゃないじゃん」
出来れば情報を見せたくないんだよねー、と人を殺したことなど何でもないかのように平然とつぶやく。
「ま、もう人的資源としては死んだも当然だったのでいいよね。他に生きている人いないよね?……念の為」
玲於は容赦なく他の死体を焼いていく。
「これで、よしっと」
玲於は満足そうに頷いたあと今度こそ大日本鉄血団の本部へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます