第3話
え?まじで?本当に?え?来てくれないの?
悲しそうに残念そうな悠真は玲於によって強引に家を追い出される。
家から追い出された悠真は泣きそうに顔を歪めていた。
奈弓も泣きたい。
「ど、どうして大日本鉄血団団長殿についていかなかったんですか?」
「面倒だからね。それに今は僕が戦う理由がないからね」
「じゃ、じゃあ何のために戦うの?玲於くん?は?」
「君付けじゃなくていいよ。僕が戦う理由は簡単。強くなるためだよ。誰も僕に勝てないようになるくらい。目標はたった一人で世界を相手取れるくらいにね」
にこにこと笑いながらさも当然のように告げる。
世界を一人で超えるという壮大な話を。
「……そんなこと可能なの?」
「ははは、さぁね?僕は世界を知らないから。無知は弱さだからね。情報網も作れるようにしないとねー。引きこもってばっかじゃ駄目だよね」
玲於は心底楽しそうに笑う。
「……なら、なぜ戦いに参加しなかったの?戦ってレベルを上げたほうがいいんじゃないか?」
「まぁね。でも、取り敢えずは僕が持ってるスキルの整理とか技術の向上とかをしたいしね」
「そうか。私はこのあたりの散策に行くことにするよ。ここらへんがどうなっているのか知りたいからね」
「ん。というか敬語外れてるね」
「あ、駄目だった?一緒に暮らすのにずっと敬語というのは辛くて。もういいかなって?」
「ん。全然いいよ」
笑顔で玲於は告げる。
個人が世界を超えるそんな夢物語を本気で語り、ずっと狂気的な笑みを浮かべる玲於の前に立っているのが耐えられなくなり、真弓は逃げることにした。
あぁ、私はここで暮らす事ができるのだろうか?
「あぁ、こんな私を家にいさせてくれてありがとう」
「ん?それくらい全然いいよ。気にしなくて」
「助かる」
真弓は玲於に礼を言い、家から出た。
■■■
「レベル、上がらないんだよね」
真弓さんとの会話を思い出し、一人ため息をつく。
「ステータス」
僕は自分のステータスを表示させる。
名前 皐月 玲於
年齢 16歳
種族 堕天使
レベル MAX
種族スキル『堕天回帰』
固有スキル『器用貧乏』
エクストラスキル『刀剣王』
スキル『総合格闘術』『観察眼』『鷹の目』『高速思考』『並列思考』『気配察知』『気配遮断』『魔力操作』『疾駆』『空歩』『縮地』『回避』『逃亡』『料理』『裁縫』『交渉術』『欺瞞』『精神誘導』
レベルはMAXとなり、これ以上成長することはない。
ちなみに、レベルが上がると攻撃力や防御力などの基礎ステータスが上がり、強くなる。
僕の肉体レベルはすでに完成してしまっているのだ。
スキルの数も増え、スキルによる強化はもうすでにかなり厳しいものがある。
よって現状僕にできるのは魔力による身体強化、魔法の腕を上げる必要がある。
悪魔たちのように。
きっと厳しいだろう。きっと困難だろう。きっと悪魔を超えるなど不可能だろう。
だからこそ、だからこそ、きっと楽しいものにだろう。
僕が退屈にあえぐことはないだろう。
僕は強くなる。
世界を一人で倒せるようになるレベルまで。
「すべては、民主主義の破壊のため」
■■■
「ただいま」
「あ、おかえり」
外に出ていった奈弓が帰ってくる
「夜ご飯がもう少しでできるから席に座っていて」
「あぁ、ごめん。遅くなって。手伝えればよかったんだけど」
現実逃避をしていていたらいつの間にか夜になってしまった真弓はキッチンに立つ玲於に礼を言う。
「別にいいよ。一人分だろうが二人分だろうがそんなに変わらないから。よしできた」
玲於は手際よく料理をテーブルに並べていく。
並べられた料理はどれも美味しそうであった。
「いただきます」
「召し上がれ」
「あ、美味しい」
「でしょ?料理のスキルを持ってるからね」
「え?スキル持ちだったの!?」
料理スキルは一流の料理人クラスでないと持っていないようなスキルだ。
それを大日本鉄血団団長よりも強い玲於が持っていることに驚きを隠せない。
どうやったら強くなりながら、料理の腕を鍛えるというのだ。
「まぁね」
二人は特に話すこともないので沈黙のままたんたんと食べ進めていく。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さつ様でした」
「あ、洗い物は私にやらせてくれ」
洗い物をするために皿を持ち席を立った玲於を止める。
「ん。じゃあ、任せた」
玲於の代わりに真弓が席を立ち、皿を持ってキッチンに向かう。
真弓が洗い物している間、玲於は椅子に座ってぼーっと座っている。
「きゃ!」
ぱりんという音が響く。
「え?」
「あぁ!ごめん!」
皿を落とし、割ってしまった奈弓がぺこぺこ玲於に頭を下げる。
「泊めてもらって、食事まで作ってもらって。何かしなくちゃって思って。その……!」
「まぁ、いいよ。別に気にしてないし」
玲於は魔法を使い、皿を浮かせゴミ箱に捨てる。
「全部取ったと思うけど、一応気をつけてね。後、残りの洗い物は僕がやるよ」
「ごめん!次は……次こそは!」
「ははは、お願いね」
次も失敗しそうだなー、と思いながら玲於は表面上は笑うことにした。
玲於は洗い物を早々に終わらせ、奈弓が座っている椅子の前に座る。
椅子に座り、ぼーっとしている玲於と奈弓の間を沈黙が流れる。
この家にあるものは本当に少ない。
この家にあるのはキッチン、ベッド、テーブル、椅子が2つしかない。
ソファも、テレビもないのだ。
できることが本当になにもない。
スマホは一応持ってきて入るが、ここで充電できるとは到底思えない。
しかたないので、奈弓は『魔武術』の修練を行うことにする。
『魔武術』は勇者が考案した戦闘技法である。
魔法と武術を合わせた戦闘術で、高い魔力操作と魔法技術が必要となる。
奈弓は、魔武術の形を作ることには成功しているのだが、いかんせん魔力操作が甘く、維持するのにも余分な魔力を使ってしまい、長時間の仕様が厳しい。
魔力操作の修練はできるだけ行うようにはしているのだが、いかんせんいつもの業務が忙しくサボリ気味になってしまう。
ここではやることがないので逆に好都合かと体内の魔力を練り上げる。
「ねぇ、何をやっているの?」
自分が知らない魔力操作を行っている奈弓に興味をいだいた玲於が問う。
「ん?えーと『魔武術』の修練だよ」
「『魔武術?』」
玲於は聞いたことない言葉に首を傾げる。
「えぇ、そうよ」
やけに『魔武術』に食いつく玲於に丁寧に教えていく。
「なるほど。……固定観念に囚われ過ぎだな。情けない
一度ため息を付いた玲於は真弓とともに『魔武術』の修練を行う
そして……
その一時間後には、真紅の雷を纏った玲於が立っていた。
「えー、嘘……」
「へぇ、結構いい感じ。……うーんこれは色々世界を見てまわったほうがいいかもしれないな」
真弓が一年以上修練してもなお完璧にできない『魔武術』をあっさりとマスターした玲於に開いた口が塞がらない。
魔力の流れは一切淀みなく、文句なしで完璧である。
「いや、私が弱いんじゃない。彼が強いの。そう。私の努力は無駄じゃない……」
大日本鉄血団団長より強かった玲於は魔力操作、魔法技術ともに卓越しており、自分とは基本的なスペックが違うと真弓は強引に自分を納得させる。
「あ、そうだ。ベッド一つしかないんだけど、一緒に寝る?」
「え?」
奈弓の口はまた開かれたのであった……。
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