第2話

 

 黒髪でショートヘアーの天華 奈弓はどの組織にも属さない未確認生物を狩る少年がいるとの情報を受け、上からの命令でその少年の元に向かっていた。

 ちなみに、奈弓の装甲(お胸)はささやかなサイズである。

 「ここですね」

 教えてもらった住所の小屋にたどり着く。

 そこは小さなこじんまりと小屋で、高い木々に囲まれた森の中である。

 「なんでこんなところに」

 見たこともない虫たちに怯え、いつ猛獣が襲いかかってるかわからず、ビクビクとしながらここまで森で迷いながらここまで来た奈弓はぶさくさと文句をボソボソとつぶやきながら玄関を探す。

「かごめ かごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だぁれ?」

 すると、小屋の庭でニコニコと笑いながら歌っている少年を見つけた。

 きれいな黒い髪に赤と青のオッドアイ。顔立ちは作り物のように整っていて、人間味がなく少しゾッとする。

 「ん?あれ?だぁれ?」

 奈弓に気づいた少年が小さな声でつぶやく。

 その小さな声は静かな森林によく響いた。

 「あ、はい!私は」

 完全に少年の雰囲気に気圧されていた奈弓はその少年の声にビクつき、慌てて口を開く。

 「あ、その前には家の中に入る?結構ここ寒いし」

 真弓の言葉を遮り、少年は立ち上がる。

 寒いならばなぜ庭にいるのだろうか?という疑問は口にしない。

 少年は立ち上がり、真弓を家の中に入れてくれる。

 「何にもない所だけど」

 「い、いえいえ、そんなことはありませんよ」

 奈弓のこの言葉はお世辞だ。

 本当に家の中は何もないところだった。生活に必要最低限のものしか置かれていなかった。

 小屋にはストーブも置かれていなく、部屋は冷え切っていて、奈弓の体を痛みつける。

 ぽつんと置かれたテーブルと二つの椅子に向かい、椅子に座る。

 「それで、何の用?できるだけ簡潔に」

 椅子に腰掛けた少年は首を傾げる。

 「わかりました。まず失礼ですが、未確認生物をフリーの冒険者で大量に狩っているとの情報を得ました。それは本当ですか?」

 「未確認生物?フリー?」

 少年は首をかしげる。

 「あぁ、すみません。フリーはなんのギルドにも入ってない人のことを言います。有名なギルドは暁の光や、大日本鉄血団などですね」

 「あぁ」

 「それで、未確認生物は市井では魔物と呼ばれているのですが、わかりますか?」

 「あぁ、うん。それならたしかにその情報は正しいね。僕は何のギルドにも所属してないし、ちょくちょく魔物は狩っているし」

 「本当ですか!」

 奈弓は頬を緩ませる。

 「それでは、私たちと共に化け物と戦ってはくれませんか?私達があなたのことを雇う形になるので当然、給与も出ますし、できるだけ要望も叶えたいと思います!」

 断られるとは思っていない奈弓の提案。だがしかし、

 「お断りします」

 少年は笑顔のまま断った。

 「な、なぜですか?」

 悩む素振りを見せることすらせずに断った少年に奈弓は疑問の声を上げる。

 「まず、初めに面倒。次にメリットを感じない。最後に戦う理由がない」

 少年は笑顔のままたんたんと理由を述べる。

 「戦う理由がない!?」

 奈弓はその一言を聞いて、激高し少年に掴みかかる。

 「化け物たちが!私達に何をしたか!一体どれだけの人が亡くなり、悲嘆に暮れたことか!」

 「それで?」

 胸ぐらを掴まれてもなお笑顔のまま少年は告げる。

 「け、喧嘩を売っているの!」

 「なんで?別に人が死ぬことくらい別に不思議なことじゃなくない?毎日どっかで理不尽にも命が奪われているよ?それにさ死んだほうが悪いんだよ?弱いから死ぬ。当たり前じゃない?」

 「そ、そ、それは、それは!私に、姉を化け物に殺された私に対して喧嘩を売っているのか!

「喧嘩?なんで?僕がお姉さんに喧嘩を売る理由なくない?わざわざ人が一人死んだくらいで」

 不思議そうに首を傾げた少年を見て、奈弓が背筋が凍る思いをする。

 少年は本心から言っているのだ。

 人が死んだくらいで騒ぐなと。

 狂っている。

 「そもそも喧嘩するって言ったって僕とお姉さんじゃ力の差がありすぎてまともに戦えないよ?」

 いつの間にか刀を右手に持っていた少年は楽しそうに笑う。

 少年から放たれる冷たい殺気が奈弓を蝕む。

 「ひっ」

 奈弓は体を震わし、少年の胸ぐらを掴んでいた手を無意識のうちに離す。

 「そんなに怯える?別に僕はお姉さんを殺す理由がないよ?」

 つまり殺す理由があれば殺すということである。

 「わ、私はこ、これにて失礼します」

 少年の恐怖にたえきれなくなった奈弓はここから逃げ帰ることを決める。

 上司には土下座して謝ることを決意する。この少年は自分にはハードルが高すぎる。

 「あ、ちょっと待って。まだ名前を聞いてなかった。名前、なんて言うんだっけ?」

 「え、あ、私は真弓。天華 真弓。よ、よろしく」

 声をかけられた奈弓はどもりながら答える。

 「天華 真弓って言うんだね。ふーん。僕の名前は皐月 玲於って言うんだ。覚えておいてよ。じゃあね」

 何事もなかったかのように少年、玲於は笑顔で手を降っている。

 奈弓が逃げるように玄関に向かう。

 だが、奈弓が玄関のドアを開ける前にドアが開かれる。

 「おや?この色っぽい姉ちゃんはなんだ?」

 ドアの前に立っていたのは大柄の男。

 服の上からでもよくわかる鍛えられた筋肉は頼もしい。

 大剣を背負うその男は歴戦の戦士というにふさわしい。

 え?帰れないの?奈弓は絶望する。

 「ん、彼女は天華 奈弓と言うみたいだよ。………どんな人なのかは、わからないよ?」

 「おいおい、どんな人かわかんねぇやつを家にいれんなよ」

 はぁーと大男は大きなため息をつく。

 「むぅ。別にヤバい人だったら殺すだけだよ」

 「そんな簡単に殺すとかいうなや」

 玲於の発言に大男は疲れたようにつぶやく。

 「というか、隼人。自己紹介しなくちゃいけないんだよ?」

 自己紹介忘れていた自分のことは棚に上げて、そう告げる。

 「おぉ、そうだった。忘れてた。俺は大日本鉄血団団長の青山 悠真や。よろしくな?」

 「な!大日本鉄血団の団長の方でしたか」

 全然話についていけなかった奈弓だったが、大日本鉄血団という関東最大のギルドの団長という存在に驚愕し、やっと我に返る。

 「失礼しました。私は日本国未確認生物対策本部所属の天華 奈弓と申します。この度は日本国未確認生物対策本部の人材不足の解消のためにこうして無所属の冒険者を勧誘しに来たのです」

 かつて、突如として関東の大部分が分厚い紫色が覆われ、一切の連絡が取れなくなった。

 それだけでも大事件だと言うのに日本各地で未確認生物が観測され、たくさんの人が襲われ、亡くなった。

 日本は混乱し、治安が悪化。犯罪の数が大幅に上昇した。

 たまたま「平和記念式典」のため広島に天皇並びに政府関係者が滞在していたため政府が機能したのは不幸中の幸いだった。

 京都を臨時の首都とし、治安の悪化に伴い急遽治安維持法を制定し、自衛隊及び警察が次々と暴漢たちを逮捕していった。

 そんな中、オタクたちによってステータスが発見され、スキルや、魔法のことについて知れ渡り、力を得たことにより急速に自体は解決に向かったいった。

 未確認生物たちにも対抗できるようになり、正義のために立ち上がった一般市民の活躍や、強盗に入ったら自宅警備員にフルボッコにされるなどのこともあって暴徒たちは徐々に減っていた。

 しかし、問題なのは世界各国だった。

 アメリカは壁を蹴り破るのが好きそうな大きなの巨人が暴れ、アメリカは事実上崩壊。

 崩壊したのはアメリカだけではない。中国では未確認生物に対して核を投下。中国の大地は炎に包まれる。しかし、未確認生物には核の炎は効果がなく、中国は自爆することになった。

 中東でも人間同士の争いが激化。世界はこの混沌に包まれている。

 しかも、アメリカなどの国のお偉いさんが日本に来日していたため、自体の収束は困難であり、飛行機に乗って急いで本国に戻ったものの、飛行機との通信は途中で切れてしまった。

 世界との通信はいまだの出来ない。

 そんな中、日本は英雄の誕生。大幅な法整備。スキルを用いた大規模農業は食糧問題を解決し、徐々に日本は日々の生活を取り戻しつつある。

 そして、日本における最後の問題は関東の開放だけとなったのだ。

 しかし、関東の開放は困難を極めた。

 連絡が途絶えた関東。

 今もなお分厚い紫色の雲に覆われた関東がどうなっているのかわかっていない。

 連絡機器の類は一切使えず、突入していった冒険者は誰も帰ってこない。

 日本政府は関東の捜索を一時休止。

 国力を上げ、世界の未確認生物と戦い、他の国を救っていく路線に切り替えたのだ。

 そんな中関東の開放を望む国に縛られないギルドが誕生した。

 それが大日本鉄血団だ。

 関東に住んでいた自分の家族が友達が恋人がいた彼らは彼らが生きているという希望を捨てられていない。せめて、遺体を回収し、墓を作ってあげたいという人達が多く、死にものぐるいで戦っている。

 今や大日本鉄血団は日本国未確認生物対策本部に匹敵するほどの勢力に成長したのだ。

 そして、その団長は『血鬼』と恐れられ、常に最前線に立ち、戦い続け、一切表舞台に立つ男。

 そんな彼がなぜこんなところに?と奈弓は首をかしげる。

 「なるほどなぁ。確かにこいつはつえぇし、人手不足の解消になるだろうな。こいつは俺よりもつえぇからな」

 「な!それほどですか!」

 確かに強いとは思っていたが、日本最強であり、英雄たる勇者に次ぐ実力者として語られていた『血鬼』以上だとは思わなかった奈弓は驚愕する。

 あぁ、最悪だ。これではこの少年を諦めるなんて出来ないではないか。

 「ふふん。僕は強いからね?それで、今日は何の用で来たの?」

 「ん?あぁ、悪魔どもがまた攻めてきやがった。そこで力を借りたい」

 「悪魔?」

 悠真が言った悪魔と言う言葉に首を傾げる。

 未確認生物につけられた暫定名に悪魔はいなかったはずである。

 「あ」

 やべっという顔をした悠真のことなんて知ったことのない玲於は平然と説明し始める。

 「悪魔は関東を支配する存在だよ?知らなかったんだ」

 「関東を支配する?」

 「はぁー、その情報は秘匿してたんだがなぁ」

 悠真は深々とため息を付く。

 「こいつは関東唯一の生き残りなんだわ」

 「関東の、生き残り?ん?……唯一?」

 「あぁ、そうだ。こいつは千葉の方からここまで来たそうだ。その中で見たのは悪魔と、腐った死体だけだったそうだ。だが、そんな情報広めるわけには行かない。まだ生きていると願っているうちらの連中の心が折れかねない」

 「な、な、な」

 関東の現状を知っている存在。その大きすぎる存在に奈弓は空いた口が塞がらない。

 「かごめ かごめ 籠の中の鳥は」

 陽気にかごめ かごめを歌いながら楽しそうに笑っている玲於を呆然と見つめる。

 「まぁ、わかってるとは思うが、このことは誰にも言うんじゃねぇぞ?」

 悠真は背に背負っていた大剣を奈弓に突きつける。

 「ひぃぃいい」

 悠真の殺気をぶつけられた奈弓は情けなく悲鳴を上げる。

 「いいか?言うなよ?こいつの情報は我ら大日本鉄血団にとって絶大な影響力を持っているんだ」

 「わかりました!言いません!絶対に言いません!」

 奈弓は悠真の言葉にブンブンと首を縦に振る。

 「あぁ、いいことだ。あぁ、そうだ。お前、ここで暮らせや」

 「え?」

 奈弓は呆然と呟く。

 「あ?なんか文句あっか?」

 「あ、いえ!ありません!」

 奈弓は泣きたくなった。

 「玲於も文句ねぇよな?」

 「あ、うん」

 玲於は簡単に頷く。

 断ってほしかった。

 「よし、これで口止めは大丈夫やろ」

 満足そうに悠真は頷く。

 奈弓は泣きそうだった。

 「よし、玲於。悪魔どもを蹴散らしに行くぞ」

 「あ、今回僕は行かないよ?」

 「え?」

 平然と告げた玲於の一言に悠真は固まった。

 「え?」

 大事なことwなので二回言いました。

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