第二話

賢者、それは6つの魔法属性のそれぞれを司る6人の魔法使い。

類稀なる才能と、人を正しく導くことができる心優しき人格者。そして司る属性から愛されていることが賢者の特徴と言える。

それぞれの賢者が扱う魔術はどれも桁違いであり、彼らは世界を守る使命のもと動いている。

その彼らをまとめ、力を与えているのが大賢者と呼ばれる神にも等しい人物だ。

大賢者に会えるのは6賢者と、世界を守る使命を受けた人物だけである。例外で言えば彼女の依代となり得るものだけ大賢者の姿と声を聞くことができる。


エリザベスは目の前にいる彼女こそが森の賢者であると俄には信じ難いと感じていたが、先程の魔法を見てしまえばそうなのだと理解できる。

人が扱える魔法は、大魔法師と呼ばれてもその影響は人にしか与えない。

しかし今彼女が行ったのは、地面を割り、木の根っこを動かして座る場所を作ってしまった。つまりは大きく言ってしまえば世界対して魔法を行使できるということ。

人は人にしか影響を与えず、世界に干渉するのは不可能だ。だが賢者は違う。彼らの術は世界に影響を及ぼし、その気になればいつでも国一つでも壊滅できてしまうくらいに強いのだ。

エリザベスは授業で習ったことをすぐさまに思い出した。そして賢者に対して無礼な行いは決してしてはいけないことも同時に思い出す。


「こ、れは、賢者様っ、今までご無礼を。わたくしの知識の浅さゆえ、お詫び申し上げます」


慌てて立ち上がり、頭を下げる。

ミネルヴァはそんな様子に驚いた声を出し、目をパチパチさせていた。


「あ、あぁ〜。気にしなくて結構。僕はそこまで気にしないからさ。ウルカヌスの奴は気にするだろうけど」


そう言ってつまんなそうに、「生真面目すぎるからなぁ」と独り言を呟きながらしっかりと椅子には座らず、ぶーらぶらと体を揺らしていた。


「しばらく人間と会ってなかったから、そんな対応されるんだって忘れていたよ」


癖なのかまたクルクルとランタンを回し、ケラケラ笑っている。

エリザベスはどうすればいいか分からず、ただ立ちすくんでいると不意に、ナイフがエリザベス目掛けて飛んできた。


「!!?」


間一髪でエリザベスはそのナイフを避け、飛んできた方向を見ると、そこには銀髪の少年がこちらを警戒するように睨んでいた。

ボサボサの髪で手入れされているとは思えない、野生的な姿をしている。

少年がダンッと大きな音を立て大きくジャンプすると、持っていた大剣を抜きそのままエリザベスに斬りかかろうと振りかざした。


「コラッ!やめないかレオ!!!」


ミネルヴァがそういうと、少年は驚いた顔をした後、斬るかかるのをやめようとなんとか動こうとしが体勢を崩してそのまま落ちそうになる。

エリザベスは頭から落ちようとしている少年に風の魔法をかけ、落ちる寸前で減速させゆっくりと降ろした。

バクバクと心臓が激しく動き、全身が心臓になってしまったかのようで、内側からの音でしばらく周りの音が聞こえないでいた。

少年を見ると、先ほどまで尖っていた目は、すっかりなくなっていてそこには親に怒られた後の子供のように目をキョロキョロさせている。


「全く、敵か何かと勘違いしたのだろうけれど、僕がテーブルを出しているんだから客人に決まっているだろう。普段はちゃんと冷静に動くのに僕のこととなると途端にアホになるね」


ぷんぷんと怒りながら腰に両手を当ててレオと呼んだ少年を見つめている。

少年は罰が悪そうに、ボソボソと言葉を繋げた。


「でも、そいつ…危ない」


「おばか、彼女は今冷静だし、瘴気自体は溢れていないだろう。よくみんしゃいな」


ふざけた口調でそういうと、くるりとエリザベスの方に向き直り頭を下げる。


「あ、頭を上げてください。わたくしは大丈夫ですっ」


エリザベスが慌ててそう言っても、頑として顔を上げないままミネルヴァは謝罪を続けた。


「いや、我が弟子が悪意なかろうとも君の命を奪おうとしたんだ、君にはしっかりと謝罪せねばならない」


ミネルヴァが頭を下げている様子を見て、レオも立ち上がり同じように頭を下げた。

少し不服そうだったが、ちゃんと「ごめんなさい」と謝った。ミネルヴァは、レオが謝ったタイミングで頭を上げる。

全く、とこぼしながらミネルヴァは椅子に座り、パチンと指を鳴らした。すると木の精たちが集まってきて、ティーポットやティーカップ、お菓子の乗ったお皿などを用意し、3人がかりで一生懸命紅茶を注いだ。

人数分紅茶を注ぎ終えると、ふんすっと言った様子で自慢げに立っていた。エリザベスが礼をいうと、にぱーっと満面の笑みを浮かべ満足そうに去っていった。


「レオ、お礼も言うんだよ。誰のおかげで頭ぶつけなかったのかわかるだろう」


ミネルヴァがそう告げると、ビッと体を硬直させた後に恐る恐ると言った様子で、「ありがとう」とエリザベスに告げた。

エリザエスはなんだかその様子がおかしくて、ふふっと笑いながらレオを許した。

改めて、と言わんばかりにミネルヴァは姿勢を正し、エリザベスに向かい直る。エリザベスもそれを見て座りなおした。


「うちの弟子が本当にすまなかったね。さて、情報整理と、ついでに授業もしようか」


「授業?」


エリザベスが首を傾げると、ミネルヴァはニッと挑戦的な笑みを浮かべ


「気になるだろう?この世界のこと」

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