こどもよりも、こども…よりも、こども?
どうやら取り寄せには大分時間がかかるらしい。
「このまま帰って来るのも面倒だし、ちょっと歩こっか。」
「ん。」
手を繋がれるまま、歩き出す。行先はおろか、目的さえ気にしなかった。
寮と学校の外は知らない人ばかり。ずっと顔を上げられずに俯いている。
「佳乃ちゃん、アイスあるよ?食べる?」
「…ん。」
「あ、聖君に怒られちゃうかな…いい?2人だけの秘密だからね?」
「……?ん。」
「何にしよっか。」
"なんでも"
「…聞き方変えるね。佳乃ちゃんのおすすめはどれかな?」
"紅芋"
「渋っ…くはないのかな。最近紅芋流行ってるもんね、うん。すみませーん!紅芋ソフト2つ!」
「はーい!小さなお子様用のカップもございますがいかがにしましょう?」
「だ、大丈夫です!」
どうやら前よりも幼く見られがちのようだ。少し前は大人っぽい感じがでてたみたいなんだけど。
容姿は変わってないから、原因は動きなのだろう。無口で人見知りしてる小学生のようなこの感じがそう見せるのだ。多分。
「はい!そこのベンチで食べよー」
夢姫ちゃんから受け取ると、ベンチにトテトテと走る。なんやかんやで体は楽しみらしい。
「んー…あんまり紅芋はって思ってたけど美味しいね…ふむふむ…」
パクパクと食べるボク。眉一つ動かさない顔を見て誰が美味しそうと思えるのだろうか。まさしく人形そのものだった。
けど、美味しい。…ふむ。せっかく美味しいものを食べてるのに正義達に渡せないのは少々残念だ。何か持って帰れる方法は無いのだろうか。
「佳乃ちゃん!垂れてる垂れてる!」
「……んぅ。」
冷たい感覚で一気に現実に戻る。溶けちゃうな…
手にかかるのも気にせずに、変わらないペースで食べる。
「こりゃカップの方が良かったのかなあ?」
気付けばタオルで拭かれてるボク。中々情けない。
マイペースに食べ進めるボクと手を拭き、足を拭きと甲斐甲斐しく世話をする夢姫ちゃん。外から見れば立派な年の離れた姉妹に見えたことだろう。
――
その後しばらくフラフラとアクセサリーや服を物色していると、アナウンスで呼ばれる。
紙袋に詰められた水着が用意されていた。少し特殊とはいえ値段は変わらないようだった。お会計を済ませて寮へと向かう。
「あ、佳乃ちゃん。ここ最近出来たばかりなんだよ。あの隣の商店街のお店でね…それで…あ。」
急に口と歩みを止める夢姫ちゃん。思い切り鼻柱を打つ。
「ご、ごめんごめん。ほら、あれ…九条じゃない?」
夢姫ちゃんが話していたのはとある雑貨屋さん。確かに商店街の中でも見覚えがある。元より若者向けのアクセサリーも販売してたから、なんやかんやで売上が良かったのかもしれない。
だけど、どちらかと言えば女の子向け。男、ましてや1人で来るには少し場違い感が出てしまうが…
確かに九条君はいた。真剣に何かを探している様子だった。
「…何してるんだろ。まさか自分の買い物じゃ無いだろうし…うーん…」
謎は深まるが、深まるだけだ。つまりのところ特段それ以上考えてなかった。
「あ、何か買うみたい。なんだろ…うーん…ガラス越しじゃちょっと…むむむ…」
ぺたりと顔をガラスにつけて覗き込む夢姫ちゃん。意味も分からず真似するボク。目立たないわけが無い。
「…何やってんだ2人共。」
「…えっ!?いや、別に!ちょっと素敵だなあって!」
「そんな凝視するぐらいなら普通に入れよ…佳乃ちゃんも、買い物?」
「ん。」
「そっかそっか。もっと佳乃ちゃんについて色々話したいんだが、学校だと聖の監視が凄くてな…」
「ま、あんな事頼んだ九条が悪いと思うわ。」
「冗談のつもりだったんだがなぁ…。……」
「あー!思い出して顔赤くしてるー!」
「うるせぇよ!」
喜んでもらえたようで何よりだ。
「で。何してたの?」
「それはこっちのセリフでもあるがな。…まあ、買い物だ。」
「ふーん…?誰に?」
「……自分に?」
「なんで疑問形なのよ。」
「いや…自分に。」
「へぇ…九条ったら可愛いのね。ちょっと可愛いのが好きなんだ。」
「…っ!いや、まあ、……そう…」
「もう。気にしなくても他言しないわ。別に可愛い趣味のひとつや2つぐらいあったとしてもいいじゃない。ね?」
「そうだよな。うん。まあ、そういう事だ。」
「…んー、スッキリした。じゃあ帰ろうかしら…その前に佳乃ちゃん、お手洗いだけ寄っていかない?」
「ん。」
「そういう事だから、ちょっと佳乃ちゃんの荷物持っててあげて。」
「お、おう。」
「覗いちゃ駄目よ?」
「分かってる!さっさと行ってこいよ!」
お手洗いに着いたけど、夢姫ちゃんは行かなかった。結局ボクだけ行って、すぐに戻った。
「ん、ありがと。じゃ、また明日。」
「……おう。また明日。」
手を振る九条君を見つめて、少ししたら歩きはじめた。
「さあて佳乃ちゃん。九条は一体何をくれたのかしらね?」
「…あ!さては知ってたな日並ぃぃ!?」
「一体なんの事かしら?まあでもあのチョイスなら…佳乃ちゃん宛だろうなって。合ってたでしょ?」
「弄ばれてた…最初から気付いててあの言動なのかよ…恐ろしい…」
「入れるタイミング作ってあげたんだから感謝なさい。それじゃ!」
夢姫ちゃんに引っ張られるまま寮への道を歩く。夢姫ちゃんはとっても満足そうだった。夢姫ちゃんが喜んでいるなら、ボクも嬉しい。チリンチリンと小さな鈴の音を立てながら、すっかり暮れた夕日の下を歩いて帰った。
――
「おかえりなさい!晩御飯出来上がりますからゆっくりしてて下さいね。」
帰って食堂に来れば、三角巾を被った麻生君が出迎えてくれた。優しそうな風貌とエプロン姿がとても似合っている。
「…大丈夫なの?」
「はい!」
「そ、そう。そんなに自信満々なら何も言えないわ…佳乃ちゃん、とりあえず荷物置きに行こ?」
「ん。」
2階に上がり、買ってきた紙袋を置く。チリンと音がした。
「九条は何を佳乃ちゃんにプレゼントしたのかしら。佳乃ちゃん、開けてみて?」
紙袋の中に、正方形の小箱が入っていた。夢姫ちゃんに確認し、開ける。そこには可愛いリボンの付いた紫の和風な髪留めが。チリンチリンとなっていたのはそこに付いていた小さな鈴のようだ。
「…なるほど。九条も考えたわね…佳乃ちゃん、お風呂やプールの時以外はこの髪飾りを付けてて欲しいな。出来る?」
「ん。……♪」
寧ろこんな可愛いものをずっと付けてて良いなんて。ボクにとっちゃ反対する意味も無い。
早速付けてみる。結構な大きさで、何となく引っ張られているのを感じる。耳よりも少し大きいかも。
動く度にチリンチリンと鳴るが嫌な音じゃない。あの、あれだ。お土産屋さんとかで売ってる癒しの鈴。あの音色。
「佳乃ちゃん顔小さいから余計大きく感じるな…だけど、似合ってる!」
ぎゅうっと抱き締められる。もちろん抱き締め返す。しばらくすりすりと頬を擦られていたが、パッと夢姫ちゃんが動きを止めた。
「そういえば麻生君のご飯大丈夫かしら…そろそろ出来たと思うのだけど…佳乃ちゃん、行こっか。」
「ん。」
シャランと音を鳴らしながら階段を下りた。
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