しあわせ。
まあてんやわんやな教室だったが、先生が来るとササッと静まった。
「最初っから静かにしてろっての…始めるぞー」
なんとも気の抜ける朝だ。ボクには全くもって関係なかったが。
あれほど嫌だった数学4連を難なくこなし、機械的にご飯を食べる。
「あ…用意するの忘れてた。佳乃、済まないが今日は見学かもな…」
「……?」
一体、何がだろう。
――
国語が終わり、体育の時間になった。今日の授業は…
「おーし。7月に入ったし、今日からは水泳だ。楽しみだったろ!」
「「「「「「もちろん!!」」」」」」
プールだった。なんというか、男女でかなりの温度差を感じるが…
「先生…何度も言ってますけど、なんで高校で水泳の授業があるんですか…」
「水泳は実に運動効率のいい運動でな。体育という点ではなかなか優秀な科目なんだ。それに、ダイエットにも効果があるんだ。その為にスイミングスクールに通うお母様方もいるぐらいだ。」
「へ、へぇ…そんなに気にしてないけど、まあ身体にいいなら、ねぇ?」
「そうね、それなら仕方ないわ!」
「…右に同じく」
みんなダイエットに引っ張られている。もちろんボクは気にしてないが。でも楽しそう。入りたかったなー…
「ああ…神よ…!スク水などという神器を現世に創造して下さり誠にありがとうございます…!」
「もうダメだ…!日並の体付き反則級だぞ…!」
「先生!高校でも水泳とかもう昇天しそうだけど、男は色々な意味でピンチです!なんか…そういうの知りませんか!?」
「ま、バレたら恥ずかしいしゴミを見る目で見られるだろうな…頑張れよ。」
「そんなぁ…」
「じゃあ辞めるか。」
「そんな事は言ってません!」
男は頭がいっぱいいっぱいみたいだ。このおっぱい星人共め。
とはいえ、この高校の3人はレベルが高いとも思う。
夢姫ちゃん…は言うまでもなく完璧。美波ちゃんだって、健康的な体付きと豊満な胸がクラっとさせる。
秋奈ちゃんも、着痩せするタイプだから、いつもよりも存在感のある胸に、背の低さが男心をくすぐっている。のだと思う。あ、ボクは小学生まんま。
まあそんなの、嫌でも見てしまうのだろう。そんなガヤガヤとした空気を感じながら、空をぼーっと見上げていた。
「これ、山田先生から。水着について何も聞いてなかったみたいだな?」
「ん。」
「だからせめて気持ちだけでも楽しんでくれ…という事だ。」
"ありがとう"
「礼なら山田先生に。おーい!それじゃ準備体操からー!」
体育の先生は授業へと戻って行った。体育の先生は2人いるんだな。7月に入ってやっと理解した。
用意してもらったのは小さな子供用のビニールプール。足をつけて、気持ちだけ楽しむ。らしい。
ぴちゃぴちゃと足を動かして遊ぶ。ふむ…冷たい。
「おいおい…ラジオ体操ってこんなにもエロかった!?」
まだ言ってたのか。
――
1回目なんて慣らしだ。各々ワーワー言いながらプールに入ると、バタ足したり、体浮かせたり。軽く水に慣れた所でもう自由時間になっていた。大変楽しそうでいいが、まるで小学生だ。
奥の方で夢姫ちゃんと美波ちゃんが水泳対決たるものをしているが…
「ちょっと!?さっきまで泳げそうにもないほど慣れてなかったじゃない!」
「演技ですー!私が美波に負ける訳ないじゃない!」
「むううう!もう1回よ!」
水泳能力もチートだったようだ。水陸両用夢姫ちゃん。
さらにその奥では2人ほど本気でバッシャバッシャと泳いでいる。あの早さ、それに同じぐらいとなるとまあ…あの二人だろう。うん。
ぴちゃぴちゃと浮力も関係ない所で足をパタパタさせながら座っている。
「日高、ちょっと手伝ってくれ!」
「ん。」
ホースを持っていき、プールへ。どうやらプールの水の中の塩素濃度を減らす役割があるらしい。
だが、いつまで経ってもちょろっとしか出てこない。詰まってる?
覗き込んでみるも分かるわけない。だがその瞬間、思い切り水がでてきた。思い切り顔で受け止める。
手から離れたホースは暴れ回り、それは無差別に冷たい水をかけていく。
プール内は大混乱。ボクはホースを探すも思い切り顔にかかったから前が見えない。
「うわ、冷たっ!入れとくよー?」
結局美波ちゃんが出てきてホースを入れてくれた。
「日高、大丈夫か?思い切り濡れてるが…」
「ん。」
濡れただけだ。
「まあ、もう濡れてしまったならいいか…ほら。俺の私物だ。使っていいぜ」
いやデカ。めちゃくちゃ大きい水鉄砲が出てきた。至近距離で撃ったら穴空くんじゃないだろうか。
よくよく考えなくても私物を持って来てるのもおかしいし、私物がコレってのもおかしい。まあそんな事気にすらかけなかったが。
タンクには異様なほど水が収納された。めちゃくちゃ重い。下手すりゃボクのスコーピオンの2倍近くある。
だが撃つわけでもなく、元の場所に座った。使っていい、なんて曖昧な指示じゃ当時のボクには伝わらない。もっと幼稚園児を相手するぐらい具体的に言ってもらわないと動かない。
しばらくボーッと空を見てるとビューっと頭に冷たい感覚。水だ。そちらの方向を見ると、先生が悪戯気な顔でこっちを見ている。
……?で、どうすればいいのかな。
しばらく見つめていると、先生の方からやってくる。
「その銃は飾りか?ほらほら、やられたらやり返すってのがじょうし…わぶっ!?」
至近距離で思い切り撃った。思い切りやり返した。別に恨みとかじゃなく、そうするべきだと先生が言ったんだし。
「日高っ!ちょっと待てっ!威力が!結構あるんだからっ!痛いって!」
水1つかけただけで数倍になって帰ってくる先生が不憫で仕方ない。ボクのせいだが。
「……♪」
そんな事露知らず。撃ってる側は楽しいに決まってる。そこに情や配慮などありもしない。ただ、楽しい。
後ろに逃げる先生。もちろん追いかけるボク。さながらターミネーターのショットガンで追いかけるあのシーンだ。伝わる?
そして、先生ついに閃く。歩いて逃げても距離は離れない。だけど水にさえ入ってしまえばボクは追えない。
「よーしよし。これは先生の勝ちじゃないかぁ?」
勝ち誇る先生。だけど、忘れちゃいけない。今のボクは常識が足りないのだ。
ポケットから手帳とペンを抜き取り、靴と靴下をポイポイと脱ぐ。そして、躊躇なく飛び込んだ。
「日高!?」
※準備体操もしていないので、大変危険だからやめようね!
波が無い分体制は維持しやすい。微妙に足のつかないプールを泳ぎ、またしても先生を狙う。ボクは何故そこまで本気で追いかけていたのだろう。
「ちょ、うごっ!、分かった!分かった!降参だ!ストップ!」
「ん。」
まあ、中々楽しかった。直ぐに淵に行き、ボトボトのまま元の席へと戻って数分前と変わらず空を見つめるボク。
「佳乃ちゃんっ!ちょっと誰かタオル!」
直ぐにタオルに包まれるボク。今考えれば上は体操着1枚。下は…まあ、付けてなかった気もする。というか、夢姫ちゃんの反応からするに付けてなかったのだろう。
「も、もう!佳乃ちゃんたら!」
"濡れても構わない。着替えがあるから"
「そうじゃないの!今度一緒にブラ買いに行こうね…」
やっぱり付けてなかったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます