ボクは、なに?
機械的に作ったご飯を機械的に食べる。美味しい。美味しい。
「…なあ、佳乃。」
「…?」
「…いや、疲れたろ。お疲れ様。」
「ん。」
「佳乃ちゃん、私の事、覚えてるよね…?」
"日並夢姫"
「うん。そうだよ。」
"大事な友達"
「うん…ありがと。ちょっと私ったら何聞いてるのかしら。…全く……」
ボクにはその質問の意図がわからなかった。だけど、大切な友達。それは確かだ。
ボクのせいで元気が出ないのだろうか。椅子から降りて、夢姫ちゃんの頭を撫でる。
「……佳乃ちゃん、ごめん…っ!今、佳乃ちゃんだってぇ…ぅぅぅ…」
泣き出してしまった。やはりボクのせいだろうか。どうしたらいいのだろうか。困った。正義を見る。困ったら正義が助けてくれる。はずだ。
「………」
正義は何も答えなかった。麻生君も、石田君も。先生だって無言だった。喋らずに座れば良いってこと?
ストンと元の位置に座る。真似していたら間違いじゃ無いはず。
ボクは気づけなかった。いや、壊れ過ぎて理解出来なかった。ボクの無味無臭の空気のような振る舞いが、みんなを苦しめているのだと。
――
夢姫ちゃんを泣かせたのがボクなら、ボクは夢姫ちゃんが泣き止むまで居るべきだ。そう思って、夢姫ちゃんの前に座り続けていた。だけど、夢姫ちゃんは泣き止む気配も無い。
「佳乃、ちょっと…1人にしてやってくれないか?」
何故かはわからなかった。だけど正義がそう言うなら、それがいいのだろう。
食器洗いをしようと、キッチンへと駆けた。
キッチンと食堂は横繋がり。ふたりの会話は全部聞こえた。
「日並、ショックなのも分かる。俺だって…佳乃なのに、佳乃じゃないかのような振る舞いに困惑してる…けど」
「分かってない…!分かってないよ…!だって、私の1番の友達なの!近くにだって居たの!なのに、なのに何にも出来なかったの…!何も出来なかったから、佳乃ちゃん…が…私どうしたらいいのか分かんないよ!」
「さっきだって、佳乃ちゃんが怖かった。トントンとリズム良く切っているだけなのに…なんだか、そのまま手も切ってしまいそうなほど無機質だった。…あんなの、佳乃ちゃんじゃ、ないもん…」
「違う!佳乃に違いはない…!俺達が否定してどうする!佳乃だってああなりたくてなったんじゃない!限界まで耐えて、耐えきれなくなって…擦り切れたんだ…!俺も、約束したばかりなのに…!高校は絶対に楽しもうって、言ったばかりなのに…!」
ボクの話をして、泣いていた。やはりボクは何かしてしまったのだ。
でも、大切な親友と友達の涙は…嫌だ。
キッチンのタオルを持って、2人に差し出す。泣かないで…
「…ごめん、佳乃。聞こえてたか…」
「ん。」
「…大丈夫。もう泣かないさ。助かる。」
「…♪」
涙の止まった正義。ボクは合ってたのだろう。機嫌が良くなり、正義に絡みつく。
「……佳乃ちゃん、だーめ。聖君困ってるから。……私なら、空いてるよ?」
そうなんだ。正義困ってたんだ。…じゃあまた今度にしよ。夢姫ちゃんにフラーっとぶら下がる。信用出来る人の近くは、安心する。
「佳乃、ゲームするか?」
「ん。」
「なら絵を描こうよ?」
「……ん。」
「本当は何がしたいんだ?」
"分からない"
分からない。ボク、みんなと居れるならなんでもいいや。もちろんゲームも楽しいし、絵を描くのも楽しそう。だけど…まあ、それよりも近くに居れるなら言う事ない。
「…じゃあ、数学のお勉強しよっか。みっちり教えてあげるよ。」
「…ん。」
正直嫌だが、まあ夢姫ちゃんが言うなら仕方ない。
「ほらもうやっぱり佳乃ちゃんじゃないんじゃない?数学の勉強するってだけで泣ける子よ?」
「…なんだか、俺もそういう気持ちが湧いてくるぜ…どういう状態なのか見当もつかねぇや… 」
「聖君、もしかしたらってあるじゃない?この間みたいにくすぐったりしたら、変わらない…かな?」
「やってみる価値はあるか…?佳乃、ちょっと色々いいか?」
「…?ん。」
「まあ、俺がなんと言おうと肯定なんだろうが…そうだな、やっぱり笑顔の佳乃がいいよな。」
「私は恥ずかしがる佳乃ちゃんも好きだな…えへへ…」
「はにかんでも可愛い事言ってねぇからな。とりあえず、佳乃。笑ってみてくれ。」
「ん……」
笑う…か。どうするんだっけ。そもそも、笑う時ってどんな気持ちだったかな。どんな事したら笑うんだっけ。ボク、笑ってたかな。笑わなくても、幸せだけど。違うのかな…?
「佳乃、佳乃ー?」
「…ん。」
「どうだ、出来そうか?」
"分からない"
「それは、出来るかどうかって事か?」
"笑い方が、分からない "
「そうだな…こんな感じだ。」
笑顔の正義。幸せそうだ。
「真似してくれ。……いや、そうじゃなくてな。」
口を開ける。笑うってこんな感じだっけ?
「目が笑ってないよ…佳乃ちゃん、ちょっと目を細めるの。」
目を、細める。見えにくい。笑うって見えにくい。
「…何故だ…全然笑ってるように見えねぇ…」
「出来損ないのロボットみたいだね…佳乃ちゃん、もう大丈夫。」
喉乾いた。お茶飲も。
――
キッチンにお茶を取りに行ってる間も会話は続く。
「やっぱり自然に笑ってもらわないといけないね…」
「ほう…やっぱりくすぐりか?」
「まあ、任せてよ。ちゃんと聖君が見ててくれるなら酸欠もならなくて済むだろうし。」
三人分のお茶を入れて、帰った。なんだか、そうするべきだと感じた。
「おお…こういう細かい気遣いは変わらねぇんだよな…」
「身体に染み付いている…って事なのかな。」
その通り。この時のボクは基本考えられないが、普段から意識してやっていた事は出来る。だから、日記だって残っている訳だ。ただ起きた出来事を淡々と書き綴っているだけだが。
「じゃあそんな佳乃ちゃんには申し訳ないけど…ふふふ…」
ワキワキと手を動かす夢姫ちゃん。ボクは特に反応を返さなかった。お茶飲まないの?
脇腹に忍び寄る手。触れて、くすぐられる……が、ボクは特に何も思わなかった。こそばゆいかも。だけど、まあ夢姫ちゃんのする事だし、何か意味があるのだろう。その程度だった。
「あ、あれ…?佳乃ちゃん脇腹が弱点なんだよ。特にこの……血管の通ってる筋辺り。」
「めちゃくちゃリアルに想像出来て申し訳ない気持ちになるから止めてくれ。しかし、声1つ上げないのはおかしい…逃げようともしてるようには見えないし…」
この時彼らは気付いてない。ボクは別に失声症が治った訳じゃ無い…と。
いきなりコテンと横に倒れるボク。慌てるふたり。そして数十秒後、何も無かったかのように元の席に座るボク。
「な、なんだったんだ…?」
「分かんないよ…佳乃ちゃん、大丈夫…なんだよね?」
「……んぁ」
ちょっとだけ声が疲れていた。それがボクの変化だった。
「やり過ぎたのかも…ごめんね?」
「……?」
「駄目だな、外から見ても分かるような変化じゃ無いと…」
正義、目的変わってない?ボクを笑わせるつもりは?
そんな事当時のボクが思ってる訳もなく、ぼーっと座っている。
「んふっ…!じゃあちょっと佳乃ちゃんを恥ずかしがらせて来るね…!ああ鼻血でそう…佳乃ちゃん早く早く!」
「おい…程々にな。止めたいが、佳乃のためでもあるもんな…」
正義、それは止めるのが正解だとボク思うの。
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