7月1日
人のような、人形のような。
※みなさんの想像の5000倍ぐらい無反応で、無感情なので今のボクが、時折ツッコミを入れつつ進行していきます。
「じょ、冗談なんだけどっ!?…ぶへっ!」
九条君の姿が消えた。正義が吹っ飛ばした。ボクは無反応だった。
「佳乃、そんな軽々しくするもんじゃないだろ!?なぁ!?」
ゆらゆらと肩を揺さぶられるが、小首を傾げる。何がいけないの…?
ボクは頼まれたから、しただけ…だよ?うーん…
正義も…したら、いいのかな…?肩を揺さぶる正義の腕を取り、頬にキスする。
「佳乃ぉぉぉ!?」
正義の絶叫が響いた。ボクには何も理解出来なかった。
「あの…授業を…」
「帰ったのか日高!え…お前何してんの!?」
集まる人だかり。慌てる正義。関係無く抱きつくボク。先生はそんなの見たら驚くしかないだろう。
――
授業どころじゃ無くなった。終わり際というのもあってか、早めに切りあげることになったらしく、先生が教壇に立って…ドンと机を叩く。
「静かに。大事な話をしたいと思う。理事長…も呼んでる。」
シンとするクラス。ボクは我関せず。正義の腕にくっついたまま動かない。
「日高の様子が少し変わってるのに気づいてると思う。日高、こっち来れるか?」
呼ばれた。腕を離し、教壇に向かう。
「名前、書いてみてくれ。」
「…ん。」
"日高佳乃"黒板に大きく書いた。これが…何か?
「この通り、少し症状が変わった。多少の表現はできるようになったみたいなんだ…待て、落ち着け…」
待て、は正義の腕に戻ろうとするボクに。落ち着け、はその事実に喜ぼうとしているクラスメイトに。
「だが…日高、俺を蹴ってみろ。」
「…ん。」
躊躇なく蹴る。こんな事して、何になるの?
「…この通り、言われた事にそのまま答えるぐらい、考える力が無くなった…みたいなんだ。すまん、俺も昨日聞いたばかりでなんも分かってない…ちょっと、座ってていいぞ。」
「…う。」
正義の横がいい。だけど、座れって言われたし…大人しく座る。
「俺も、合ってるのか分かんねぇ…でも、こんな言いなり人形みたいな日高は…違うと思う…んだ。」
沈黙する空気。ボクには分からなかった。どうして話さないの?ボク、元気だよ?
「彼女はしっかりサポートをするつもりだ。もちろん専門外だから、しっかりとしたカウンセラーだって。何があったか詳細を知っているのは彼女自身だけ。私は卒業までに幸せになって欲しいと思っている。頼む…君達の力が必要だ。これ以上酷くならないように、サポートを頼めないか…?」
突如現れた理事長。立ち上がって腕を掴んだ。暖かくて、安心する匂いがした。
「…最初っから、俺は決めてます。佳乃の為ならなんでも…」
「私!近くに居たのに佳乃ちゃんの変化に気づけなかった…!だけど、後悔したってもう、元に戻せない…から。だから、私…精一杯頑張って、佳乃ちゃんのお手伝いがしたい…」
ボク…?手伝われる事なんて、無いけどな…元気だし、ボク。今も幸せな気持ち…だ。
口々に協力すると言うクラスメイト。そろそろボクにも教えて?ね、ね。
「ありがとう。まずはみんなで暖かく迎えてあげよう。せめて安心してくれるような環境を、作ろう。」
色々な話があった。だけど、ボクは面白くなかった。結局何の話なのか分からないから。
――
時間は経って、お昼。近くに居た夢姫ちゃんにくっつき、食堂まで歩く。
「佳乃ちゃん、お腹減った?」
「ん…」
「今日のご飯なんだろうね。何がいい?」
"なんでもいい"
「…そっか。美味しかったら、良いよね。」
「…ん。」
食堂に着いた。今日はドリアだった。いつか望んだ、ボクの食べたかった物。
無表情で、配膳を待った。特に心は躍らなかった。
機械的に。事務的に口に運ぶ。美味しい。うん、うん。
「佳乃、美味しいか…?」
「ん。」
「食べれなかったら食ってもいいぞ。」
「や。」
「ま、まあ食べられる所まで食べるといい。最初から残す方向で聞くのは悪かった。」
「…?ん。」
謝られる事なんてあっただろうか。
まあいい。美味しいし、満足だ。
――
午後も授業に臨んだ。始めは椅子に座ってるだけだったが、どうやら勉強しなくちゃいけないらしい。始めからそう言って欲しい。ノートに書き込み、先生の名指しには黒板に書いた。しっかり授業してる。偉い、偉い。
放課後。正義が帰ると言ったので、ボクも帰る用意をした。
「佳乃、疲れたな。」
「ん。」
「おぶろうか?」
そう言われるなら。遠慮なく乗せてもらう。久しぶりの背中は頼もしくて、安心した。一生このままここで過ごしたい。ボク…楽しいなぁ。
「佳乃。着いたぞ。…佳乃?」
ボクはもう眠くなっていた。正義の背中は本当に安心できて、ぐっすりと…寝れそうだ…
――
「うー…」
「分かった!分かったから日並にくっ付いた方が色々と誤解がなくていいと思うんだが!?」
「や。」
ボクは正義だから言ってるの。正義にくっ付いていたいの。
大層甘えんぼになったボク。だけど、そんな深く考えてはいない。ただ、正義の横は安心出来て、ボクも幸せだった。だから、ボクは幸せなのに、正義が困ってるのがよく分からなかった。
ボク、そんなおかしい事してるかな…?
だけど、正義が困っているのはボクも困る。何とかしてあげなくちゃ。うーん…ボクが困った時、正義は何をしてくれるかなぁ…あ。分かったかも。
「佳乃!?」
ぎゅうっと抱き締めて、頭を撫でた。いつも正義はしてくれていた。
何がいけなかったのか、正義はさらに困った顔をしていた。ボクには分かんないや…
「いや、ほら!なんか恥ずかしいだろ!?」
んー…?何が…?
「もういいから大丈夫!ほら、大人しく座っててくれないか!?」
「……ん。」
正直まだ横に居たかったが、正義がそう言うなら仕方ない。
椅子に座る。だけど何をするでもない。正義に座れと言われたから、座ってる。それだけ。
「なあ、流石に俺の身が持たねぇ…いくら何があったとしても、佳乃は佳乃に変わりねぇんだから破壊力が…」
「役得だ。だが、本当に言われた通りに実行しているのは……なんというか。」
「ああ…佳乃、好きにしていいんだぞ?」
「……!ん。」
とてとてと椅子から降り、正義の元へ走る。そして腕をとって抱きしめる。
「…理性が足りねぇ」
「煩悩まみれなんじゃないか?」
「うるせぇよ!お前、これ脳が溶けるぞ!?」
「大袈裟だ。そもそも、お前が劣情を持たなければいいだけの話だろう?」
「無理に決まってるだろ!?俺は歴とした男子高校生なもんでな!」
何を思ったのか、更にぎゅうっと握り、左右にゆらゆらと揺れる。頭お花畑だ。
「くそっ…楽しそうにしてるのが言い難いぞ…!」
「無表情ながらも伝わるものがあるな…」
結局ボクが正義を離したのは夢姫ちゃんにご飯作ろって言われるまで。離れたら、淡々と機械的に調理し始めるボクを見てとっても複雑な気持ちになったと、後に正義が話していた。確かに、そこにボクの意見は無かったのかもしれない。夢姫ちゃんのいうレシピを作っただけだから。
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