【閲覧注意】ユメの始まり
※この日のボクは頭がいっぱいで日記いっぱいに推理や考察が描き綴られていたので、思い出しながら書くので事実通りじゃ無いかもしれません。そういうのは初めに書くんだぞ。
――
石田君も先生も髪や服が乱れていて、大変だった事を一目で感じた。
「追いかけてる途中で陰に隠れる長谷川を見た。一瞬見ただけだが、耳にはイヤホン、顔元はマスクで覆っていた。慌てる素振りを見るに俺達には見られたくないらしい。」
「位置的に喫茶店の裏手にいたはずだ。裏手から何かの形で撮影をしてたと推察できる。」
「なるほど…もし長谷川がそうだってんなら、情報は筒抜けだったって事なのか…?」
「あくまでも推察だ。だが、一々裏手に回る意味も分からないしな…それと、犯人だが、逃げられた。すまん。」
悔しそうに先生が嘆く。
「いや、仕方ないですよ。……まだ話を聞いていただけマシ、だったな。もし閑谷と出会ってなかったら今頃大パニックだ。情報こそ整理する必要があるが、ゼロスタートじゃねぇ。」
「それに、こんなもんじゃ俺は…早く情報を集めよう。長々と付き合ってられるか。」
「お前は寝てろ。怪我をしてるようじゃ足手まといだ。さっさと療養しろ。日高の事を思うなら、尚更だ。これ以上心配をかけさせるな。」
「……」
「ま、戦力は相当なもんだった。個々で動くのもマズい。一旦会議だ。石田の言う通り、聖は休め。でもお前の戦力は必要だ。早く治せよ?」
正義は悶々とした表情を浮かべながらも小さく頷いた。ボクとしても、これ以上酷い怪我はして欲しくない。
ボク達はそのまま正義の病室を後にし、待合室で集合した。周りに怪しい人影がない事を確認して、先生が話し始める。
「協力者と犯人は掴んだ。後は実行犯と裏切り者を暴く。悪いが、生徒に手を出されちゃ俺も引く訳にはいかねぇ。情報共有をしよう。日高。」
…ぼ、ボク?
「今から話し合う事を全部書き写してくれ。大丈夫だ、誰にも見せなくていい。いわばバックアップだ。」
あいにく、日記を書いている分書くスピードは早いはずだ。先生の持っていた教員用の手帳に、声だけ集中して書いていく。ボクは聞いているだけ。聞いた事を書いているだけ。そう自分に強く言い聞かせながら、頭を回さずに書き写す。案外スラスラと書ける。ただ何も考えずに並べた単語に証拠に疑問点。
「…よし。あらかた話し終えたな。とりあえず、今日は個々で動かない事だ。」
みんなボロボロだし、その方がいいに決まってる。明日以降だってある訳だし…
すぐに話終えると解散となった。正義は念の為、あと1日病院に残るらしく、寂しさを感じながらも帰路についた。
……はずだった。
――
「何…これ…」
先生を含めて集団で帰った。寮につくと、異様な光景だった。窓ガラスが大きく割れていた。空き部屋の窓だ。
「麻生っ、すまんが一緒に来てくれ!石田、絶対に2人を守っててくれ!」
まだ目の前の状況が理解出来なかった。現実と乖離する出来事を見ても、すぐには飲み込めるわけがない。
数分か、数十分か。数時間にさえ感じた沈黙の時間は先生によって遮られた。
「…中、入っていいぞ。くそっ、いくらなんでも早すぎる…!」
中はあまり変わっていなかった。空き部屋のドアが吹き飛んでいる事以外は…
「これは不法侵入罪、器物破損罪にもあたる。警察への連絡を入れるべきだと…」
「ああ。その前に、少し見てくれ…」
キッチン。その机には見覚えのある物が。
「「…!」」
それぞれの私物なのかもしれない。無残に壊され、折られ、割れていた。ボクのは…
「…ぅ…」
お母さんのくれた服だった。着る前に、破かれてしまった。
「最悪の趣味だな。大層な口叩いてする事はガキのレベル…でも、それでも大事な物を壊すなんて、許せねぇ…」
怒気に包まれる先生。だけど石田君も麻生君も、夢姫ちゃんもどこか顔を顰めてはいるが、悲しんではいない。
この時気付いていなかったのはボクだけだったんだろう。喫茶店のように、どこかで見張ってるのか、カメラでも仕込んだのか知らないが、この様子を楽しんでいたはずだ。
それに気付いたのか、3人はさしてショックを受けていないかのような風体を取っていたのだ。
幸か不幸か、それに気づかなかった事でボクは更に深く沈んでいく…
「警察と、理事長には連絡した。……」
数分後、警察が。その後理事長がやってきた。てんやわんやと騒がしくなったが、ボクの心は遠くにあった。お母さんの気持ちのこもった服が、破られた事への悲しみが止まらなかった。泣いて、泣いて…崩れ落ちた。ごめんねお母さん…ボク、お母さんの気持ちを…
――
結局の所、犯人のしっぽさえ見えなかった。沈んだ空気が離れない。
どうやら明日1日、ここで見張ってみるそうだ。ボクは明日、学校に行かなくちゃならない…気持ちは乗らなかったが、ボク一人残るのはもっと嫌だ。学校に行けば、少しは忘れられる。
――
甘かった。帰ってきたら、警察の方が申し訳なさそうに謝ってきた。中に入ると、砕かれた正義のくれたブローチが。ボクは倒れそうになった。
つーっと伝う涙が止まらない。今朝病院から帰って、全部聞かせられた正義が、ボクを励ます。また買えるさ…と。そうじゃない、そうじゃないのだ。誕生日に、こっそりと、ボクの為に選んでくれたブローチだから大切にしていた。したかった…!
きっと崩れるボクを見て、米塚の兄はほくそ笑んだに違いない。この日から、ターゲットはボクに絞られ、数々の悪意をぶつけられるのだった。
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