宣戦


朝食の後はランニングである。クラスメイトを信じてみる事にした私はもう怖気づいたりしない。

何度も言うが私は運動は好きである。なんでも上手くできる自信があるのだが、いかんせん体力が無い。つまり、ランニングというのは体力が肝であって、体力のない私は…

「もう…駄目かも…」

5分後に倒れていた。

「おいおい、しっかりしろ。」

なんと一周早く帰ってきた石田君。正義もすぐ後ろにいます。2人とも勝負していたのでしょうか。というかこの2人なら勝負してるだろう…

ランニングコースは寮と学校を周るコース。800メートルほどでしょうか。一周離されているというのは私が遅すぎるのか、彼らが早すぎるのか。…たぶん両方でしょう。

「よくそんなんでここまで生きてこれたな…1kmも走って無いぞ?」

「…っ…ぇ…」

息切れし過ぎで声も出ません。

「体力の無さは俺も心配になるほどだからな…何か体力のつくような運動が出来たら良いんだがな…」

「それこそランニングだろう。毎日やってくうちにそのうち着いてくる…はずだ。」

そうです。毎日ランニングしないといけないのです。しかも周回数は決められてます。女子が3週、男子が5週。先生も体格を見てか、大分甘めにしてくれてるのでしょうが、規格外の体力の無さなので一周半ほどで限界です。

「せぇ…ぎ?」

すこし甘えるような目で正義を見ます。届け、私の思い。

「つってもなぁ…こんなんだし…でも毎日続けないと意味ねぇし……佳乃。頑張れよ。」

正義の脳内会議の結果、走らせる事にしたようです。こうなるともう走る以外にこの状況を終わらせる事が出来ません。諦めて走ることにします。

あと半分もあるのです。もう無理そうな体を無理やり動かして走り出します。それに合わせて後ろから2人が付いてきてくれます。

――

なんとか、終わりそう。毎日こんな死ぬような思いをしないといけないのでしょうか。しんどい。

最後のコーナーを早歩きぐらいの速度で駆けて、フラフラーっと寮の前に辿り着きます。

その瞬間ものすごい足音と風が通り過ぎます。2人です。そういえば、5周ですから、1周遅れの私に合わせていた事からもあと1周あります。きっと負けたくない競争心からでしょう。どちらも同じ考えしてるあたり、やっぱり似たもの同士です。まだ2日目ですが、彼らが張り合うのにも慣れてきました。

…しばらくすると、さっきの4分の1ほどで帰ってきます。先頭は石田君でしょうか。あ、正義がスパートかけた。

ほぼ並んでゴール。

「「どうだった!」」

首を傾げておきます。

「同時だったという事か…もうすこし力出せば良かったな。」

「それはこっちのセリフだ。のろのろと走るのに合わせて走らなかったら歴然と差があったろうな。」

睨みあう。もう、しーらないっ。

さっさと学校の支度をしに戻ります。

――

なんやかんやしたのか5分後ぐらいに帰ってきました。その間に着替えて、歯磨きをしようと用意するところまで支度が進みました。あとは荷物を確認して行くだけです。

「お前と一緒に行くの嫌だな…」

「生憎だが、俺もそう思った。」

「はやくして。」

「…」

黙って動き始める2人。ふて腐れた子供みたいな動きです。

子供みたいな人達ですが頼りにしています。

2人とならきっと大丈夫。

――

「帰ろ?」

「昨日も同じ事したろ?帰らねぇよ。行くぞ。」

やっぱり帰りたいです。だってそこの正門くぐったら、あわわわ…

「慌てるな。動じるな。迷っても仕方ないと言ってるだろうが…」

2人とも冷たいです。ほんとに置いていくじゃあありませんか。慌てて付いていきますが、2人の影に隠れるように移動します。

「ほんと、迷子にならないようについてくる子供みたいだな。」

「そうだな。」

子供みたいな2人に子供扱いされました。存外。

まあ子供みたいに付いているのは否定できません。

「うむぅ…」

変な声が出ます。特に意味はありません。

玄関につきます。

教室は2階。この階段を上がってすぐそこ。

教室の前。あっという間。

「今日はオリエンテーションだろ?」

「ああ。」

「なら気楽だな。佳乃。」

「ん?」

「楽しもうな。」

「…ん。」

正義は躊躇する事なくドアを開けます。

「おはよう。」

先陣を切った正義。おはようと言った声がチラホラと聞こえます。

「…。」

続いて石田君。無言です。向こうも無言かと思えば何人かはおはようと言っているようです。

続いて行きます。もう勢いに任せます。

「…よ。」

何ということでしょうか。まさかのよ。です。馴れ馴れしいどころでは有りません。あと殆どの人に聞こえていないでしょう。

「おっはよー!」「おはよー!」「おっはー!」

だけど、すんごい返ってきます。第一関門突破といった所でしょうか…

自分の席にササッと向かう。みんな通り過ぎる時に声をかけてくれるが昨日ほどの余裕もない。軽く頭を下げて通る。

自分の席に着いた…が。顔が青ざめた。

何か箱らしきものや袋が積み上がっている。中学の頃の光景を思い出す。空き箱や空のゴミを積まれていたあの光景。やはり不安は的中していた…のか…

ぐるぐると頭が回り始める。痛くてうずくまる。

すると正義が気づいた様。私の席に近づいて、少しして私の肩に手を置く。

「大丈夫だ。お前はいじめられてない。自分で…見てみろ。」

いじめられて…ない?どういう事?

よく見てみると…

新品だ。おやつの箱やら手作りのようなクッキーなどがドサリと置かれている。

これはこれで困る。どうして私だけこんなに…

「あ…のぉ。ごめんね、昨日は追いかけちゃって怪我させちゃってさ。だから、皆何か反省の意を見せたいなぁと。ちょっと多過ぎたかも。へへっ」

近くの男子に声をかけられる。

「なあ、みんな?」

みんな頷く。確かに追いかけられたのは怖かったけど、何も怪我したのは私の不注意である。だから、この人達は悪いところなんて無かったはず。なのに、こんなにしてくれて…申し訳無い。

「せーぎ。」

正義を呼ぶ。

「みんな、悪くないよね?悪かったの私、だし。」

「んな事なかったぞ。厚意はありがたく受け取っとけ。」

「皆。佳乃は感謝してるとの事だ。ただし、やり過ぎには注意して欲しい。」

「感謝してるらしいぜ?日高さんが。」「やってよかったぁ」「これでチャラにして、仲良くなりたいなぁ」

「OK。静かに。佳乃は緊張すると話せない。それを悪用しないでやってくれ。昨日の…先生の話のような口車に乗せるような事も…」

ガラッ

「ドンドンやってくれ。素直と脳無しは紙一重だ。素直なだけじゃ駄目だという現実を教えてやれ。」

山田先生がタイミングを合わせて入ってくる。

「先生…」

「甘やかして人が成長すると思うな。突き放せとは言ってないがな。後は、自分のやれる事を考えろ。」

「ホームルームを始める。ん、日高?なんだその山は。そうか、こいつらの謝罪の分か。流石にそれを直す所は無いだろ?そうだな、寮に置いておくしかないな。でもその量は相当だもんな。そうだ。俺が運んでやる。30分したら帰るわ。うん。そうしよう。その間は好きにやれや。はい終わりー。」

一気にまくし立てて終わらせる先生。サボりたいだけなのでは?

そんなのほほーんと考えてる内に正義と石田君はもう動き始めていたとか。後から聞いた。

30分休みかぁ…ゆっくりしてよう。

先生がドアから出た瞬間、その思いはぶち破られる事に。

正義と石田君含む全員が席を立ちあがる。

「坂井!坂東!ドア封じろ!」

「聖を囲め!近寄らせるな!」

「日高さんっ!首振りでいいから質問していい!?」

わずか3秒である。完璧な連携と正義を抑える計画により、しっかり私に質問出来るようにしている。

…だが、そんなこと冷静に考えてなどない。その時はパニックそのものである。

だが、彼らにも1つ誤算があった。石田君の存在だ。

「お前ら待て。」

だがそんなノコノコと出て来たら…

「捕まえちまえ!」

捕まるでしょう。もはや山賊か何かのよう。

「日高さん、1つゲームをしないかい?」

首を傾げる。何故ゲームをいきなり?

「折角30分もあるんだ。僕達ひとりひとりと話し合ってても時間が足りないだろ?だから、ゲームをする事で皆で仲良くなろうって話だ。悪くないだろ?」

確かに…。仲良くなりたいけど、みんなの質問にしっかり答えられる自信は無い。

「俺はこの35人を引っ張ってきた九条だ。よろしくな。」

頭がキレそうな爽やかな男子である。

「聖と石田を離してやってくれ」

九条君が指示すると、正義と石田君は開放された。

「てめぇら…覚えとけよ…」

超睨んでます。怖い。

「全く…穢らわしい。」

石田君は毒がいつもより濃そうです。

「君たちもゲームに参加してほしい。もちろん日高さんと同じチームでいい。」

「前置きはいい…何をするんだ?」

正義は少し苛立っているよう。まあいきなり拘束されたら苛立ちますな。

「俺達は仲良くなりたいと思ってる。もちろんメインは日高さんだが。」

「そこでだ。6対6の鬼ごっこを提案する。というか、拒否権は認めない。」

強引である。



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