4月2日
隠しごとはできない
翌朝。とても沈んだ気持ち。やはり泣いたまま寝てたのだろう…
ともかく、朝食を作らなきゃ。朝は私1人で作る事に昨日決まった。あんまり人手は要らないから。
もう、不安になっても仕方無いのかもしれない。でも、気持ちはすぐには入れ替わらない。とぼとぼと洗面所に向かうのであった。
――
朝食が出来た。朝七時である。先生は朝は要らないとか。たぶん早くに出て仕事してるんだろうな…
この時、何を作ったのか…こうして書いている今でも思い出せない。そのぐらい不安でいっぱいだったのである。
「いい匂いだな…おはよう」
石田君が現れる。昨日と顔に変化が無い。不安や緊張は無いのだろうか?
「…おは…よ。」
正義がいないとまだ少し詰まってしまう。
「どうした?腫れぼったい顔してるぞ?」
すぐにバレます。
「ちょっと…ふあ、んで…」
「そうか…取り敢えず寝惚けた馬鹿を起こしてから話、聞かせてくれるか?」
頷く。隠す事では無いから。というか朝から寝惚けた馬鹿呼ばわりとは…今日も仲は悪くなりそう。
「起こして…くる、ね?」
「ああ、行ってきてくれ。アイツの寝た顔など見たくも無い。」
たった2日でここまで仲悪くなれるのも凄い事だと思うな。
――
正義の部屋に着く。正義が起きてこないのは今日だけじゃない。いつも起きるのが遅いのである。
ドアをノックする。
「起きて。」
…起きない。そうなると強行突破である。ドアを開ける。正義はいつでも私が駆け込めるようにドアを開けてくれている。でも、私以外が入る可能性もあるのでセキュリティーには十分に気をつけてほしい…
正義の部屋はなんというか…男の子って感じの部屋である。
元々ゲームも好きだからゲーム機はたくさんあるし、ダンベルやマットといった鍛錬用の器具もある。
あと車が結構好きなのである。ポスターが貼られている。
私も趣味は結構影響されて、ゲームや車について詳しくなってしまった。でも、楽しんでいるので特に後悔はしていない。
「せーぎ。起きないと間に合わないよ?」
「俺を正義と呼ぶやつは…佳乃、お前だけだな?」
「だって…呼びにくいもん。」
「一応無駄だろうが言っとくぞ…。俺はまさよしだ。あとありがとな。」
「ましゃよし…ま、まさよちっ…やっぱ無理。どういたしまして。」
「…はあ。ん?どうした、その顔?」
「どうしても不安で。ちょっと泣いちゃった。」
「そういう時のための俺だ。時間は気にせず頼っていい。何が不安だったんだ?」
「…ご飯食べながらでいい?」
「それもそうか。取り敢えず顔洗ってくる。先行っててくれ。」
「うん。」
先に戻る。石田君は暇そうにしてるかと思えば…
…英語の新聞を読んでいた。
「お、やっと起きたか。」
「その…英語、なの?」
「ん?これか。日本の新聞は好かん。どいつもこいつも媚びへつらった文ばかり書きやがる。海外の方が第三者としてしっかり中立の立場から真実を伝えている…」
「すご…いね。」
「英語は勉強次第では簡単に覚えられる。日高は英語、苦手か?」
頷く。数学程でもないが、あまり出来ない。
「そうか。なら英字の新聞を読めるようになるように勉強を教えてやろう。そうすれば学校で習う範囲なら完璧になるぞ?どうだ?」
「ありがと。お願、い。」
頷いて、新聞に目を戻す石田君。英語は苦手だが、教えてもらえるならありがたい。
「待たせたな…」
「遅い。」
「…悪い。」
流石に石田君の指摘に返す言葉も無い正義。
「まあいい。折角日高が作ってくれたんだ。ありがたく頂くとしよう。日高の話も聞きたいしな。」
そういって朝食(ホントに何か忘れた…)を食べる私達。
ぼそぼそと話し出す。
「ボク…中学の頃…初日いじめられなかったでしょ?だから…今日、いじめられたりするのかなぁっ…てっ」
また涙が出る。自分でも泣き虫だと思う。
「日高。悩んでどうなる?もうお前の問題はすぐそこまで迫っている。悩んでいる時間など無いぞ。」
「ボク…こわいよ…」
「だが、乗り越えなければ近づけない。足をこまねいて座る時間があるなら動けばいい。日高に今できること、なんだと思う?」
「分からない…」
昨日あれだけ考えたんだ。それでも出なかったんだ。
「佳乃。」
あくまでも答えは言わないみたい。考えて、考えて、考える。
「ヒントだ。考えて答えの出る事か?」
出ない。出ない事を考えても…意味がない。意味が、ない…?
「考えなくて…いいって…こと?」
2人とも頷く。でも、考えなくても不安で押しつぶされそうになる。
「考えるな。思うな。それは過去だ。中学の奴らはカスだった。お前らは違う。だから…大丈夫なんだ。」
「佳乃。お前が不安になる気持ちは分かる。でもあいつ等はなんか、良い奴な気がしないか?今までの気持ちを全て捨てろ、とは言えない。俺も許せないような仕打ち、受けてたのも知ってる。でも、一度だけ。あいつ等を信じてみないか?」
2人とも励ましてくれる。やはり不安は完全には消えない。だけど、少しぐらいは…信じてみても良いのかもしれない。
「さあ、やってやろうぜ。楽しい高校生活の幕開けだな!」
楽しい、未来を。
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