反りの合わない2人
現在3時半。私達3人はお散歩がてら買い出しに向かう。
「佳乃。何か、散歩の行くあてはあるのか?」
首を振る。思いつきである。
「なら、商店街側に歩きつつ、寄りたいとこがあるなら寄ればいいんじゃないか?」
石田君の提案に頷く。ひとまずそれで、決まりだ。
私達は商店街…東へと歩く。
右に正義。左に石田君。2人に挟まれる形で寮の外へと出る。改めて感じるのはとてつもない身長差である。私が140。正義は182もあるのだ。それに石田君も下から見ているから正確には言えないが、正義と同じほど長身。つまり、前から見ればv字型の構成である。ちびこいのはあまり気にしていないが、流石にこの2人に挟まれるといたたまれない気持ちになる。
…そしてこの2人。相性が悪いのである。
「佳乃、行きたいとこあったら言えよ。」
頷く。
「日高。近くに神社があるぞ。どうだ?」
頷く。
「佳乃、神社は夕方に行っちゃいけないっていわれるだろ?水車が近くにあるらしいぞ?そっちはどうだ?」
首を傾げながら頷く。
「日高。水車は個人の所有物だと聞いている。不法侵入になるぞ?だからそうだな…公園なんかも近くにあったはずだ。どうだ?」
「佳乃、公園はな…」
まだ言い合う2人の袖を引っ張って止める。
「2人で…はぁして?」
私を挟んで喧嘩しないで欲しい。てかなんでこの2人はこんなにこの場所に詳しいんだろうか…?
「…」
見つめ合う2人。もしかしたら睨み合ってるのかも。下からだとよく見えない。
「俺の意見を否定しているのは誰だ?お前の方からだよな?」
「神社の夕方は霊的な関係から良くない…一般的な常識を話したつもりだったが…知らなかったか?」
「そういうお前も水車は私有地なのは知らなかったのか?常識だろ?」
間違いない。この2人絶対睨み合ってる。
「ボク…お腹空ぃた」
本当のところ、お腹は空いていなかったが、なにか目的地を決めないと一生喧嘩してそうだ。
「そうか。なら商店街に行くか。」
「それ…いい?」
2人とも頷く。頼りになるけど、変な所で子供な2人だ。
――
5分ほどすると商店街が見えてきた。商店街といってもこじんまりしたもので、あまり店の数は無いが、基本はそこに揃っている、といった感じである。今までも2回ほど利用した。
「そろそろだ。」
石田君が5分ぶりに話す。
「見たとおりだがな。」
正義も5分ぶりに嫌味をいう。
私も5分ぶりにアタフタする。
「…何が食べたい?そもそも今日の夕飯は何にするんだ?」
大人になったようです。石田君。
「あまぃ…もの?」
「そうか、探してみるか。」
ひとまずは甘いものを探します。あんまりガツンと食べるとお腹に入らないですから。
「石田。」
心底嫌そうに名前を呼ぶ正義。
「何だ?」
こちらも嫌そうに返事をする石田君。
「お前…料理は出来るのか?」
「…出来ないが。馬鹿にしたいのか?」
「いや…俺も…出来ないんだ。」
「そうか…日高には、悪いな。」
「そうだな…」
…謎の親近感が湧いたようです。仲良くなってくれるといいのですが。
「夕飯のメニューに関しては佳乃に任せてもいいか?俺達も手伝うが、どうも勝手が分からん…」
頷く。ご飯を作るのも考えるのも好きなのである。
「助かる。早速で悪いんだが、今日のメニューは何にするんだ?」
困ったものである。特に寮には食材も無かったので、迷うところ。
「食べたいもの…無いの?」
「「肉。」」
声が揃うのが嫌だったのか睨み合う2人。
「…唐揚げ。しよう。」
「了解だ。」
案外唐揚げは楽である。タレに漬け込んで、片栗粉を揉み込んで、揚げるだけ。誰でも簡単に出来る。
となると必要になるのは料理酒、醤油、鶏もも肉、片栗粉。レモンとキャベツも欲しいな。色付けにパセリもいいかも。それに…
「おい。大丈夫か。」
心配そうに石田君がしゃがみ込んで私の顔を見る。
考え込んでいたみたいである。
頷いて、取り敢えず歩く事にする。スーパーなんて便利な施設は無いから、一つ一つ買っていくしかない。
取り敢えず調味料ぐらいは揃えておきたいものである。
今日も商店街は活気づいた雰囲気がある。呼び込む八百屋さんのおじさんに、隣同士だからか、和やかに談話している肉屋さんと魚屋さん。店の商品を陳列させている服屋さん。前来た時の光景そのままである。
流石にブランドや流行にのってそうな若者向けのお店は全く無いが、隣町まで行けばあるとかなんとか。正義が下調べしてたらしい。
ともかく、軽食と買い出しぐらいならちょうど良い場所なのである。
「甘いもの…か。」
ボソリと正義が呟く。
「…いや?」
「違う。何があるか考えていたところだ。」
「クレープやスムージーなんかは無いだろうな…あってたい焼きとかか?」
「…たい焼きならある。前見た。」
返答するのが嫌なのか少し間を開けて話す石田君。
「んぅ。それで。」
「決まり、だな。」
「確か、こっちだ。」
…本当にあった。一度見かけただけで位置まで覚えていたとは驚きである。
「はい、いらっしゃい!」
おじさんが私達に気付いて声をかける。
「たい焼き、3つ頂こう。」
石田君。言い方がシンプル過ぎてお店のおじさん困惑です。
「ええっと…つぶあんで普通の大きさのたい焼きを3つって事かな?」
「そうだ。」
口調に優しさが見えません。
しばらくして、
「ほらよ。兄ちゃん。ありがとな!」
「ああ。」
お店のおじさんは手を振りながら見送ってくれる。石田君は背を向けたまま一度も振り返ること無く歩き出す。
代わりに手を振っておいた。笑顔になってくれたみたいだ。
「はぁ…石田。お前、無愛想すぎないか?」
「何がだ。愛想など振りまくだけ無駄だ。損だ。」
「百歩譲ってお前のその態度は見逃してもいい。ただ、お前は周りを見れていない。」
「周り?たい焼きを買うって話で落ち着いただろ?」
「ああそうだ。だがな、なんの味をどのサイズで買うか話し合ったか?」
「…いや。だが、オーソドックスな物を買うものじゃないのか?」
「1人1人に事情があるかも知れねぇだろ?例えばだ。佳乃はあまり食べられない。腹が空いてようと、たい焼き1つ食べるだけで腹が満たされるだろうな。今までの経験から言えることだ。」
…たぶんそうである。美味しそうなたい焼きだが、少々私にしては大きい。いつもは手に乗るサイズの小さなものか、正義と半分こして食べていた。後、味はクリーム派である。つぶあんも好きだけど。
「…」
黙り込んでしまう、石田君。
「分からねえかもな。俺、お前と話しているとなんだかイライラするんだよ。それはお前の考え方が俺と真っ向して反対だからだろうな。お前は思った通りに動いて話してる。人に相談せずにな。もちろん悪いことじゃあねぇんだろうよ。でも、時には我慢も必要だ。相談も必要だ。自分の意見を曲げない事が正解じゃ、ねぇと思う。」
「…お前に何が分かる?人に相談しない?相談相手がいなかったのに?思った通りに動く?そうでもしないと飲み込まれるのに?こうやって生きてこないと俺は…」
「…寮に帰る。悪いが、落ち着きたいんだ。」
踵を返して石田君は戻っていく。
「言い過ぎちまったか…」
「石田君…悲しそうだった。ボク達と同じで、昔、何かあったんじゃ無いかな…?」
「相談相手がいなかった…思った通りに動かないと飲み込まれる…分からねぇ、全く状況が掴めねぇ…」
「ボク、難しいこと分からないけど。とにかく材料だけ買って、寮に戻って話、聞こ?」
「…そうだな。」
人に相談できなかった石田君…正義という相談相手がいない中学生活だったら私はどうやって過ごすのだろうか?私は…どうなっていったのだろうか…
そんな事をぼんやりと考えながら食材を調達しに行くのであった。
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